生物

2026年1月15日

目次

生物への放射線の影響

生物への放射線の影響の分類
生物への放射線の影響は、次の3つに分類されます。

①被ばく後から発病までの期間による分類
・被ばく後、すぐに現れる急性影響。
・被ばく後、しばらくしてから現れる晩発影響。
②影響の現れ方による分類
・ある値以上の被ばくをすると、影響が現れ始める確定的影響。
・被ばく量が増加すると、影響の現れる確率が高くなる確率的影響。
③誰に影響が発現するかによる分類
・被ばくした本人や細胞に生じる身体的影響。
・被ばくした人の子どもや子孫、また、細胞の娘細胞に生じる遺伝的影響

被ばく後から発病までの期間による分類

放射線被ばくの影響は、被ばくから疾患が発現するまで、一定の時間がかかり、この時間を潜伏期間といいます。
潜伏期間が2~3か月以内の影響を急性影響または早期障害といい、潜伏期間が数か月以上の影響を晩発影響または晩発性障害
といいます。

急性影響

急性影響は、短時間で大量の放射線を被ばくした臓器などの細胞が死亡することで生じます。
細胞の死は一般に細胞分裂が盛んな造血臓器、消化管、生殖腺、皮膚などで多く生じます。
急性影響の潜伏期間は、一般に被ばく線量が高いほど短くなります。
急性影響には、造血器官機能不全、不妊、皮膚の紅斑、脱毛、骨髄死、腸死があります。

晩発影響

晩発影響は被ばくして、数か月経過した後、または致命的にならない程度の急性影響が生じた後、その影響が消えてからしばらくして身体に生じる疾患です。
晩発影響には、確定的影響の白内障や、確率的影響の発がん、遺伝的影響などがあります。晩発影響のうち、確率的影響の障害は被ばくした細胞内に突然変異が起こることで発症します。

影響の現れ方による分類

放射線が生物へ与える影響には、確定的影響と確率的影響があります。

確定的影響

確定的影響は、影響が生じる最小線量(しきい線量)があり、それ以上被ばくすると、線量の増加に伴い、発生確率と疾患の重篤度が増加する影響です。
しきい線量は、生体組織に機能不全や細胞死などの疾患が現れる最小の被ばく線量です。
多くの場合1Gy程度以上で、それ以上の線量になると、線量の増加とともに影響の発生率もS字型(シグモイド型)で増加し、重篤度も増します。
確定的影響の疾患は、多数の細胞が放射線によって傷ついたときに生じます。
疾患の例として、自内障、胎内被ばくによる奇形・精神遅延、不妊、脱毛、皮膚損傷、造血器官障害などがあります。
不妊では、男性は女性より低い線量で一時的不妊になります。

確率的影響

確率的影響とは、一定量の放射線を被ばくしても、必ず影響が現れるわけではなく、「放射線を受ける量が多くなるほど影響が現れる確率が高まる」影響です。
たとえ照射線量が低くても、突然変異が誘発される細胞は発生します。
1個の細胞でも、それが増殖し、発がんや遺伝的影響が発現する可能性があります。
被ばく線量が増えると、突然変異を誘発される細胞数は確率的に増加するため、確率的影響といいます。

確率的影響には、放射線で損傷した単一体細胞に起因する発がんと、放射線で損傷した単一生殖細胞に起因する遺伝性疾患の2種類があります。
がんや遺伝性疾患では、発生確率が線量に比例するという仮定が成り立つと考えられ、単一体細胞によるがん発病の確率的影響は、約100mSv以上で確認されています。
確率的影響は1個の細胞に起因するため、しきい線量はありません。
また、線量が増加しても発病の重篤度は変わらず、発生確率だけが増加するとみなされています。
ただし、 1個のがん細胞ががん組織となるには10億個以上に、遺伝性疾患では140兆個以上に増殖する必要があるため、発病までに長い時間がかかります。
そのため、確率的影響には急性障害はありません。

誰に影響が発現するかによる分類

放射線の影響は、被ばくした本人に生じる身体的影響と、その人の子どもや子
孫に身体的または生理的な障害が現れる遺伝的影響とに大別されます。

遺伝的影響

遺伝的影響は、人の生殖腺(男性の精巣、女性の卵巣)が被ばくし、染色体の異常や遺伝子の突然変異が生じることで起こります。
遺伝的影響の原因には、遺伝子突然変異と染色体異常の2つがあり、どちらも生殖腺以外の被ばくで生じることはないので、閉経後の女性は考慮する必要がありません。
一方、生殖年齢または生殖年齢以前に被ばくした場合に生じる可能性があるので、子どもが被ばくした場合でも遺伝的影響が現れることがあります。

遺伝的影響の特徴
・遺伝的影響は確率的影響に分類され、しきい線量はありません。
・遺伝的影響の重篤度は線量に依存しません。
・子どもに発現しなくても、孫以降の子孫に発現する可能性があります。
・原爆被ばく者の調査では遺伝的影響は見つかっていません。
・遺伝性疾患のうち、毛細血管拡張性運動失調症はX線に対して高致死感受性を示します。
・放射線に高い感受性を示す遺伝病には免疫異常が多い、発がん頻度が高い、DNA修復機能に異常を持つ場合が多くあります。
・色素性乾皮症とブルーム症候群は紫外線に対して高致死感受性を示します。
なお、被ばくによるDNAの損傷によって生じる生殖腺の死、不妊、がん、胎内被ばくによる奇形は、身体的影響であり、遺伝的影響ではありません。

放射線による遺伝的影響を推定する指標として直接法と倍加線量があります。

直接法は、動物に放射線を照射して単位線量当たりの誘発突然変異を調べ、その線量と誘発突然変異の関係を求め、その結果を人間に適用する方法です。
倍加線量とは、放射線の照射により、突然変異の発生率が自然に発生する値の2倍となる線量を求める間接的な方法です。
求めた線量の値が大きいほど、遺伝的影響が起こりにくくなります。人間の急性被ばくの場合、倍加線量は0.2~2.5Gy程度と推定されています。

内部被ばくと外部被ばく

放射性核種が体内に取り込まれ、体の内側から放射線を受けることを内部被ばく(体内被ばく)といいます。
体の外部にある放射線源から放射線を受けることを外部被ばく(体外被ばく)といいます。

外部被ばくでは、γ線やX線、高エネルギーβ線や中性子線のような飛程の長い放射線が問題になります。
内部被ばくでは、それ以外にLETが大きく、飛程の短いα線や低エネルギーβ線なども問題になります。

サブマージョン

原発事故などで空気中に放出された放射性核種の貴ガスや微粒子ウランなどの雲をプルームといいます。
全身がこれに包まれると、外部被ばくと、呼吸により肺内に入った物質による内部被ばくの両方が生じます。
この状態をサブマージョンといいます。

放射性核種の取り込みと排出

放射性核種を体内に取り込む経路

・経口摂取
水や食物などを飲み込むことで、国から放射性核種が体内に取り込まれることです。
取り込まれた放射性核種のうち、水に可溶なものは小腸で吸収され、血液などの体液に取り込まれて全身に移行します。

・吸入摂取
呼吸などで気道や肺に取り込むことです。
取り込まれた放射性核種のうち、水に可溶なものは体液に溶け込みます。
一方、酸化プルトニウムなどの不溶性物質は肺の内部に沈着します。

・経皮吸収
皮膚を通して放射性核種が取り込まれることです。
水や水蒸気状のトリチウムは健康な皮膚を通して吸収されます。
また、皮膚に傷があると、傷口から放射性核種が体内に取り込まれます。

放射性核種を体内から排出する経路

体内に取り込まれた放射性核種は、国際放射線防護委員会(ICRP)代謝モデ
ルのように、小腸に吸収されないものは便として排泄されます。
また、血液などの体液に吸収されたものは臓器親和性やその他の臓器にとどまった後、肝臓や腎臓で代謝され尿として体外に排泄されます。

有効半減期

排泄など生物学的要因により体内の放射性核種の量が半分になる時間を生物学的半減期Tbといいます。
放射性核種は物理的半減期Tpで壊変しているので、体
内に残留している放射性核種の放射能が取り込んだときの半分になる有効半減期TeはTp、Tbと次の関係があります。

1/Te=1/Tb+1/Tp これを整理すると、Te=(Tb×Tp)/(Tb+Tp)
このTeを有効半減期または実効半減期と呼びます。

臓器親和性核種

放射性核種などの元素はその物理的・化学的特性により、特定の組織・臓器に集積することがあります。
これを臓器親和性(親和性臓器)といいます。

131Iは甲状腺に、不溶性で粒子状の239Puは肺に沈着します。
骨はリン酸カルシウムでできているので、32Pやカルシウムと同じアルカリ土類の90Sr、226Raが集積します。
なお、骨に沈着する核種は骨親和性核種ともいいます。
鉄は赤血球の主要成分であるヘモグロビンの構成要素であることから、造血器、肝臓、脾臓には55Feや59Feが集積します。
また、60Coは肝臓、脾臓に集積します。
137Csは全身の筋肉に集積します。
これに対し、3H、14Cは特定の臓器に集積することなく全身に分布します。

預託等価線量と預託実効線曇

放射性核種が摂取されると、親和性のある臓器などに集積し、長期にわたって人体に内部被ばくを起こします。
これが人間にどの程度の被ばくを与えるかを評価する線量として、預託等価線量と預託実効線量があります。
預託等価線量は放射性物質の体内への摂取後、臓器・組織が受ける等価線量率を成人の場合は50年間、子どもの場合は70歳になるまでにわたって積算した線量です。
預託実効線量は各臓器・組織が受けた預託等価線量とその臓器・組織の組織加重係数との積の全身の総和です。
単位はいずれもSvです。
人間が受ける被ばく線量の線量限度を計算するときには、預託実効線量を最初の1年間にすべて内部被ばくしたものとみなします。

リスク

リスクとは放射線被ばくの場合、健康や生命に被害や悪影響、危険を与える可能性を指す心理的な尺度です。
リスク評価は、リスクの大きさを定量化して比べたり、現状把握をする方法ですが、心理的尺度では定量的に扱えません。
このため、リスク評価では、最初に工学的・数学的にリスクを定義します。
放射線では、がんの生涯リスクの推定を対象に、次の6つのリスクが定義されています。

相対リスク

ある疾患への被ばくの影響について、性別、年齢などが等しい対照集団と比較して被ばく集団のリスクが何倍になっているかを表すものです。
例えば、白血病は被ばく後数年以上経って発病する影響の中で最も相対リスクが大きく、1Gy当たり約5~6になります。
相対リスクが1なら、放射線被ばくはリスクに影響を及ぼしていないことを意味します。

