物理
放射線取扱主任者試験の物理区分のまとめとなります。
内容によって、物理や化学、生物などの内容がカテゴリー上またがったりしますので、ご注意ください。
運動量と運動エネルギー
運動量P = 粒子の速度v × 質量m
運動エネルギー = 1/2mv2
光は、粒子としての性質と波としての性質を持ちます。
粒子としては、質量が0となりますが、以下の式で表されます。
運動量 = プランク定数h × 振動数ν / 光の速さc
運動エネルギー = プランク定数h × 振動数ν
電子では、質量が小さいため、以下の式となります。
運動量P = mv/√(1-(v/c)2)
静止エネルギーE = mc2
エネルギーE = mc2/√(1-(v/c)2)
運動エネルギーT = エネルギー ー 静止エネルギー
ド・ブロイ波
電子などでは、粒子としての性質と波としての性質の両方をもっています。
粒子が振動しているという考え方をすることになります。
波長λ = プランク定数h / (質量m × 速度v) =h / 運動量P
原子の断面積
原子の断面積はおよそ 10-20m2です。
核の断面積は10-28m2です。
核の断面積を、核反応の特別な単位として、バーンと呼びます。
一般に断面積に比例して、粒子の衝突が起こりやすくなります。
起こりうるすべてによる反応断面積の和を全断面積と呼びます
SI単位(国際単位)における定義定数
SI単位(国際単位)では、7つの定義値があります。
従来の基本量や基本単位も使用されています。
| 対応する基本単位 | 定義定数の説明 | 記号 | 定義値 |
|---|---|---|---|
| 秒 (s) | セシウム 133 原子の摂動を受けない基底状態の 超微細構造遷移周波数 |
ΔνCs | 9 192 631 770 Hz |
| メートル (m) | 真空中の光の速さ | c | 299 792 458 m/s |
| キログラム (kg) | プランク定数 | h | 6.626 070 15 × 10−34 J s |
| アンペア (A) | 電気素量 | e | 1.602 176 634 × 10−19 C |
| ケルビン (K) | ボルツマン定数 | k | 1.380 649 × 10−23 J/K |
| モル (mol) | アボガドロ定数 | NA | 6.022 140 76 × 1023 /mol |
| カンデラ (cd) | 周波数 540 × 1012 Hz の単色放射の視感効果度 | Kcd | 683 lm/W |
基本単位を組み合わせた単位が、特定の名称で表記されることもあります。
その場合は、別の特定の単位として表記されることがあります。
固有の名称と独自の記号を持つに到った22個のSI組立単位
| 量 | 単位の名称 | 単位記号及び基本単位による表現 | 他のSI単位も用いた表現 |
| 平面角 | ラジアン | rad = m/m | |
| 立体角 | ステラジアン | sr = m2/m2 | |
| 周波数 | ヘルツ | Hz = s−1 | |
| 力 | ニュートン | N = kg m s−2 | |
| 圧力、応力 | パスカル | Pa = kg m−1 s−2 | N/m2 |
| エネルギー、仕事、熱量 | ジュール | J = kg m2 s−2 | N m |
| 仕事率、放射束 | ワット | W = kg m2 s−3 | J/s |
| 電荷 | クーロン | C = A s | |
| 電位差 | ボルト | V = kg m2 s−3 A−1 | W/A |
| 静電容量 | ファラド | F = kg−1 m−2 s4 A2 | C/V |
| 電気抵抗 | オーム | Ω = kg m2 s−3 A−2 | V/A |
| コンダクタンス | ジーメンス | S = kg−1 m−2 s3 A2 | A/V |
| 磁束 | ウェーバ | Wb = kg m2 s−2 A−1 | V s |
| 磁束密度 | テスラ | T = kg s−2 A−1 | Wb/m2 |
| インダクタンス | ヘンリー | H = kg m2 s−2 A−2 | Wb/A |
| セルシウス温度 | セルシウス度 | °C = K | |
| 光束 | ルーメン | lm = cd sr (注) | cd sr |
| 照度 | ルクス | lx = cd sr m−2 (注) | lm/m2 |
| 放射性核種の放射能 | ベクレル | Bq = s−1 | |