過剰相対リスク

相対リスクから1を引いた値で、相対リスクのうち、被ばくのリスクが占める部分をいいます。

絶対リスク

観察の全期間にわたって、集団中に生じた疾患のうち、放射線被ばくにより影響を受けた総数または率をいい、通常、人年で表します。
相対リスクが被ばくにより過剰に発生するリスクを表している(すなわち、影響の大きさを表している)のに対して、絶対リスクは影響を受けて罹患した人数を表します。
したがって、集団全体に対する影響の大きさを表す指標となります。
例えば、自血病は相対リスクが最も大きな値を持ちますが、被ばくにより白血病に罹った人の総数は90ないし100例と推定されています。
これに対して、固形がん(胃がん、肺がんなどで塊をつくるがんの総称で、白血病など血液のがん以外をいいます)の相対リスクは1.5と低いのですが、放射線被ばくにより固形がんに罹った人の総数は約850例とはるかに多くなっています。

過剰リスク

過剰リスクは、「被ばくによりある疾患の発生率がどれだけ過剰になるか」を表すものです。
過剰リスクは、被ばく線量、被ばく時年齢、被ばくからの経過時間、現在の年齢、性別などのさまざまな因子によって変わります。
原爆被ばく者のリスク評価は他の重要な因子との組み合わせ回帰分析法を使って行われます。
リスクの推定値は通常、他の重要な因子との組み合わせに対して、特定の線量(通常1Gyまたは1Sv)当たりとして報告されます。
一般に、単一の値を用いて過剰リスクを求めることはできません。

過剰絶対リスク

被ばく者集団の絶対リスクから、放射線に被ばくしなかった集団の絶対リスク(自然リスク)を引いたものです。

リスクの大きさ

発がんリスクは、大人より小児のほうが高くなります。
絶対リスクは観察の全期間の積算数なので、年齢にかかわらず一定となります。
自然放射線の発がんへの寄与は、喫煙より小さい値です。

放射線によるDNA損傷

DNA

DNA(デオキシリボ核酸:deoxyribonucleic acid)とは、リン酸、糖(デオキシリボース)、4種の塩基(アデニン:A、グアニン:G、シトシン:C、チミン:T)で構成されるデオキシリボヌクレオチドが鎖状の高分子となったもので、鎖が2本水素結合でつながり、二重らせん構造を形成しています。
DNAは生物の遺伝情報を担う重要な物質であり、この情報を基に、異なった機能を持つタンパク質が合成されます。
放射線がDNAを切断したり構造を変化させたりすると、細胞死や突然変異、遺伝的障害などを起こします。

DNA損傷

DNA損傷の種類
DNAは生命現象のすべての情報を持つので、放射線がDNA分子に損傷を与えると、その損傷は生体に急性あるいは晩発影響(発がん、寿命短縮など)を引き起こします。
また、その損傷が卵子などの生殖細胞中のDNAに起こると、遺伝的影響として次世代に残る可能性があります。
放射線が起こすDNA分子への損傷は、次の4種類があり、放射線の種類に関係なく発生します。

①一本鎖切断
二重らせんの二本鎖のうち、一方の鎖のみが切断される現象です。

②二本鎖切断
二重らせんの二本鎖が両方とも切断される現象です。
二本鎖切断は修復されにくく、修復されてもDNAの塩基配列が元通りにならないことが多く
あります。
DNAの塩基配列が変化すると、この遺伝子情報を基に合成されるタンパク質が、目的と異なる機能を発現してしまい、細胞死や突然変異を誘発します。
このように、DNA損傷は生体に大きな危険を生じます。

③塩基損傷
塩基損傷には、脱塩基(脱プリン反応)、紫外線損傷などがあります。
・脱塩基:チミンやシトシンなどのビリミジン、アデニンやグアニンにあるプリン塩基の5位の炭素と6位の炭素の間の二重結合にヒドロキシルラジカルが作用すると、グアニンなどが離脱して塩基の欠失した場所が生じます。
ここをAP部位(脱プリン・脱ピリミジン部位)といいます。
・紫外線損傷:紫外線は、放射線ではありませんが、長波長のX線やγ線と波長が近い電磁波のため、X線などと同様に、分子の結合を切断します。
例えば、ビリミジン同士が隣接している部位に作用し、シクロブタン型のビリミジン2量体と6-4光産物をつくります。
④架橋
DNAが他のDNAやタンパク質、さらに自分自身などと共有結合して結びつく現象です。
約5個の二本鎖切断に対して1個の分子間架橋が生じるといわれています。
塩基損傷や架橋が起こると、DNAの誤修復などが起こり、種々の突然変異や発がんに関与したり、遺伝的影響が生じたりします。

放射線によるDNA損傷の発生割合

X線やγ線などの間接電離放射線は、DNA鎖切断と塩基損傷の両方を生じます。

DNA損傷の修復

生物はDNA損傷を処理するための修復機構を持っています。
この修復機構によって、DNAが正確に修復されれば細胞は正常に増殖しますが、修復が正しく行われないと突然変異が起こります。

DNA損傷の修復機構は、DNA分子の損傷の様式、細胞の老化状態、細胞周期などによって異なります。

塩基除去修復とヌクレオチド除去修復

DNAの2本の鎖は、4種類の塩基のうち、A-TまたはG-Cの結合でのみ結びつくので、二本鎖の一方しか傷ついていなければ、切断されていない鎖の対応する結合を再生することで正確に修復できます。
塩基損傷では、傷ついた部位の前後でDNAの一部を削除し、向かい側のDNA鎖を鋳型として再生します。
この修復を塩基除去修復といいます。
一本鎖切断では、切断部位を含む広い範囲を削除した後、鎖の欠陥を修復します。
これをヌクレオチド除去修復といいます。

二本鎖切断の修復

二本鎖切断の修復には、相同組換と非相同末端結合があります。

①相同組換
DNAの切断部分に相同な遺伝子情報を持つ染色体を、鋳型を元に修復します。
この方法では、切断部分と遺伝子情報のどちらも正確に修復できますが、鋳型とする相同な染色体を必要とします。
②非相同末端結合
損傷により生じた2つの末端をそのままつなぐ修復機構です。
この機構では、しばしば切断部分のDNAの一部が失われて構造が変わり、変異が多く起こります。
この2つの修復機構は細胞周期によって役割が変わり、G1期の細胞では非相同末端結合が主となり、S期後半では相同組換が主となります。

損傷と修復に関わる用語

酵素

酵素は生体反応の触媒作用を行うタンパク質で、触媒作用を受ける物質を基質といいます。
基質は酵素分子の表面の特定の部位に結合して酵素―基質複合体を形成後、生成物に変わります。
生成物は酵素から離脱し、酵素は元の状態に戻ります。
放射線照射などで酵素の触媒活性が失われることを不活化といいます。

線エネルギー付与(LET)

放射線が生体へ与える影響の大きさは吸収線量で評価します。
しかし、放射線のエネルギーが同じでも、種類によって直接・間接的にDNAを損傷する場合、電離の空間分布が違うため、生体に与える影響が異なります。
例えば、α線は短い飛跡の間に多くの分子を電離するので、二本鎖切断が多く生じます。
一方、X線は電離される分子間の距離がDNA分子の大きさより長いので、二本鎖切断の確率は小さくなります。
このように、放射線が生体分子に及ぼす影響は単位飛跡に沿って放出されるエネルギー量の大小によって異なるため、放射線の線質の違いを定量的に測る指標として線エネルギー付与(LET:Linear Energy Transfer)が導入されました。
LETの値は、X線で2~5keV/μmですが、α線では120keV/μmと大きな値となります。
放射線のうち、X線とγ線はLETが小さいので低LETと呼び、α線、β線、中性子線、陽子線、重イオン線は高LETと呼びます。

生物学的効果比(RBE)

LETは、放射線が単位飛跡に放出するエネルギー量に対する指標ですが、LETの異なる放射線が生体に及ぼす効果の違いを量的に表したものが生物学的効果比(RBE:Relative Biological Effectiveness)です。
RBEは、基準となる放射線が生体にある効果を与える吸収線量と、問題にしている放射線が生体に同じ効果を与えるのに必要な吸収線量の比を表すもので、次式で定義されます。

生物字的効果比RBE=ある効果を得るのに必要な基準放射線の吸収線量/同一効果を得るのに必要な対象放射線の吸収線量

例えば、X線を基準放射線とし、半数のマウスに白内障が生じる線量が8Gy、同じ効果を与える中性子の吸収線量が2GyならRBEは4となります。
RBEは、放射線の線エネルギー付与(LET)に依存していて、LET値が80~200keV/μm付近のとき最大値を示します。
それより高いLET値では、RBE値は徐々に減少します。
また、RBEは細胞致死や突然変異誘発、発がんなど指標のとり方、細胞の種類、線量、線量率、酸素分圧、温度などによっても変化します。
基準となる放射線源として、X線や60Coのγ線が使用されます

直接作用と間接作用

放射線が生物のDNAを損傷する機構には、放射線がDNA分子を直接損傷させる直接作用と、放射線が水分子を励起・電離してラジカルが生じ、それがDNAを損傷する間接作用の2つがあります。

直接作用

標的分子(DNA分子)に放射線が衝突すると、その分子は励起または電離し、不安定な状態になります。
この不安定な状態の分子は安定状態に移行する過程で結合が切れ、2つの分子に分解します。
このように放射線で直接標的分子を損傷することを直接作用といいます。
α線や重粒子線のような高LET放射線では、直接作用の寄与が大きくなります

間接作用

生体のDNAは水中に存在しますが、放射線はこの水分子を10-16秒程度の時間で励起・電離します。
励起した水は解離し、ヒドロキシルラジカル(OHラジカル)と水素ラジカルを生じます。
また、水が電離するとH2O+とeが生じます。
H2O+は非常に不安定で、直ちに分解してヒドロキシルラジカルを生じます。
一方、eはその周りに水分子が配列して水和電子となります。
このようにして生じた反応性が高いラジカルは10-12~10-4秒程度の時間で標的分子(DNA分子に作用して損傷を生じさせます。
このように放射線が水分子の励起・電離でラジカルを発生させ、間接的に標的分子を損傷することを間接作用といいます。
間接作用では、ヒドロキシルラジカルによるDNA損傷が最も大きく寄与しま
す。
X線やγ線のような低LET放射線による損傷では、間接作用によるDNA損傷が50~80%を占めています。

放射線による水の励起と電離

水に放射線を照射すると、水分子を励起・電離し、次の活性種が生成します。

酸素分子

・不対電子を2個持つ「ビラジカル」と呼ばれるフリーラジカル。
・酸素分子が2電子還元されると、過酸化水素が生成されます。
・酸素分子が3電子還元されると、ヒドロキシルラジカルになります。

過酸化水素(H2O2)

・不対電子を持たないのでラジカルではないが、強い酸化剤です。
・過酸化水素は生体内のカタラーゼ酵素や鉄(Ⅱ)イオンなどにより、酸素と水に分解されます。
2H2O2→O2+2H2O
・過酸化水素は細胞膜を透過します。

ヒドロキシルラジカル

・ヒドロキシルラジカルは極めて反応性が高く、強い酸化力を有します。
・DNA損傷を引き起こす主要な原因です。
・グアニンとの反応性が高く、8-ヒドロキシルグアニンを生成します。
・ヒドロキシルラジカルは中性で、OHと違い、pHに影響を与えません。
・ヒドロキシルラジカルの寿命は極めて短く、μ秒オーダーです。

水和電子(eaq)