| 吸収線量、カーマ | グレイ | Gy = m2 s−2 | J/kg |
| 線量当量 | シーベルト | Sv = m2 s−2 | J/kg |
| 酵素活性 | カタール | kat = mol s−1 |
主な基礎物理定数(物性定数)
| 定数 | 記号 | 推奨値(注) | 単位 | 相対標準 不確かさ (1σ) |
| 真空中の光の速さ | c | 299 792 458 | m s−1 | (定義値) |
| 万有引力定数 | G | 6.674 30(15) × 10−11 | m3 kg−1 s−2 | 2.2 × 10−5 |
| プランク定数 | h | 6.626 070 15 × 10−34 | J s | (定義値) |
| h / 2π | ℏ | 1.054 571 817・・・ × 10−34 | J s | (定義値) |
| 電気素量 | e | 1.602 176 634 × 10−19 | C | (定義値) |
| 磁気定数(真空の透磁率) | μ0 | 1.256 637 062 12(19) × 10−6 | N A−2 | 1.5 × 10−10 |
| 電気定数(真空の誘電率) | ε0 | 8.854 187 8128(13) × 10−12 | F m−1 | 1.5 × 10−10 |
| ジョセフソン定数 | KJ | 483 597.848 4・・・ × 109 | Hz V−1 | (定義値) |
| フォン・クリッツィング定数 | RK | 25 812.807 45・・・ | Ω | (定義値) |
| 磁束量子 | Φ0 | 2.067 833 848・・・ × 10−15 | Wb | (定義値) |
| コンダクタンス量子 | G0 | 7.748 091 729・・・ × 10−5 | S | (定義値) |
| 電子の質量 | me | 9.109 383 7015(28) × 10−31 | kg | 3.0 × 10−10 |
| 陽子の質量 | mp | 1.672 621 923 69(51) × 10−27 | kg | 3.1 × 10−10 |
| 陽子-電子質量比 | mp / me | 1836.152 673 43(11) | 6.0 × 10−11 | |
| 微細構造定数 | α | 7.297 352 5693(11) × 10−3 | 1.5 × 10−10 | |
| 微細構造定数の逆数 | α−1 | 137.035 999 084(21) | 1.5 × 10−10 | |
| リュードベリ周波数 | c R∞ | 3.289 841 960 2508(64) × 1015 | Hz | 1.9 × 10−12 |
| ボルツマン定数 | k | 1.380 649 × 10−23 | J K−1 | (定義値) |
| アボガドロ定数 | NA, L | 6.022 140 76 × 1023 | mol−1 | (定義値) |
| 気体定数 | R | 8.314 462 618・・・ | J mol−1 K−1 | (定義値) |
| ファラデー定数 | F | 96 485.332 12・・・ | C mol−1 | (定義値) |
| シュテファン-ボルツマン定数 | σ | 5.670 374 419・・・ × 10−8 | W m−2 K−4 | (定義値) |
SI接頭語
0のべき乗倍の数を示す接頭辞を付けることで、大きな量や小さな量を表します。
| 記号 | 接頭語 | 10n |
| Q | クエタ quetta | 30 |
| R | ロナ ronna | 27 |
| Y | ヨタ yotta | 24 |
| Z | ゼタ zetta | 21 |
| E | エクサ exa | 18 |
| P | ペタ peta | 15 |
| T | テラ tera | 12 |
| G | ギガ giga | 9 |
| M | メガ mega | 6 |
| k | キロ kilo | 3 |
| h | ヘクト hecto | 2 |
| da | デカ deca | 1 |
| — | — | 0 |
| d | デシ deci | -1 |
| c | センチ centi | -2 |
| m | ミリ milli | -3 |
| µ | マイクロ micro | -6 |
| n | ナノ nano | -9 |
| p | ピコ pico | -12 |