・水和した電子で、強い還元剤です。数百μ秒程度で水素ラジカルとOHに分解します。
日水素ラジカル(HO)
・水素原子のlS軌道に電子が1個だけあるもので、強い還元剤です。

スーパーオキシド(スーパーオキサイド O2・)

・水和電子と酸素との反応で生じます。
・酵素反応により過酸化水素を生じます。
・酵素のSOD(superoxide dismutase)は、スーパーオキシドを選択的に過酸化水素と酸素に不均化します。
2O22-+2H+→O2+H2O2

スプール

液体や分子性団体に放射線を照射すると、その進路に沿って断続的に励起や電離が起こり、そこからイオン、不対電子を持つたラジカル、水和電子などが混ざったスプール(スパーともいいます)が生じます。
単位長さ当たりのスパー数はLETが大きいほど多くなります。

間接作用の修飾効果

放射線の間接作用に影響を与える修飾効果には、次の4つがあります。

酸素効果

X線やγ線を酸素分圧が高い状態で培養細胞に照射した場合、無酸素状態で照射した場合に比べて致死効果が大きくなります。
これを酸素効果といいます。
この機構は、酸素の存在がラジカルの生成量を増加させる、また標的分子の損傷が酸素と反応してより修復されにくい形になると考えられています。
酸素効果の程度を表す指標としてOER(Oxygen Enhancement Ratio)があります。
これは、無酸素状態で一定の細胞致死効果を得るのに必要な線量を、酸素分圧の高い状態で同等の効果を得るのに必要な線量で割ったもので、X線やγ線の場合にはその値の最大値は2~3程度です。
高LET放射線は主に直接作用を起こすので、低LET放射線に比べて酸素効果は小さくなります。
酸素効果は、酸素濃度が比較的低い領域で起こり、酸素分圧が53~66hPa(大気圧の約5%)以上になると効果は一定になります。

化学的防護効果

放射線照射による生体の障害を防御する薬品を防護剤やラジカルスカベンジジャーといいます。
アルコールやグリセリンなどは照射で生じたヒドロキシルラジカルを取り除き、DNAの切断を軽減・抑制します。
これを化学的防護効果といいます。
この防護剤の効果は、直接作用が主の高LET放射線より低LET放射線で顕著に現れます。
生体中に含まれるSH基を有するシステイン、システアミン、グルタチオンはSH基の水素をラジカルに渡してラジカルを失活させるラジカルスカベンジャーでDNAの損傷の発生を減少させます。

希釈効果

放射線で水中に生じるラジカル数は全酵素に関わらず同じです。
このため、間接効果で不活性化される酵素数は、全酵素数によらず一定になります。
一方、放射線が水中で酵素と衝突する確率は、酵素の濃度に比例するので、直接作用では酵素の濃度低下とともに衝突で不活性化される酵素数は減少します。
この効果を希釈効果といいます。

温度効果

直接作用による放射線の影響は温度の影響をあまり受けませんが、間接作用は温度が下がると減少します。
これを温度効果といいます。
温度が下がるとラジカルの拡散速度が低下し、DNAと衝突する確率が低くなるためと考えられています。

細胞周期

増殖の盛んな細胞では、細胞分裂が繰り返されています。
細胞は分裂した後、G1期、S期、G2期、M期の4つの期間を経て次の分裂に至ります。
この4期間のサイクルを細胞周期といいます。
S期はDNAを合成(Synthesis)する期間です。
この期の細胞を外形から区別することは困難ですが、DNAを合成するためにチミジンを取り込むので、チミジン量を測定することで識別できます。
M期は細胞が有糸分裂(Mitosis)する時期です。
はじめ同じ遺伝情報を持つ2つの核に、次いで2つの細胞に分裂します。
このとき、細胞内に糸状の物質が現れ、外観からも観察されるので、この期の細胞を識別できます。
G1期は細胞が大きくなる期間で、G2期はDNAの合成後細胞がさらに大きくなる期間です。
英語のすきまを意味するGapの頭文字から名付けられています。
M期は細胞分裂期とも呼び、それ以外のG1期→S期→G2期を合わせて間期と呼びます。

細胞周期には、細胞が一時あるいは半永久的に増殖を休上している期間があります。
この期間をG0期といい、G1期から移行します。
神経細胞や心筋細胞は分化後G0期の非分裂細胞となり、成熟し、神経や筋肉細胞として働きます。

放射線感受性の細胞周期依存性

細胞周期をそろえた培養細胞の各時期に放射線を照射し、その後の生存率を解析すれば、放射線感受性の細胞周期依存性を調べることができます。
一般的に細胞はG2期の後半からM期に照射した場合が最も高い感受性を示します。
また、G1期の後半からS期初期の前半への移行期も高い感受性を示します。
これに対し、S期後半の細胞では感受性が低くなります。
放射線感受性の細胞周期依存性は、DNAの二本鎖切断損傷の修復能の違いによると考えられています。
二本鎖切断は、非相同末端結合と相同組換で修復されますが、S期後半ではより正確な修復ができる相同組換が主のため、放射線感受性が低くなると考えられています。

細胞周期ごとの放射線感受性
G2期~M期>G1期>S期初期前半>S期後半

細胞周期が一時停上するチェックポイント

細胞周期の進行は、サイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependentkinase:Cdk)という一群のタンパクリン酸化酵素によって制御されています。
増殖している細胞に放射線照射をすると、細胞はDNA損傷を感知し、3つの時期で細胞周期が一時的に停止します。
この3つの時期をG1期チェックポイント、G2期チェックポイント、S期チェックポイントと呼びます。
この細胞周期の停止には、がん抑制タンパク質のp53や、ヒトの放射線高感受性遺伝病である毛細血管拡張性運動失調症の原因タンパク質であるATMなどの細胞内情報伝達系の関与が知られています。
DNAが損傷すると、これらの物質が活性化し、最終的にCdk 1やCdk 2を抑制して細胞周期を停止させます。
DNA損傷の場合、細胞はG2期チェックポイントで停止します。

細胞死の標的理論

放射線が生物に作用すると、細胞死、細胞分裂阻害、個体の致死、発生異常、物質代謝異常、突然変異、染色体異常、がんなどが引き起こされます。
これら引き起こされた現象を、生物影響や生物学的効果といいます。
放射線の線量と生物影響の間の量的関係(線量効果関係)を表すモデルには、微生物や代表的な哺乳動物細胞から実際に得られた生存曲線をよく説明できる標的理論と、哺乳動物細胞の標的はDNAの二本鎖切断であるとする直線一二次曲線モデルの2つがあります。

標的理論

標的理論では、次の2つの仮定をしています。
・細胞内に1か所または複数か所の標的と呼ぶ特別な場所があり、 1つの細胞のすべての標的が放射線でヒット(当たる)されると細胞死となります。
・ヒットは互いに独立して起こり、その確率はポアソン分布に従います。
標的理論で細胞内の標的が1か所のものを1標的1ヒットモデル、数か所の標的にそれぞれ1回ずつヒットするものを多標的1ヒットモデルといいます。
この他に1標的多重ヒットモデルと多重標的多重ヒットモデルがあります。

例えば、線量Dの放射線によって標的に平均m個のヒットが生じたとすると、
1個の標的にr個のヒットが生じる確率P(r)は、次式で表されます。
P(r)=exp(-m)×mr/(r!)
ここで、 1標的1ヒットモデルでは、細胞が生き残るのは標的が受けるヒット数rが0個の場合ですから、生存する確率(生存率)Sは、
S=P(0)=[exp(-m)]となります。

一方、多標的1ヒットモデルでは、ヒット数mは線量Dに比例します。
この比例定数をkとすると、m=kDとなります。m=1のとき、k×D0=1なので、
定数k=1/D0となり、m=D/D0が得られます。
これより、
S=[exp(-D/DO)]0
すなわち、ln(S)=-1/D0×D
この式から横軸に線量Dをとり、縦軸に生存率Sの自然対数をプロットすると、直線が得られます。
また、線量がD=D0、すなわち、標的の受けるヒット数の平均が1個の場合、そのときまったくヒットが起こらない、つまり死なないで生存する細胞の割合は0.37(37%)となります。
平均致死線量とは、生存率が37%となる線量のことです。
D0は放射線感受性の評価に用いられ、D0が小さければ直線の傾きが急で、感受性は高いことになります。

直線一二次曲線モデル

標的理論では、放射線が標的にヒットすればその標的が確実に破壊されますが、ヒットしなければまったく影響がないall‐or‐noneであり、中間的な影響は存在しないことと仮定しています。
また、標的が何かということを考慮しません。
これに対して、直線一二次曲線モデル(LQモデル:Linear Quadratic Model)は放射線の生物影響がDNA二本鎖切断によって生じるとしたモデルです。
このモデルでは、次のことを仮定しています。
・放射線の生物影響はDNAの二本鎖切断によって引き起こされます。
・DNAの二本鎖切断には、 1粒子によるものと2粒子によるものがあります。
・1粒子によるDNAの二本鎖切断の頻度は吸収線量Dに比例します。
・2粒子によるDNAの二本鎖切断の頻度は吸収線量Dの自乗に比例します。
・切断の全頻度は1粒子によるものと2粒子によるものの和で表されます。
すなわち、1粒子による二本鎖切断の発生率をα、2粒子によって二本鎖が1本ずつ切断される発生率をβの平方根とすると、αは線量Dに比例し、βは線量の自乗(D2)に比例するので、致死率はαD+β D2となります。
したがって、生存率をSとすると、次式が得られます。
S=exp[-(αD+βD2)]
このモデルは、X線を照射したチャイニーズハムスター細胞の生存曲線や、突然変異発生率と線量との関係によく適合しています。

早期反応組織と晩期反応組織

組織には、照射後約1か月以内に損傷が現れる早期反応組織と、照射後半年から1年後に損傷が現れる晩期反応組織があります。
LQモデルの1次項と2次項が等しくなる線量、α/βは早期反応組織では大きく、片対数でプロットした生存率曲線は直線に近づきます。
一方、晩期反応組織ではα/βが小さく、生存率曲線は上に凸な曲線になります。
総線量を同じにして分割回数を増やした場合、早期反応組織では晩期反応組織に比べ、放射線損傷の低減の度合いは小さくなります。
放射線治療の場合、腫瘍細胞は早期反応組織であり、正常細胞は晩期反応組織と考えられるので、線量を小さくして適切な間隔で照射することで、効果的に腫瘍細胞のみを殺し、正常細胞の損傷を低減できます。
原爆被ばく者の調査では、白血病の発生率はLQモデル、それ以外のがんの発生率はL(直線)モデル(Sの式でβが0の場合)に従っています。
白血病では、2つの染色体が同時にDNAの二本鎖切断を起こし、それを誤って結合した結果で生じる染色体転座が頻繁にみられ、これが発症の原因の1つと考えられています。
これはLQモデルで仮定するDNAの二本鎖切断が、1個の粒子によって生じる場合と2個の粒子によって生じる場合があることに対応するためと考えられます。
高線量部分で1標的1ヒットモデルは直線になりますが、多標的1ヒットモデルでは曲線となります。

生存率の測定

放射線照射後の細胞生存率を定量する手法として、一般にコロニー形成法が用いられます。
この方法では、細胞群を単一細胞に分離して細胞培養皿で播種し、7~21日ほど培養した後に50個以上の細胞群が生じたコロニー数を計数し、それを播種した細胞数で除した値をコロニー形成率といいます。
放射線照射後の細胞生存率は、放射線を照射した細胞のコロニー形成率を、照射していない細胞のコロニー形成率で除した割合で表します。
コロニー形成法で 第得られた細胞生存率から細胞生存率曲線を求めますが、細胞生存率曲線は縦軸に 3対数日盛で生存率、横軸に線形目盛で吸収線量を示します。

細胞死

増殖死

皮膚の基底細胞や線維芽細胞、腸の腺富細胞、骨髄の造血細胞やがん細胞などの分裂を繰り返している細胞に放射線が照射されると、細胞は1回または数回分裂した後、分裂が止まります。
ただし、分裂を止めた細胞であっても、核酸合成やタンパク合成などの代謝は継続しています。
この、細胞の代謝は継続しているが分裂する能力を失っている状態を増殖死または分裂死といいます。
増殖死はDNAに対する損傷によって起こると考えられ、放射線の照射後しばらくは増殖が続くので、増殖死するまで時間がかかります。

増殖死した細胞にみられる事象

・巨細胞や多核細胞が観察される。
・小核形成が観察される。
・増殖死には次のようなものがあります。
・皮膚の線維芽細胞や固形がん細胞の細胞死。

正常細胞と増殖死細胞のコロニー形成法

細胞の増殖死の定量には、コロニー形成法が用いられます。
細胞培養皿(シャーレ)に細胞をまいて培養する場合に、放射線を照射していないときは、細胞は増殖してコロニーが大きくなり、コロニー内では分裂中の細胞などが観察されます。
一方、放射線の照射を受けて増殖死した細胞では、小さなコロニーが形成され、コロニー内では複数核の細胞や巨細胞などが観察されます。

間期死

間期死とは、放射線の被ばく後、細胞が分裂することなく不活化して短時間で死ぬことで、非分裂死ともいいます。
高い線量の放射線を照射した場合に、DNA分子以外の標的に対する損傷で直接その細胞が死亡すると考えられています。
間期死は照射した線量の大小により、次の2つに区分されます。
①大線量の放射線を浴びた場合
細胞機能が失われます。
このケースには神経細胞の細胞死や、全身被ばくによる中枢神経死、心筋細胞の細胞死などがあります。
②小線量の放射線を浴びた場合
リンパ系細胞や若い卵母細胞が細胞死します。

壊死

細胞は、栄養不足や、外傷などの病理的要因、外的要因により死亡します。
これを壊死(ネクローシス)といいます。
壊死が起こると、細胞が大きくなって細胞内容物が流出したり、DNAの長さがさまざまな断片に分解されるので、その細
胞の電気泳動を観察するとスメア状(泳動全体がぼや~とした状態)になります。

アポトーシス

生体には不要な細胞や有害な細胞を排除するため、細胞死を誘導する仕組みが存在し、この仕組みで細胞死することをアボトーシスやプログラム細胞死といいます。
アポトーシスにはがん細胞やウイルス感染細胞を除去する役割があります。
アポトーシスの機構は、細胞内に存在するカスパーゼというタンパク分解酵素を活性化し、細胞の生存に必須なタンパク分子を分解し、細胞死を起こします。
例としてリンパ球があり、しきい線量0.25Gyで細胞死します。
アポトーシスでは細胞が小さくなって核が凝縮したり、DNAが一定間隔で断片化されます。
アポトーシスした細胞を電気泳動で観察すると梯子状(ラダー状)となります。

SLD回復とPLD回復

SLD回復

多標的1ヒットモデルで細胞死するモデルの場合で、二本鎖の片方の鎖が1粒子で切断されたが、残りの鎖は切断されていない状態を亜致死損傷(SLD SubLethal Damage)といいます。
この一本鎖の損傷は、時間とともにDNAの修復機構によって修復されます。
そのため、2粒子目で二本鎖の両方が切断される前に1粒子目による損傷が修復されていれば、2粒子目がヒットしても二本鎖がともに切断されることはありません。
1回目の照射後に損傷の修復がなければ、2回目以降の生存率曲線はそのまま下がるはずですが、
2回目の照射までの間に損傷が回復したため、 1回目と類似した曲線になっています。
この回復を亜致死損傷(SLD)回復、またはElkid回復といいます。
SLD回復はX線やγ線などの低LET放射線でみられますが、α線などの高LET放射線では1粒子による二本鎖切断の比率が高いため、SLD回復はみられません。
SLD回復は連続照射の場合でもみられます。
線量率が上がるとLD50が小さくなります。
これを線量率効果といい、高線量率で低線量率のときと同じ効果を与える線量の値で割った値の逆数を線量・線量率効果係数といいます。
また高線量率の場合、低線量率より細胞生存率曲線の傾きが急になります。
線量率が小さいときは、損傷が回復するため一定効果を得る総線量は大きいが、線量率とともに徐々に低下し、最後には損傷の回復は起こらず、一定の値となります。

PLD回復

増殖培地の代わりに、放射線が照射された細胞を一時的に生理食塩水中などの細胞増殖が抑制されるような環境に置くと、増殖培地でそのまま培養した場合に比べて生存率が高くなります。
この現象を潜在的致死損傷(PLD:Potentlly Lethal Damage)回復といいます。
PLD回復も高LET放射線ではみられません。

致死線量と半数致死線量

生物が死亡する放射線の線量を致死線量といいます。
この量は動物の種類、成長段階、照射方法などで変化するため、確定した値を得ることは困難です。
そこで、致死量を統計的に数値化したLD値(Lethal Dose)を使って表します。
半数致死線量とは、ある生体群に放射線を照射した場合、その半数が死に至る線量です。
この量を表す記号としてLD50が使われます。
また、LD50/60(LD50(60)とも書きます)とLD50の後ろに第2の数値が付いた表記がありますが、これは被ばく後60日が経過するまでに50%が死に至る線量を表しています。
これらの数値は、動物種の放射線感受性を比較するときなどに使われます。
人間の場合、通常、被ばく後60日以内の死亡を急性死亡の評価基準とするため、LD50/60が用いられます。

突然変異と染色体異常

突然変異

突然変異とは、放射線などでDNAや染色体が損傷し、親になかった新しい形質が突然生じて子に遺伝する現象です。
このうち、放射線などの影響によって、遺伝子に異常が生じて遺伝子情報が変化することを遺伝子突然変異といいます。

DNAの1塩基が他の塩基に置き換わる変異を点突然変異といいます。
吸収線量に対して直線的に増加し、発がんの原因となります。

突然変異の性質

放射線による突然変異には、自然発生した突然変異で認められない特別な変異はありません。
しかし、自然突然変異に比べて欠失型(後出)が多く発現します。
低LET放射線の場合、線量率効果がみられ、同じ吸収線量でも低線量率照射時のほうが染色体異常は少なくなります。
一方、α線などの高LET放射線では、突然変異や染色体異常を多く誘発します。

染色体

染色体とは、細胞の核の中に存在し、細胞分裂のときに現れる、DNAとヒストンと呼ぶタンパク質が結合した、核タンパク質を主体とした物質です。
塩基性色素(ヘマトキシリンなど)によく染まる染色糸が密に巻いたらせん構造を持つ短い棒状物質です。
分裂、増殖、遺伝、性を決定するなど、重要な役割を持っています。
細胞中のDNAのほとんどが染色体上に存在しており、遺伝情報の担い手として重要です。
正常な人間の染色体数は46個で、外見はXまたはY字形をしています。
46個の中でそれぞれ同数の遺伝子が同じ順序に配列している染色体が1対ずつあり、これを相同染色体と呼びます。

染色体異常

染色体異常には、染色体数の異常と構造の異常の2種類があります。
正常な人間の染色体数は46個ですが、この個数が45個や47個、23個や69個となる異常を染色体数の異常といいます。放射線ではこの異常は起こりません。
一方、染色体の構造異常はDNA切断後の修復ミスにより発生し、安定型異常と不安定型異常があります。

安定型異常
安定型異常は細胞分裂時に除去されず、子孫に受け継がれ、がんなどの原因になります。
安定型異常には、次のようなものがあります。
・欠失(中間欠失):2ヒット形の染色体異常で染色体の中間部が消失したもの。
・端部(末端)欠失:染色体の末端の一部が消失したもの。
・(相互)転座:染色体の断片化した一部または全部が他の染色体に結合したもの。
・逆位:染色体の一部が切断され、それが同じ位置に反転して結合したもの。
・重複:染色体の一部が二重以上存在するもの。

不安定型異常
不安定型異常を持った細胞は正常な分裂をせず、分裂後短時間で死減します。
このため、発病までの時間が長いがんなどの疾患の原因にはなりません。
不安定型異常とは次のような異常を持ったものです。
・二動原体染色体:染色体は細胞分裂のとき、XまたはY型の紐状の形態をとります。
このX、Y字の交点の部分を動原体といい、 1つの染色体に1か所あります。
しかし二動原体染色体では、動原体が2か所あります。
・三動原体染色体:動原体が3か所ある染色体です。
・環状染色体:本来、染色体は線状ですが、染色体の両端が結合したものです

その他、相同染色体欠失などがあります。
なお、姉妹染色分体交換とは、DNA複製後にできる、同じ遺伝情報を持った2本の染色分体のことです。
遺伝情報は変化せず、染色体異常ではありません。

細胞周期と染色体異常

放射線による染色体異常は、細胞周期のどの時期で被ばくしたかで異なります。
被ばくがDNA合成期前(G1期)では、染色体異常が誘発され、二動原体染色体や環状染色体などが生じます。
DNA合成期(S期)以後では、染色体異常に加え、X型の2つの末端のうち片方のみが欠失する染色分体型の異常も誘発されます。

バイオドシメトリ

二動原体染色体と環状染色体は非被ばく者にはほとんどみられませんが、放射線の被ばく者には多く発生します。
この、二動原体染色体の発生頻度と被ばく線量には、一定の相関関係があることが知られています。
そのため、人の体に強い放射線が当たる被ばく事故があった際は、リンパ球の二動原体染色体の発生頻度から逆に被ばくした放射線量を推定できます。
この推定方法をバイオドシメトリといいます。
被ばく後の経過時間が長いと、二動原体染色体を有する細胞は消失してしまいます。
このため、バイオドシメトリでは、間期核の染色体の特定の部位のみを蛍光体でラベルして観察するFISH法が開発・使用されています。

臓器や組織の放射線感受性

ベルゴニー・トリボンドーの法則

臓器や組織の放射線感受性は、臓器の発達段階や臓器間で大きな差異があります。
これを定性的に説明するのが、ベルゴニー・トリボンドーの法則です。
この法則では、次の条件を満たす臓器・組織は放射線感受性が高いとされています。
・細胞分裂の頻度が高い細胞ほど放射線感受性が高い。
・将来に細胞分裂をする回数が多い細胞ほど放射線感受性が高い。
・形態および機能が未分化である組織ほど放射線感受性が高い。
例外として、リンパ球は細胞分裂の頻度は低いが、放射線感受性が高い。