| f | フェムト femto | -15 |
| a | アト atto | -16 |
| z | ゼプト zepto | -21 |
| y | ヨクト yocto | -24 |
| r | ロント ronto | -27 |
| q | クエクト quecto | -30 |
放射線の定義(原子力基本法)
・α線、重粒子線、陽子線、その他の重荷電粒子線、β線
・中性子線、γ線、特性X線
・1MeV以上のエネルギーを有する電子線、X線
電離放射線
電離放射線とは、物質に電離作用を及ぼすことができる放射線のことです。
電離放射線が物質に入射すると、散乱や吸収によりエネルギーを与え、また電離や励起を起こします。
直接電離放射線
電荷を持つ粒子線(α線、β線など)は、それ自体が直接的に原子の軌道電子などに作用して、電離や励起を起こさせます。
このような放射線を直接電離放射線といいます。
間接電離放射線
電荷を持たない光子(X線、γ線など)や中性子線は、電子とは直接相互作用をしませんが、原子核と相互作用をして2次的に荷電粒子を発生させて、その荷電粒子が電離を起こすことがあります。
このような放射線を間接電離放射線といいます。
放射線に関する用語や単位
放射能
放射能とは、放射線を出す能力のことです。
単位時間あたりに壊変する原子数で定義されます。
単位は s−1 で、ベクレル(Bq)と言われます。
照射線量
光子の照射により、単位質量の空気中に発生した全ての電子-イオン対が空気中で完全に停止するまでに作る、イオンの全電荷の絶対値、と定義されています。
X線やγ線が空気をイオン化して生じたすべての電荷量です。
単位は C・kg−1です。
照射量率は、単位時間あたりの照射線量です。
単位は C・kg−1・s−1です。
吸収線量
吸収線量は、電離放射線の照射により単位質量の物質に付与されたエネルギーを測るための物理量です。
すべての放射線で、物質に吸収されたエネルギーです。
単位は J・kg−1となり、グレイ(Gy)と言われます。
吸収線量率は、単位時間あたりの吸収線量です。
単位は J・kg−1・s−1 あるいは、Gy・s−1です。
カーマ
カーマとは、非電荷放射線の照射により、物質内部の単位質量に生じた全荷電粒子の初期運動エネルギーの総和です。
単位は J・kg−1となり、グレイ(Gy)が用いられます。
フルエンス
単位面積あたりの放射線量を表します。
エネルギー量と線の数の2つの単位があります。
エネルギーフルエンス
飛行方向と垂直な単位断面積を通過する放射線の「エネルギー」を、断面積で割った量です。
多方面から来る場合は、球体の断面積で割った量となります。
単位は J・m-2となります。
粒子フルエンス
飛行方向と垂直な単位断面積を通過する放射線の「個数」を、断面積で割った量です。
多方面から来る場合は、球体の断面積で割った量となります。
単位は 個・m-2となります。
質量阻止能
荷電粒子がある物質を通過した際に、物質を励起や電離することで粒子が失うエネルギーを面積あたりの質量で除したものをいいます。
単位は MeV・cm2・g-1です。
質量エネルギー吸収係数
光子が物質と相互作用したとき、物質を電離や励起して二次電子を放出します。
このときに光子が物質に与えたエネルギーを面積あたりの質量で除したものをいいます。
電子ボルト
電圧差が1Vの2つの電極間で、1個の電子が得るエネルギーを1eVとします。
eVは電子ボルト(electron volt)といいます。
1eV = 1.6022×10-19J となります。
加速された電子の速度
運動エネルギーは、1/2mv2で表されます。
仮に、A電子ボルト[eV]で加速されたとすると、
A × 1.6022×10-19 = 1/2mv2
v=√(A×1.6022×10-19×2・M-1)
つまり、同じ電圧で加速したとしても、軽い粒子ほど速くなります。
特殊相対性理論としてのエネルギーと質量の等価性
E=mc2 として、質量とエネルギーの定量的関係式が示されます。
これに、mとして炭素原子12の質量の1/12と定義される原子質量単位uの1.66054 × 10-27から、エネルギーに換算します。
m=1u=1.66054×10-27kg
c=2.9979×108m/s
e=1.6022×10-19C
E=mc2
計算すると、E/e=9.3144×108V となります。 つまり、E=931 MeV です。
静止して基底状態にある原子質量単位がもつエネルギ-が931MeVとなります。
なお、電子の静止エネルギーは0.511MeVとなります。