同一臓器の放射線感受性の違い

同じ臓器でも、臓器の発達段階や、身体の成長過程などにより、放射線感受性は異なります。
例として、次のようなものがあります。
・細胞分裂の過程によって放射線感受性は変化する。
・成人より胎児のほうが放射線感受性は高い。
・リンバ球は、骨髄中だけでなく末梢血液中でも放射線感受性は高い。
・皮膚では角質層より基底細胞層のほうが放射線感受性は高い。
・小腸では絨毛先端部の細胞より腺高細胞のほうが放射線感受性は高い。
・眼では角膜より水晶体のほうが放射線感受性は高い。
・骨の放射線感受性は、成人では低く、小児では高い。
・生殖腺の放射線感受性は、成人では高く、胎児でも高い。
・神経組織の放射線感受性は、成人では低く、胎児では高い。

臓器ごとの放射線感受性の違い

臓器ごとの放射線感受性は、ベルゴニー・トリボンドーの法則で説明できます。
さまざまな組織の細胞分裂頻度と放射線感受性と代表的な臓器を覚えておきましょう。
なお、消化器系の放射線感受性は小腸>大腸>胃>食道の順で高くなります。

臓器の被ばく

皮膚の構造

皮膚の表面に近い部分を表皮といい、その下に真皮があります。
この2つを合わせて上皮といいます。
真皮の下には皮下組織があり、上皮と皮下組織が合わさって皮膚組織を構成しています。
また表皮は、角質層、淡明層、顆粒層、有棘層、基底細胞層に分かれています。
表皮にある組織のうち、表皮と真皮の境界にある基底細胞は、細胞分裂が盛んで、放射線の影響を強く受けます。
一方、最も表面にある厚さ約70μmの角質層は、死んだ細胞の集まりで、放射線の影響を受けません。
皮膚の等価線量に70μm線量当量を用いるのは、70μm線量当量が基底細胞の深さの被ばく量を示すからです。

放射線による皮膚の急性障害

国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告では、放射線による皮膚の障害として、次の5つを挙げています。
・紅斑:血管が拡張して皮膚が赤くなります。ただし痛みは感じません。
・脱毛:放射線を受けた部分の皮膚が炎症を起こし、脱毛が起こります。
・乾性落屑:皮膚表面の毛細血管が部分的に狭くなり、やがて死んだ皮膚の細胞がはがれ落ちます。
・湿性落屑:基底細胞の多くが死滅し、その部位の表皮が形成されない状態で、上皮下に水疱が現れます。
水疱が破れると、びらんとなって皮下組織が直接露出するため、患部は感染しやすくなります。
・壊死:被ばく後、深紅色の紅斑が現れます。
次いで、水疱が生じてびらんとなり、皮膚に穴が空く潰瘍となります。
上皮は壊死して脱落し、皮膚細胞をつくり出す基底細胞層は消失して、薄い上皮が皮下組織に直接密着した状態となります。

これらの急性障害はすべて確定的影響で、しきい線量が存在します。
分割被ばくの場合はしきい線量が高くなります。

放射線による皮膚の晩発障害

放射線による皮膚の晩発障害として、最も多くみられるのは基底細胞がんです。
日本ではこのがんの約80%が頭と顔に発生することから、太陽光線の紫外線でも引き起こされると考えられています。
また、人種により発病率に50倍程度の大きな差があります。
ICRP勧告による皮膚がんの致死確率は0.2%程度で組織加重係数(ICRP 2007年勧告)は0.01です。

毛細血管拡張性運動失調症

毛細血管拡張性運動失調症(AT)は、DNAが損傷するときに発動・活性化して腫瘍化のバリアとして働くATM遺伝子が、異常を起こすことで発症する遺伝疾患です。
一般に放射線照射によってDNAに異常が発生すると、細胞周期が一時的に停止して細胞分裂遅延が起こり、停止している間にDNAの修復が行われます。
しかし、ATが発症すると、細胞分裂遅延は起こらず、DNAの損傷を修復できません。
この結果、白血病や脳腫瘍、胃がんが多発します。

眼の構造

眼の水晶体の前面の上皮(角膜水晶体上皮)は細胞再生系で、動物の生涯を通じて分裂しており、放射線感受性の高い組織の1つです。
角膜水晶体上皮が放射線障害により損傷を受けると、長い潜伏期間を経て水晶体に白濁が生じます。
白濁の程度がひどくなると、視力障害を伴う白内障となります。

白内障の潜伏期間

白内障の潜伏期間は、早い人で6か月、遅い人で35年、平均2~3年と非常に広範囲にわたり、また確定的影響としては極めて長い潜伏期間です。
ただし、被ばく線量が多いと、症状の重篤度が増し、潜伏期間は短くなります。
γ線の1回照射で水晶体に白濁が起こるしきい線量は0.5~2Gy、白内障となるしきい線量は急性被ばくで5Gy、慢性被ばくで10Gyです。
分割照射すると、被ばくする最低線量が高くなります。
例えば、3~14週で分割照射する場合、最低線量は4Gyですが、15週以上の分割照射では5.5Gyです。
また、高速中性子線は同一吸収線量のγ線を照射したときよりも容易に白内障を発症します。
白内障は放射線以外にも紫外線、糖尿病、薬の副作用、先天性や加齢など、さまざまな原因で発病します。
しかし、どの原因でも症状は同じため、放射線による白内障を他の原因によるものと区別するのは困難です。

血球の種類と機能

人間の血液のうち、血管を通して体内を循環している血液を末梢血液といいます。
血液は赤血球、白血球、血小板の3種類の細胞成分(血球ともいう)と液状の血漿成分から成り立っています。

赤血球

赤血球は直径約10μmの円盤形で細胞核がありません。
骨髄でつくられ、古くなると脾臓で壊され、この間の寿命は約120日です。
赤血球は肺で酸素を取り込んで体の隅々の細胞に酸素を供給するため、赤血球が減少すると貧血になります。

白血球

白血球は直径10~30μmの球形で、骨髄やリンパ組織でつくられます。
白血球は顆粒球、単球、リンパ球の3つから成り、さらに顆粒球は好中球、好酸球、好塩基球の3種類に、リンパ球はT細胞、B細胞、NK細胞の3種類に分けられます。
白血球は外から体内へ侵入してくる病原菌や異物、体内で発生したがん細胞を取り除く役割があり、白血球が減少すると感染に対する抵抗力が低下します。
その他、単球は血管の外に出てマクロフアージに変わります。
このマクロファージは寿命が長く、数か月から数年に及びます。
また、B細胞は病原菌などからの刺激とT細胞の補助を受け、リンパ節で増殖分化して形質細胞となります。

血小板

血小板は直径2~4μmの球形で、細胞核がなく、骨髄でつくられます。
血小板には外傷などによる出血を止める役割があり、血小板が減少すると血液が凝固しにくくなります。

造血器官

造血は、胎児期には主に肝臓で行われますが、出生後は全身の骨の中央にある骨髄と全身にあるリンパ球系の細胞が集まったリンパ節で行われます。
幼児期の骨髄は造血機能が高く、骨髄は赤色を呈することから赤色骨髄といい、放射線による大きな障害のリスクがあります。
しかし、高齢者では加齢による造血機能の低下とともに骨髄中の脂肪細胞が増えて黄色くなります。
このような骨髄をその色から黄色骨髄といいます。

造血器官への放射線の影響

全身が0.25Gy以上の被ばくを受けると、末梢血液の成分が変化します。
さらに、 1~10Gyの被ばくを受けると、骨髄の造血機能が著しく抑制され、末梢血液への新たな血球細胞の供給が止まります。
このため、末梢血液中の赤血球、リンパ球、血小板の数が減少します。
このとき、細胞寿命の短いリンバ球(寿命3日)の数が最も早く減少します。
次いで顆粒球(~5日)、血小板(7~10日)、最後に赤血球(120日)の順で血球数は減少します
また、末梢血液中では、白血球の一部であるリンパ球は、白血球の他の成分と比べて感受性が高く、放射線の影響を最も鋭敏に受けます。
そのため、リンパ球は1~2Gyの線量を照射されると、48時間以内に正常値の約50%まで数を減らします。
顆粒球の一部である好中球は、1~2Gyあるいはそれ以上の線量を照射されると、被ばく後1~3日間は細胞数の一時的な増加がみられます。
この増加の度合いは、線量が高いほど大きくなります。
その後、細胞数は減少しますが、その速度と程度は線量に依存します。
血小板の減少過程は、好中球のように最初に細胞数が増加することはありませんが、その後は好中球の減少過程と類似しています。
また、骨髄の造血機能が回復すると、末梢血液中の各血球細胞数も増加します。

放射線が生殖細胞へ与える影響

生殖細胞は放射線感受性が高く、少量の放射線の照射でも確率的影響または遺伝的影響として次世代細胞の染色体異常や突然変異を誘発します。
遺伝障害や発がんに結びつく可能性が高いため、生殖細胞の機構を知ることは重要です。
生殖細胞は、男性と女性で、それぞれ次のように分化します。
・男性の場合:精原細胞→精母細胞→精子細胞→精子と分化する。
・女性の場合:卵原細胞→卵母細胞→卵子と分化する。

男性の生殖細胞への影響

男性の場合、精巣での精子生産は生涯を通じて行われ、多量に精細胞が生産されて精子に分化します。
精原細胞と精母細胞が活発に細胞分裂を行っているので、放射線感受性は高くなります。
これに対して、成熟した精子は分化した非分裂細胞なので、放射線耐性があります。
被ばくによって精原細胞と精母細胞の精子生産能力が停止すると、被ばく直後は生残した精子によって生殖能力は保持できますが、精子が枯渇すると不妊に至ります。
人間への急性照射の場合、0.1Gyで被ばくでは最も低い線量で一時的な不妊となり、3.5~6Gy以上で永久不妊になるといわれています。

女性の生殖細胞への影響

女性の卵巣の生殖細胞は、細胞分裂を行っている幹細胞ではなく、卵母細胞と呼ばれる成熟の中間過程で停止した状態になっています。
卵母細胞は、女性ホルモンの刺激により順次成熟して排卵されます。
このため、女性は男性に比べて放射線耐性が高く、人間への急性照射の場合は0.65Gyで一時的な不妊となり、2.5~6Gyで永久不妊になります。
また、卵子の感受性は年齢の影響もあり、一般的に若い女性の卵子のほうが高齢な女性に比べて放射線耐性があります。

胎内被ばく

妊娠している母親が被ばくすると、母親だけでなく、その胎児にも障害が現れます。
これを胎内被ばくといいます。
胎児は盛んに細胞分裂および形態形成を行っているため、放射線に対する感受性が一生の中でも特に高い時期です。
また、被ばくがどの時期に作用するかによって、発生異常や奇形などの起こり方が大きく異なります。

胎児の成長

胎児に対する放射線の影響は、ネズミの動物実験の結果および原爆胎内被ばく者の疫学調査の結果により評価されています。
それによると、胎児の受精から出産までの期間は、着床前期、器官形成期、胎児期の3期間に区分され、期間ごとに胎児に対する放射線感受性と発現する影響が異なります。

着床前期

着床前期は、受精から受精卵(胚子)が子宮に着床するまでの約9日間です。
この期間に被ばくすると、未着床などで母親本人が自覚することなく流産します。
これを胚死亡といいます。
この期間を生き延びた胎児には、その後被ばくによる影響は現れません。
人間では、受胎後の数日間は妊娠したかを調べる方法がないため、胚死亡の正確なしきい線量は不明です。
ただし、ネズミでは妊娠1日目のしきい線量がX線で0.1~0.15Gyという報告があり、これをもとに0.1Gyとされています。

器官形成期

器官形成期は、胚が子宮に着床した後から妊娠8週目までの期間です。
この期間では、細胞が増殖、分化し、人体のさまざまな臓器のもと(原基)がつくられます。
そして、胎児に奇形が発生する可能性が妊娠期間中で最も高くなります。
動物実験ではさまざまな奇形の発生が知られていますが、人間の被ばくの場合は原爆被ばく者による小頭症の発生のみ確認されています。
奇形の発生に対するしきい線量は、男性の一時不妊や着床前期の胚死亡と同じ0.1Gyと、しきい線量の中で最も低い値となります。
この期間に被ばくすると、精神発達遅滞(遅延)も生じます。
また、出生前の死亡リスクは高くなりますが、発がんリスクの増加はみられません。
精神発達遅滞のしきい線量は0.2Gy程度です。

胎児期

胎児期は、受精8週目から出産までの期間です。
この期間では臓器や組織が成長し、多量の放射線を受けても奇形が発生することはありません。
しかし、精神発達遅滞や発育遅延は生じるおそれがあります。
特に、妊娠8~25週目までに被ばくすると、精神発達遅滞が生じる可能性が高く、いったん精神障害が発生すると、人体の自然治癒力で回復することはありません。
なお、精神発達遅滞のしきい線量は0.2~0.4Gyで、発育遅延のしきい線量は0.5~1Gyです。
この時期の被ばくによる発がんリスクは、成人より高く、新生児期と同程度と推定されています。

胎内被ばく者の身体的・精神的発育と成長

重度知的障害が発生する確率は、被ばく線量および被ばく時の胎齢と強い関係があります。
知的障害の過剰発生は、受胎後8~15週で被ばくした人に顕著で、16~25週で被ばくした人ではそれよりも少なく、受胎後0~7週、または26~40週で被ばくした人ではまったくみられません。

全身被ばくによる急性障害

急性放射線症候群の時間経過

短時間で全身が1Gy以上の放射線を被ばくすると、急性放射線症候群を発症します。
急性放射線症候群は、被ばく後の時間経過で前駆期、潜伏期、発症期、回復期の4期に分類されます。

前駆期

前駆期は被ばく後から48時間が経過するまでの期間です。
この間に前駆疾患が一過性に発症します。
被ばく線量が高いほど前駆疾患は早く発症し、程度も重篤です。
ただし、線量が1Gy以下の被ばくでは発症しません。
主な疾患は、次のとおりです。
吐き気、嘔吐、発熱、頭痛 、皮膚の初期紅斑、粘膜の毛細血管拡張

潜伏期

潜伏期は全身被ばく後から発症するまでの約1~2週間の期間です。
自覚疾患はないが、血液の障害が進行します。
被ばく線量が高いほど潜伏期は短くなります。

発症期

発症期は全身被ばく後1~2か月の期間です。
線量に応じてさまざまな疾患が発症し、重症の場合は死に至ります。
主な疾患は、次のとおりです。
出血傾向 、発熱 、下痢 、皮膚の紅斑、湿疹、びらん、潰瘍

回復期

回復期は骨髄障害の治療後、消化管障害や皮膚障害が回復するまでの期間です。
ただし、多くの場合は回復後も慢性的障害が残ります。

被ばく線量と疾患

X線やγ線による急性放射線症によって発症する疾患は、次の被ばく線量の3つの領域によって異なります。
・A領域:3~5Gyの領域。
造血器官の疾患が発症する(潜伏期30~60日)。
・B領域:10~50Gy程度の領域。
消化管の疾患が発症する(潜伏期10~20日。
・C領域:50Gy以上の領域。
中枢神経系の疾患が発症する(潜伏期2~3日)。

造血系の疾患

造血系の疾患の原因は、骨髄幹細胞数の減少に伴い、白血球が減少し、免疫力の低下による感染と血小板が減少することによる出血が挙げられます。
これで死亡することを骨髄死といいます。
約3~5Gyの照射後、30~60日の間に50%の人間が死亡します(LD50/60)
これが人間の半数致死線量です。
高LET放射線を被ばくした場合は、X線やγ線で被ばくしたときよりも低い線量で発生します。
なお、この疾患は骨髄移植により回復できる可能性があります。
また、マウスのLD50値は週齢により変わりますが、人間より高い7Gyです。

消化管の疾患

腸死

小腸の上皮は細胞分裂を行っている細胞再生系で、非常に放射線感受性の高い臓器です。
放射線照射で腸の細胞が死亡すると、上皮の新生が絶たれ、脱水疾患や細菌感染症などにより下痢や下血、感染などが発生して個体は死亡します。
これらの症状が原因で死亡することを腸死といい、約10~50Gyの照射後、10~20日の間にはぼ100%の人間が死亡します。
腸の表面には、絨毛と呼ばれる突起が多数あり、その付け根部分には腸腺窩(クリプト)と呼ばれる幹細胞があります。
この底の部分には分化前の腺窩細胞があり、分裂・増殖します。
さらに成熟しながら絨毛の先端に向けて移動し、3~4日で先端に到達します。
腺窩細胞は10~50Gyの放射線を照射されると死亡しますが、成熟した細胞は死亡せずに残ります。
しかし、新たな細胞の補給がなくなるため、絨毛の高さが低くなって小腸の機能は低下し、最終的に腸上皮の細胞は消滅します。
腸死には線量率効果がみられ、また高LET放射線では低LET放射線より少ない吸収線量で影響が現れます。
消化管の感受性は大きい順に、十二指腸>小腸>大腸>胃>食道となります。

中枢神経系の疾患

中枢神経系の疾患としては、脳血管や脳神経細胞の損傷による血管の透過性の進行およびけいれん、嗜眠(自然に寝てしまうこと)、体温調節不良、運動失調(筋肉は正常だが、神経が正常に働かないためうまく運動できない状態)などがあります。
また、全身が50Gyを超す被ばくをすると、中枢神経系の障害により被ばく後2~3日以内に死亡します。
これを中枢神経死といい、被ばく線量が大きいほど死亡するまでの期間は短くなります。

全身被ばくの被ばく量測定

放射線や放射性物質は厳重な管理下に置かれており、通常は全身の急性被ばくは起こりませんが、放射性核種の紛失や装着機器の事故に起因する被ばく事故などにより、急性被ばく者が発生しています。
このような場合、治療方針を決めるため、患者が受けた被ばく量を知ることが重要ですが、この推定が困難です。
このため、被ばく者の身体組織から被ばく量を評価する方法が検討されています。

①生物学的線量評価法(バイオドシメトリ)

・染色体異常検査:放射線の種類および量と被ばく線量の関係が明確で、感度、精度や再現性などに優れており、全身の平均被ばく線の評価に使われます。

②物理学的線量評価法(バイオドシメトリ)

・電子スピン共鳴法(ESR):歯のエナメル質が放射線に被ばくすると、線量と比例したラジカルが生成します。
チェルノブイリ原発事故患者の被ばく線量評価の際、この量をESRで測定する方法が試みられました。

被ばくの実例

自然放射線による被ばく

自然放射線とは、人間活動と関係なく自然界に存在する放射線のことで、宇宙線起源と天然放射性核種起源の放射線があります。
①宇宙線起源の放射線:宇宙から地球大気に突入する高いエネルギーの陽子などが大気上空の窒素や酸素と衝突してできた中性子、陽子などをいいます。
②天然放射性核種起源の放射線:40K、ウラン、 トリウムおよびアクチニウム系列核種などがあります。
このようにして生じた放射線を放出する核種は、岩石・土壌、空気、水、食物などに含まれます。
また、これらからの放射線を大地放射線といいます。
人間は自然放射線を外部被ばくしたり、呼吸や飲食で放射線核種を取り込んで内部被ばくしたりします。

自然放射線による年間の被ばく線量は、世界平均で約2.4mSv、日本では約2.1mSvです。
そのうち、2/3が内部被ばくによるものです。
他に、レントゲン検査などの医療用放射線から自然被ばくの合計とほぼ等しい2.25mSv/年の被ばくを受けています。

原爆被ばく

広島と長崎の原爆被ばく者については1947年から障害影響調査が続けられ、次のようなことがわかっています。
・白血病の潜伏期間は被ばく線量が高いほど、また被ばく時の年齢が若いほど短く、被ばく後2~3年経過してから増加し、その後低下します。
・相対リスクは白血病が最も大きくなります。
・胃がん、肺がん、赤色骨髄がんの3種に発生リスクの上昇が認められます。
過剰相対リスクは胃がんが最も大きくなります。
・白血病以外は被ばく線量と潜伏期間の相関関係はありません。

原爆以外の非自然被ばくの例

これらの例として、次のものが知られています。
・チェルノブイリ原発事故被ばく者:核分裂で生成した131Iによる内部被ばくによって、小児甲状腺がんが発現しました。
・ウラン鉱夫:肺がん。吸入したラドンにより肺の被ばくが原因とされています。
・ラジウム時計文字盤工:骨肉腫。蛍光塗料中のラジウムを経口摂取したと考えられています。
・卜ロトラスト血管造影:肝臓がん。トロトラストとは二酸化トリウムを含む血管造影剤のことで、これが肝臓に沈着して発がんしたと考えられています。
・頭部白癬X線治療:甲状腺がん。ふけの治療としてX線を使用したところ、がんが発現しました。

放射線の生物学研究と産業への応用

放射性核種(放射性同位元素、RI)

放射性核種(RI)は他の元素との識別が容易、高感度で測定可能などの特徴を生かし、診断、分析、治療など、幅広い用途で使われています。
放射性核種とその標識化合物の中で、診療に利用される元素や化合物を放射性薬剤といいます。
その中で、日本薬局方、放射性医薬品基準および放射性医薬品製造規則に収載されたものを放射性医薬品と呼びます

トレーサ法

放射性核種は、検出感度が極めて高いことを利用し、生体分子の元素の一部を放射性核種に置き換えた化合物で生体中の物質移動や濃度分布などを調べる方法をトレーサ法といいます。
この方法では、生体分子の特定の元素に置換した放射性核種を原料にして細菌などを培養し、機能や代謝を調べたり、組織や器官でのその薬剤の分布を調べるなどの方法に利用されています。
DNAとRNAはそれぞれ4種の塩基で構成されています。このうち、3種の塩基はDNAとRNAで共通しています。
しかし、残りの1種は、DNAではチミン(T)、RNAではウラシル(U)です。
そして、DNAの合成時にはチミンが、RNAの合成時にはウラシルが取り込まれることを利用します。
DNAの合成量の測定にはチミンにデオキシリボースを付加したチミジンを、RNAの合成量の測定にはウラシルにリボースを付加したウリジンを使用します。
また、チミジンはDNA合成期であるS期の細胞にのみ取り込まれることを利用して細胞周期の研究にも使われます。