原子の構造
原子は原子番号Zに等しい正の電荷といくつかの中性子を持つ原子核と、その周りに負の電荷を持つZ個の電
子が運動しているという構造です。
全体として電気的に中性です。
原子の大きさと構造
原子の大きさは、元素によって異なりますが、直径が0.1nmです(1nmは10-9m)。
ま原子核は、直径が数fm(1fmは10-15m)程度です
電子は、質量が9.109×10-31kgの軽い粒子で、1.602×10-19C(クーロン)のマイナス電荷を持っています。
原子核は、電子と同じ1.602×10-19Cのプラス電荷を持ち、質量が電子のおよそ1840倍の陽子Z個と、陽子よりわずかに質量が大きく電荷を持たない中性子N個で構成されています。
この中性子と陽子を核子といいます。
原子核中の陽子と中性子の個数の和A(=Z+N)を質量数と呼びます。
原子核の半径は質量数の1/3乗に比例します
R=1.25×10-15A1/3
陽子間のクーロン反発力と核子同士を引きつける核力がバランスをとることで形態を維持します。
核力は10-14m以下の距離で、ほぼ隣同士の核子間のみに働くので、 1個の核内では核力は核子の数に比例します。
一方、クーロン力は1/(距離の自乗)で減衰するので遠距離まで到達し、核内ではすべての陽子間で力が働くので
全体では陽子数Zの自乗に比例します。
このため、Zが大きくなるとクーロンカが相対的に大きくなるので、中性子数を増加することで原子核を安定に保ちます。
核種
陽子の数(原子番号)と中性子の数によって特定される原子核の種類を指し、原子の特性(元素の種類や同位体、放射能の有無など)を区別します。
同位体または同位元素、他
同じ原子番号でも、中性子の数が異なる核種
同位体の中で水素、重水素など放射線を出さないものを安定同位体
三重水素など放射線を出すものを放射性同位元素または放射性核種やラジオアイソトープ(RI)などと呼びます。
質量数(A)が等しい核種を同重体、中性子の数が等しい核種を同中性子体、原子番号も質量数も等しいが核のエネルギー準位の異なる核種を核異性体、陽子と中性子の数が互いに入れ替わった核種を鏡像体といいます。
統一原子質量単位
原子の質量は陽子6個、中性子6個、電子6個からなる中性の炭素原子12Cの質量の1/12である1.66054×10-27kgを1原子質量単位uとします。
これによって、物質の質量を相対的に表します。
陽子の質量は1.007276u、中性子の質量は1.008665u、電子の質量は0.000549uとなります。
重量単位ではそれぞれ、1.673×10-27kg、 1.675×10-27kg、 9.11×10-31kg_です。
中性子は陽子と電子の質量の合計よりわずかに大きくなります。
ボーアの原子模型(ラザフォード・ボーア模型)
ラザフォード模型の矛盾を解決するため1913年にニールス・ボーアが提唱したものです。
電子は原子核の周りの特定の「定常状態(量子化された軌道)」のみを回り、エネルギーを放出せずに安定しているとしました。
この電子を軌道電子と言います。
軌道は原子核に近く、エネルギー準位の低い方からK殻・L殻・M殻・N殻・O殻・P殻…と呼ばれています。
電子殻それぞれに入ることのできる電子の数は2n2個に等しい
励起と電離
Z個の各電子が、エネルギーの安定軌道順に入った状態を基底状態といいます。
基底状態にある原子に電子や他の原子が衝突、または同原子が波長の短い電磁波を吸収することで、電子が、エネルギーが不安定(エネルギーが高い)な軌道に移ることを励起といいます。
励起された電子は10-8秒程度の短時間で軌道間のエネルギー差に等しい電磁波(特性X線)を放出して基底状態に戻ります。
ある程度の時間、励起した状態を保っている原子核のこと、あるいはその状態を核異性体と呼びます。
質量数の後ろにmを付けて表記します。
衝突などによって電子が大きなエネルギーを得ると、電子が原子から飛び出します。
これを電離といい、これに要するエネルギーを電離エネルギーといいます。
電離エネルギーの大きさは、軌道電子と原子核の結合エネルギーと同じです。
特性X線放出と競合する過程として、軌道電子が励起エネルギーと同じ運動エネルギーを持って放出され、電離することもあります。
これをオージェ効果、放出される電子をオージエ電子といいます。
原子核の平均結合エネルギー
質量数A、原子番号Zのある核種について、その原子核の質量をM、単体の陽子および中性子の質量をそれぞれMp、Mnとすると、次のような関係があります。
B = MpZ + Mn(A-Z) - M
この式のBを質量欠損といい、Bの値は水素原子を除いてプラスとなります。
すなわち、陽子と中性子が集まってできる原子核の質量は、陽子と中性子がバラバラに存在する場合より小さくなります。
この質量欠損は、陽子と中性子を結合するための結合エネルギーとして使われます。
質量とエネルギーの等価性から、質量欠損に光速の自乗をかけたものがその原子核の結合エネルギーになります。
原子核の核子あたりの結合エネルギーが最大となるのは、鉄56Feの原子核で、約8.8 MeV/核子に達し、これが最も安定な核種であるため、核融合や核分裂のエネルギー源として重要です
平均的には約8MeVです。
物質の化学結合エネルギーは4eV程度ですから、これの2×106倍にあたる大きなエネルギーです
放射性壊変
原子核が不安定な状態から、放射線を放出して別の不安定な原子核または安定な状態の原子核に変わつていく現象を壊変(または崩壊)といいます。
放出する放射線によってα壊変、β-壊変、β+壊変、γ壊変、電子捕獲および内部転換があります。
また、壊変前の原子核を親核、壊変後の原子核を娘核といいます。
壊変図式
放射性核種には、1種類のみの壊変を起こし、安定な核種に変わるものがあります。
一方、多くの核種では、2種類以上の壊変が競合して起こり、その後、さらに別の壊変を起こし、安定な核種(基底状態)に変わるものもあります。
このような、壊変の様相を一見してわかるようにまとめた図が壊変図式です
この図では、横軸が原子番号(陽子数)を表し、左から右へと増加します
また、縦軸の水平線は各核種を表し、水平線の上または下に核種の記号を記します。
水平線の高さは、基底状態のエネルギーを0とした場合の、その核種の励起エネルギーの値に比例して描きます。
水平線の下には、その核種の半減期が示されます。
矢印は壊変を示します。
複数の分岐壊変がある場合、その壊変定数にそれぞれの分岐の比率をかけたものを、その壊変の部分壊変定数といいます
α壊変(アルファ壊変)
原子番号Z、質量数Aの放射性核種の核から、陽子2個、中性子2個のヘリウム4の原子核がトンネル効果で核の核力壁を通り抜けて放出し、原子番号Z-2、質量数A-4の原子核に変わる過程のことです。
このとき、放出されるヘリウム4の原子核をα粒子、α粒子の流れをα線といい、エネルギーは線スペクトルとなります。
β壊変(ベータ壊変)
β壊変には、β-壊変、β+壊変および軌道電子捕獲があり、いずれも弱い相互作用によって起こります。
素粒子論の4つの相互作用(重力相互作用、電子相互作用、強い相互作用、弱い相互作用)の1つで、主にβ壊変を引き起こす力です。
①電子(β-粒子)と反ニュートリノ(力を媒介する素粒子で電子と同時に壊変に関与する)を放出するβ-壊変
②陽電子とニュートリノを放出するβ+壊変(陽電子壊変)
③軌道電子を核に取り込み、ニュートリノを放出する電子捕獲(EC)
電子と陽電子をあわせてβ粒子と呼びます。
いずれの壊変も、質量が同じ同重体へ推移する現象です。
また、β線の運動エネルギーは連続分布となります。
β-壊変
中性子が電子(β-粒子)と反ニュートリノを放出して陽子になる壊変で、単にβ壊変という場合はこれを指します。一般的に、安定同位体よりも中性子の多い核で生じます。
原子番号は1つ大きくなりますが、質量数は変化しません。
n → P+ + β– + ̄
壊変エネルギーQは、生成核、電子および反ニュートリノの運動エネルギーに分配されます。
一般に、β線の運動エネルギーは連続分布となりますので、電子の運動エネルギーというときには、電子が持ち出す最大のエネルギーが用いられます。
β+壊変
陽子が陽電子(β+粒子)とニュートリノを放出して中性子になる現象で、陽電子崩壊とも呼びます。
一般的に、陽子数が過剰で不安定な原子核で起こります。
原子番号は1つ小さくなりますが、質量数は変化しません。
P+ → n + β+ + ν
放出される陽電子のエネルギーには分布があり、その形状は核中の陽子によるクーロン反発力があるため、高エネルギー側に移動します。
このため、引力により、核に引かれ、低エネルギー側に移動するβ-線のエネルギー分布と異なります。
β+壊変では、壊変後の原子番号が1つ減り、陽電子が放出されるので、親核の質量をX、娘核の質量をYとすると、
壊変エネルギーQ=(X-Y-2m)・c2
軌道電子捕獲(EC:electron capture)
原子核の陽子が軌道上の電子を捕獲して中性子に変わり、ニュートリノと特性X線、またはオージェ電子を放つ現象で、β粒子は放出されません。