チミンとウラシル

チミンやウラシルでは、14C炭素を置換する化合物と、3H水素を置換する化合物があり、どちらも使うことができます。
ただし、14Cより3Hで標識した場合のほうが比放射能は高いので、一般的には3Hが使用されます。

メチオニン

メチオニンはタンパク質を構成するアミノ酸の1つで、硫黄原子を含有しています。
硫黄原子はDNAとRNAには含まれていないので、メチオニンを35Sで置換した化合物がタンパク質の合成量を測定するのに使われます。

ロイシン

3Hロイシンはタンパク質の代謝速度の研究に使われています。
また、3Hロイシンで細菌生産量を測る方法をロイシン(Leu)法といいます。

クロムイオン

6価のクロムイオン(Cr6+)は細胞膜を透過して、容易に赤血球に入り、還元されて3価のクロムイオン(Cr3+)になります。
このクロムイオンは赤血球が崩壊した後、再利用されることなく体外に排出されます。
この性質を利用して放射線核種の51Crクロム酸ナトリウムを赤血球に導入し、赤血球の寿命と循環血液量の測定が行われています。

オートラジオグラフィによる測定

オートラジオグラフィは、試料表面に写真乾板やイメージングプレートを密着させて露出を行い、試料中に存在する放射性核種の位置や量を測定する方法です。
扱う試料の大きさと測定方法によってマクロ、ミクロおよび超ミクロ・オートラジオグラフィの3種と、飛跡を顕微鏡で調べる飛跡オートラジオグラフィがあります。

マクロオートラジオグラフィ(オートラジオグラフィ)

黒化度計などを用いて巨視的試料の黒化度を測定します。14C、35S、32Pなどのβ線を放出する核種が使われます。

ミクロオートラジオグラフィ

肝臓や腎臓などの組織内の薬物分布を光学顕微鏡レベルで測定します。
空間分解能を高めるため、3H、14C、35Sなど、低エネルギーβ線を放出する核種が使われます。
特に3Hはβ線のエネルギーが小さく、飛程が短いので、解像度が高い画像が得られます。

超ミクロオートラジオグラフィ

細胞内の分子の分布を電子顕微鏡レベルで測定します。
測定範囲が狭いので、主にβ線のエネルギーが最も小さぃ3H標識化合物が多く使われます。
ただし、他の核種でも測定できます。

パルスラベル法による細胞周期の測定

チミジンは細胞周期のうち、DNAが複製されるS期の細胞のみに取り込まれます。
3Hチミジンを含む培地で細胞を短時間培養すると、細胞周期がS期の細胞のみが3Hチミジンを取り込みます。
培養後、細胞群のオートラジオグラフィの測定をすると、S期の細胞のみ黒化するので、その数と全細胞の数を求めることで、S期の細胞の割合を求めることができます。

ポジトロンイメージ

11Cで標識された11C二酸化炭素のもとで植物の光合成を行わせ、11Cが崩壊するときに放出されるγ線を用いて、生きた植物の内部で行われる物質の移動や蓄積を経時的に可視化する植物ポジトロンイメージング装置が開発されています。

放射線の農業利用

食品照射(ジャガイモの発芽防止)

放射線照射を利用した食品の保存方法を食品照射といいます。
これは、食品に放射線を照射することで、食品中の細菌や病害虫のDNAを損傷して除去する方法です。
照射線量は目的により0.05~50kGyの範囲で照射されます。
食品としては、ジャガイモ、タマネギ、米、小麦、ウインナーソーセージ、水産ねり製品、ミカンの7品目が研究されました。
日本では、北海道の札幌市農業協同組合に世界初の商業施設として60Coのγ線を70Gy照射する施設が設置され、秋に収穫されるジャガイモを出荷端境期の3~6月まで発芽を防止して保存するために使われています。

不妊虫放飼法

放射線を利用して害虫を不妊化し、根絶させる方法を不妊虫放飼法といいます。
沖縄や奄美群島に生息するウリミバエは、ウリ類などの果実の内部を食い荒すため、これらの地域から日本本土への出荷が禁じられていました。
このため、この害虫の根絶防除の目的で不妊虫放飼法が実施されました。
この方法は殺虫剤を用いる駆除法と比べ、次の利点があります。
・繁殖力が旺盛で動き回る害虫に殺虫剤が直接かからなくても駆除が可能。
・殺虫剤による生産品や環境への汚染を生じない。
方法は人工的に繁殖させたオスのさなぎに60Coのγ線を70Gy照射して不妊化後、野外に放ちます。
これにより、羽化したオスと交尾したメスの卵は孵化することがなく、ハエの数が減少し、本土への出荷も可能となりました。

放射線育種

放射線を植物に照射して品種改良することを放射線育種といいます。
特徴として、次のようなものがあります。
・新しい突然変異をつくり出せる(自然突然変異の頻度を高められる)。
・品種の他の特性をそのままにして、1、2の特性のみを変えることができる。
・育種にかかる期間を短くできる。
・その特性を簡単に他の品種に移せる。
・花が咲かない、種ができない植物にでも利用できる。
日本では茨城県常陸大宮市に44.4TBqの60Coのγ線源を使った育種場がつくられ、台風の風に倒れにくい稲や米アレルギーの原因となる16kdグロブリンの含有量が低い稲、豆乳の青臭さの原因となるポキシゲナーゼ酵素を完全に欠失した大豆、野生種とは異なる色の花などの開発が行われています

害虫・ばい菌の駆除

輸入切花に付いてくるマメハモグリバエ、ミナミキイロアザミウマ、ネギアザミウマ、ハスモンヨトウの卵・さなぎ・幼虫に対して2.5MeV以上の電子線照射が行われ、羽化防止や殺虫に有効であることがわかっています。

放射線診断

放射線医学診断・検査

放射線による人体の診断には、次の2つがあります。

1つは、放射線の透過性が高いことを利用し、人体に体外から照射した放射線(主にX線)、または放射性核種(RI)を構造元素として持つ非密封の化合物で、薬事法に基づいて承認された薬品(放射性医薬品)を人体に投与し、それから放出される放射線(主にγ線)を検出して、二次元または三次元の画像を得る診断法です。
これらは体内の検査を行うため、体内検査またはin vivo検査と呼ばれます。

もう1つは、放射線の検出感度が高いことを利用し、体内から取り出した血液などの生体試料中に含まれるホルモンやがんなどに起因する極微量成分の量を調べ、病気の診断や状態を求める方法です。
これらの検査は体外で行うため、体外検査またはin vitro検査と呼ばれます。

X線診断(レントゲン写真)

X線を人体に照射すると、臓器により異なる量が吸収されます。
例えば、空気が多い肺では吸収が少なく、炭素が多い筋肉や心臓では吸収量が増し、さらにCaなどでできた骨では吸収量が多くなります。
したがって、人体を透過したX線をフィルムで検出すれば、X線の吸収が少ない部分は黒く、骨などの部分は白く写った人体の透視写真が得られます。
これをX線写真(レントゲン写真)といい、この写真から体の構造を知って診断を行うことをX線診断といいます。
胃の検査の前に、X線を吸収しやすい硫酸バリウム粉末を懸濁させた造影剤を投与し、胃や十二指腸の内部に満たしてコントラストを上げ、これらの臓器の形を見やすくする撮影を造影X線撮影といいます。
これに対して、通常行われている前記の造影剤を使用しない撮影法を単純X線撮影と呼びます。
胃の検査以外では、血管の病変を調べるため、血管内にヨウ素造影剤を注入し、撮影する血管造影(アンジオグラフィ)を行います。
また、造影剤を静脈注射し、腎臓から尿として排泄させ、尿管の診断を行う静脈性腎孟尿管造影(IVP)なども行われています。

現在はフィルムの代わりに、X線をシンチレータ(CsI)で光変換した後、デジタルデータ化して画像を得るX線平面検出器が採用されています。
これにより、シャープでひずみがない画像や連続画像が得られるようになりました。
連続画像で体の内部を見ながら、カテーテルや針を使って血管内の治療を行うインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)も急速に広まっています。

核医学検査(シンチグラフィ)

核医学検査は、外部からのX線を照射する代わりに、人体に99mTc、67Ga、201Tlなど、半減期が短く、γ線や特性X線を放出する核種を含み、特定の臓器に集積する放射性薬剤を投与し、臓器に集積した核から放射されるγ線などを検出して画像化し、臓器の状態や腫瘍の有無を検査する方法です。
X線写真やCTは、体の構造を調べる形態検査診断ですが、シンチグラフィでは体の機能や病気の活動性などを調べる質的診断です。
また、測定する部位に応じて、骨シンチグラフィ、脳血流シンチグラフィなどの名称が付けられます。
さらに、99mTcを含むコロイドを利用し、肝臓や脾臓の形態を検査する方法をコロイドシンチグラフィ
といいます。
装置の特徴として、X線診断では、線は人体を透過後もそのまま直進するので、線源の向かい側にフィルムを置けば、そのまま透過写真が得られます。
しかし、壊変のγ線などは全方向に放出されるため、そのままではぼやけた画像になってしまいます。
そのため、検出器の前に、特定方向から入射するγ線などのみの検出効率が大きくなるコリメータという装置を取り付けたシンチレーションカメラ(ガンマカメラともいいます)という装置を使用します。
シンチグラフィのγ線でX線CTと同様の三次元断層撮影をする装置にSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)があります。

X線CT(X-ray Computed Tomogaphy)

人体の周りでX線を360度回転させながら照射し、透過減衰したX線強度を測定して得られた照射角度とX線強度の多量のデータをコンピュータで再構成して、人体の三次元画像を求める装置です。
コンピュータ断層撮影ともいいます。
これにより、人体の一方向からX線を照射して画像を得るX線診断では困難であった、臓器の重なった部位などをさまざまな方向から観察できるようになり、診断を容易に行えるようになりました。

陽電子放射断層撮影(Positron-Emission-Tomography: PET)

陽電子放射断層撮影は、特定の臓器や腫瘍などに集積する薬剤の原子を、β+壊変で陽電子(ポジトロン)を放出する放射性核種(同位体)に置き換えた薬剤を患者に投与し、そのβ+線が消滅して生じる、反対方向に放出される2本のγ線を対向した検出器で測定してその方向を決定します。
これを多数のβ+壊変について求めたデータを再構成し、薬剤が体内にどのように分布しているかを画像化する装置です。
ブドウ糖を18Fで標識した18Fフルオロデオキシグルコース(FDG)や11Cメチオニンは、がん細胞に集積するので、腫瘍検査で広く使われています。
なお、この検査では、核医学検査より半減期の短い核種が使用されます。

体外検査

ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay:R:A)

日本語で放射免疫分析法とも呼ばれます。
イムノアッセイは、新型コロナウイルスの定量に使われる抗原検査がその例で、さまざまな物質が混ざる試料中で、抗体を抗原・抗体反応により特定の抗原に特異的に反応させ、その反応生成物を定量する分析法です。
ラジオイムノアッセイはこの一種で、125Iで標識した比放射能がわかっている抗原を一定量試料に加えた後、抗体と反応させ、生成した抗原・抗体結合物の比放射能を求めます。
それにより、試料中の抗原量を求める直接同位体希釈法です。
抗原・抗体反応の高い選択性と、放射線の高感度の2つを併せ持つ優れた方法です。
この方法は、はじめ糖尿病患者の血中インスリン濃度の測定に用いられ、その後、甲状腺ホルモン濃度の測定に使われるなど、内分泌疾患診断の進歩に貢献しました。
用いられる核種として、125I以外に、131I、3H、14Cがあります。

イムノラジオメトリックアッセイ(lRMA)

lRMAは、抗原・抗体反応生成物量を逆希釈法に類似した方法で求めるラジオイムノアッセイです。

放射線増感剤と放射線防護剤

電離放射線の生物作用を増強する薬剤を放射線増感剤、逆に抑制する薬剤を放射線防護剤といいます。
放射線増感剤としては5‐ブロモデオキシウリジン(BUdR)がよく知られています。
しかし、BUdRには抗がん作用はありません。
また、がんの放射線治療では酸素効果を利用し、がん細胞内の酸素濃度を高くして致死率を上げる増感剤の開発が進められています。

輸血用血液への放射線照射

血液を輸血する際、輸血製剤に含まれる供血者のリンパ球が、輸血を受けた患者の体内で増殖して組織を攻撃・破壊する病気があります。
この病気を輸血後移植片対宿主病(GVHD)といい、治療薬がなく、一度発症するとほぼ全員が死亡してしまいます。
リンパ球の機能は、採血後1週間程度で大きく低下しますが、それでもGVHDの発症を完全に防ぐことができません。
一方、リンパ球は他の血液成分と比べて放射線感受性が高いので、適切な量の放射線を照射するとリンパ球の機能のみを選択的に抑えることができます。
この性質を利用し、輸血用血液に吸収線量で15~50GyのX線や137Csのγ線を照射してリンパ球の機能を低下させ、GVHDの発生を抑えます。
また、照射のリンパ球への効果は直ちに現れるので、処理後すぐ使用可能になります。

放射線医学診断による被ばく量

X線CTで1回当たり20mSvと、放射線を取り扱う作業者の線量限度の50mSv/年に近い被ばく線量を受けますが、それにより生じる害より、得られる有用性が高いことで正当化されています。
個々の検査による1検査当たりの被ばく線量は検査内容、測定時間、装置の進歩などによって変わります。

国連科学委員会(UNSCEAR)の2008年報告によると、日本の医療被ばく線量は他の先進国と比較して多いと指摘されています。
検査を受けない人を含めた日本人の1人・年当たりの診断により受ける被ばく量は、X線診断(1.47)と
X線CT(2.3)が主で、3.87mSv/年です。
この値は、世界平均0.6mSv/年の6倍、また日本の自然放射線被ばく線量2.1mSv/年の約2倍となっています。
国際原子力機関(IAEA)の国際基本安全基準(BSS)では、「医療被ばくに関する記録を、規制当局が指定した期間、保管し、利用可能にしなければいけない」としています。
なお、医療による被ばくと自然放射線による被ばくは、個人の被ばく線量管理に含みません。

放射線治療

放射線治療の仕組み

細胞に放射線を当てると、細胞内の水分子を主にヒドロキシルラジカルとして、その間接作用でDNAが傷つきます。
正常な細胞は、少量の放射線のダメージであれば、数時間で自力回復します。
一方、腫瘍細胞は正常細胞と比べ、回復に時間がかかります。
放射線治療は、この正常細胞と腫瘍細胞の回復時間の違いを利用し、腫瘍細胞が回復する前に、繰り返し放射線を照射して、腫瘍細胞のみを死滅させる治療法です。
使用する放射線としては、線形加速器(医療分野ではリニアックと呼ばれます)で発生させるX線、電子線やシンクロトロンなどで発生させる陽子線、炭素イオンなどの重粒子線、原子炉で発生させる中性子線などがあります。
また、正常な細胞に対する照射量を抑えるため、腫瘍に近い体内からの照射や腫瘍に集中させた照射法も使用されています。

X線治療

X線CTなどで体内の腫瘍位置を同定し、その位置に体外からリニアックで発生させた1~10数MeVのX線を腫瘍に照射して治療する方法です。
日本で保険適用されている治療法には、X線を直接腫瘍に当てる方法以外に次のものなどがあります。
・X線ビームの形状を腫瘍の形に合わせて照射する強度変調放射線治療(IMRT)
・X線CTなどで腫瘍位置を確認しながら照射する画像誘導放射線治療(lGRT)
・小型リニアックを産業用ロボットアームに取り付け、体の異なる方向から腫瘍に照射するサイバーナイフ

γ線を用いた体内照射治療

γ線を放出する核種を腫瘍組織に挿入することで、正常組織に対する照射量を抑えながら腫瘍組織にγ線を照射する方法です。

密封小線源治療

60Co、226Ra、137Cs、198Au、192Ir、125Iなどのγ線を放出する放射性核種を入れた、粒状や針状の小さなカプセルを小線源(低線量率源)とし、それを腫瘍の近くに設置して照射する治療法です。
このようなカプセルを、次の方法で治療に用います。
なお、近年は核種の安定供給の観点から、125Iが前立腺がんの治療に広く使われています。
・腫瘍の表面に密着させる(歯肉がん、頬粘膜がん)
・臓器の内腔を通す(食道がん、子宮がん、前立腺がん)
・腫瘍に直接刺し入れる(舌がん、脳腫瘍)

高線量率密封小線源治療(リモートアフターローディング法)

γ線源の192Ir(イリジウム)をワイヤーに付けたタングステン製容器に格納し、それを子宮や気管支へ挿入して、遠隔操作で腫瘍位置に精度よく送り込んだ後、容器から取り出して腫瘍に照射する治療法です。
送り込む間、γ線は容器で遮へいされるため、正常な臓器に対する照射量を抑えながら腫瘍のみに高線量率で照射できます。
主に、子宮・気管支・胆道・食道・直腸などの管状の臓器内に発生した腫瘍に対して使われます。

ガンマナイフ治療

頭部をX線CTやMRIで撮影し、脳腫瘍の三次元位置を正確に定めた後、201個の60Co γ線源を配置し、腫瘍部分だけに高いエネルギーの放射線が照射され、正常な脳の部位には極力放射線が照射されないように配置した頭部用照射装置です。
照射する腫瘍位置を正しく定める意味で、定位放射線外科治療装置に分類されます。
腫瘍の直径が3cm以内の脳腫瘍、脳動静脈奇形などの治療に使用されます。

電子線治療

電子線を体外から照射すると、飛程が短いため、深さとともに吸収線量が急激に減少して深部に到達しないという特徴があります。
この性質を利用し、皮膚がんなどの体表面にある悪性腫瘍治療に使われます。
電子線の線源には、主にリニアックが使用されます。

陽子線や重イオン線治療法

陽子線や重イオン線は高LET放射線のため、高い腫瘍細胞の殺傷能力を有します(生物学的効果比(RBEが高い)。
また、腫瘍の内部には酸素分圧が低い領域があり、その部分の腫瘍は酸素効果が小さいため、X線治療の効果を減弱させます。
しかし、重イオン線は酸素効果が小さいため、低酸素領域のがん細胞に対しても効果があります。
さらに、ブラッグピークを利用して体内の腫瘍を選択的に照射できる治療法です。
この治療法は、はじめ眼の悪性黒色腫瘍の治療に適用されました。

ブラッグピーク

陽子や重粒子などの質量が大きい荷電粒子は、進行経路にある物質を電離しながらエネルギーを失います。
このとき、速度が遅くなるほど単位距離当たりのエネルギー損失と電離量が増加し、停止する直前に最大になります。
この移動距離とエネルギー損失量の関係をブラッグ曲線といい、曲線の極大部をブラッグピークといいます。
X線照射では、腫瘍の前後の臓器もX線を受けますが、この曲線からわかるように、陽子や重粒子を生体に照射すると、皮膚の位置では吸収量が少なく、深さが増すにつれて多くなります。
また、皮膚からのピーク位置は、粒子の加速エネルギーを変化させて前後に移動できます。
これを利用し、腫瘍位置にピークを合わせることで、体の奥にある腫瘍部分のみを照射できます。
さらに、炭素イオンピークの広がりが狭く、陽子の3倍程度の効果があることから、日本では重イオン線治療で多くの場合、炭素イオンが使われます。

中性子捕捉療法

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)

安定核種のホウ素10Bは、熱中性子などの低エネルギー中性子との衝突断面積が大きいため、熱中性子を照射すると高い確率で核反応10B(n,α)7Liを起こし、高LET放射線のα粒子と7Li核を発生させます。
この2つの粒子は、生体内の飛程が細胞1個の大きさとほぼ等しい約5~14μm程度のため、腫瘍の細胞のみに取り込まれるホウ素含有化合物を導入すると、正常な細胞を傷つけることなく腫瘍細胞のみが破壊されます。
治療の対象は、他の方法では完治が困難な悪性脳腫瘍と悪性皮膚がん(黒色腫)の2種類です。
中性子源としては原子炉や加速器が使用されます。

ガドリニウム中性子捕捉療法(GdNCT)

安定な核の中で最も熱中性子捕捉断面積が大きい157Gdへの中性子照射で生じる飛程約100 μmのν線と同時に発生するオージェ電子で、 1個の腫瘍細胞ではなく腫瘍組織を破壊することを目指した治療法が研究されています。

Rl内用療法(放射性医薬品)

化合物などの種類により、特定の臓器・細胞に集積する性質のものがあります。
これら化合物を構成する元素を放射性核種に置き換え、それを注射や経口で投与し、それが腫瘍などの臓器・細胞に集まることで、それら核種が放出する飛程の短いα線やβ線で腫瘍などの特定の細胞を破壊する治療をRI内用療法、それに使用する医薬品を放射性医薬品といいます。

骨転移痺痛緩和治療

Sr元素はCaと化学的性質が似ているため、骨に集積します。
89SrCl2を注射で投与すると、腫瘍が転移した部位に集積し、89Srが放出するβで悪性腫瘍の骨転移に伴う炎症を抑え、痛みを緩和する治療法です(なお、2019年に販売中止になりました)。

ゼヴァリン療法

リンパ腫に多く存在するCD20抗原というタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体を90Yで集積した薬剤で、放射されるβ線によってリンパ腫細胞にダメージを与える治療法です。

ゾーフィゴ療法

骨に親和性がある223Raは、代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く集まります。
塩化ラジウム(223RaCl)を注射し、Raを骨に集め、これが放出するα線で、骨に転移したがん細胞の増殖を抑える治療法です。

その他

甲状腺がんを治療する131I内用療法などがあります。