一般的に、陽子数が過剰で不安定な原子核で起こります。
原子番号は1つ小さくなりますが、質量数は変化しません。
P+ + e– → n + ν
電子捕獲は多くの場合、β+壊変と競合して起こります。
軌道電子捕獲壊変の場合は、核は軌道電子から電子を1個取り込みますので、
親核の質量X、娘核の質量Yとすると、
壊変エネルギーQ=(X-Y-m+m)・c2 = (X-Y)・c2
つまり、この反応のQ値は、β+より電子2個分の質量に相当する1.022MeV分小さいため、β+のQ値が親核と娘核のエネルギー差+電子2個分の質量に相当する値以下の場合は電子捕獲のみが起こります。
軌道電子捕獲壊変により、電子軌道に空孔が生じますが、このとき外側の軌道であるLやM軌道の電子より、K軌道の電子のほうが多く核に取り込まれます。
そこへ外側の軌道電子が遷移した場合には、特性X線またはオージェ電子が放出されます。
K軌道およびL軌道の電子の結合エネルギーをEKとELとすると、特性X線のエネルギーはEKとELのエネルギー差(EK-EL)となります。
一方、オージェ電子のエネルギーはL軌道の結合エネルギー分だけ小さくなるので、(EK-EL)-EL=EK-2ELとなります。
エネルギーは線スペクトルとなります。
γ壊変
励起状態にある原子核がγ線を放出してエネルギーのより低い状態に変わることをγ壊変といいます。
励起状態の原子核は、α壊変やβ壊変などによって生成するものが多く、励起状態の寿命は一般に短いです。
γ線とX線は波長範囲が重なる短波長の電磁波(光子)ですが、原子核の内部から放出されるものをγ線といい、原子の電子軌道やX線発生装置など原子核以外から放出される電磁波をX線といいます。
エネルギーは線スペクトルとなります。
内部転換
β壊変と類似する壊変に、励起状態の原子核がν線を放出せず、エネルギーを軌道電子に直接与えて、その軌道電子を放出する現象を内部転換といい、放出される電子を内部転換電子といいます。
この電子のエネルギー分布は線スペクトルになります。
また、原子核による束縛が強いK殻の電子はL殻の電子より高エネルギーとなります。
この過程は、電磁相互作用として起こり、常に核異性体転移と競合する反応です。
陽子や中性子の数に変化がないので、原子番号と質量数は変化しません。
また、内部転換に引き続き、特性X線またはオージェ正電子が放出されます。
電子を放出しますが、中性子が陽子に変化しませんので、β壊変ではなくγ壊変に分類されます。
内部転換の起こる確率は、原子番号のほぼ3乗に比例し、原子核から放出されるエネルギーが小さいほど大きくなります。
内部転換にあずかる電子はK軌道電子が約80%です。
壊変の際に電子が放出される確率Ieとγ線が放出される確率Iγの比α(=le/lγ)を内部転換係数といい、軌道電子の種類に応じてαK、αL……と表します。全内部転換係数をαt(=αK+aL+……)、ならびに遷移の確率をP(=Ie+Iα)とすると、γ線放出の確率Iγは、Iγ=P/(1+αt)となります
エネルギーは線スペクトルとなります。
壊変に伴う原子番号
いくつかの核種は数回のα壊変とβ-壊変を起こして安定核となります。
1回のα壊変で原子番号は2、質量数は4だけ小さくなります。
一方、 1回のβ-壊変では原子番号が1大きくなり、質量数は変わりません。
α壊変の回数をx、β-壊変の回数をyとすると、これにより原子番号と質量数はそれぞれ次のように変わります。
原子番号:Z → Z-2x+y
質量数:A → A-4x
壊変に関わる粒子
α粒子
α粒子は、不安定核のα壊変によって放出されるヘリウム4の原子核で、陽子2個と中性子2個からなります。
α粒子を物質に照射すると、強い電離作用のために透過力は小さく、比電離は速度の減少とともに急激に増大します。
また、金などの重い原子核と衝突すると、大角度で散乱します。
陰電子(β-粒子)
核の壊変で放出されるβ-線は、物理的には電子と同じもので、運動エネルギーは運続スペクトルとなります。
この連続スペクトルの平均エネルギーは、最大エネルギーの1/3程度です。
質量は0.511MeVです。
物質に照射したとき、β-線のエネルギーは指数関数的に減衰します。
エネルギーを失うまでの移動距離(最大飛程)には、放出された最大のエネルギーのβ-線の飛程を用います。
陽電子(β+)
陽電子は、電子の反粒子で、絶対値が電子と等しいプラスの電荷を持ち、質量などその他の性質は電子と同じ値を持ちます。
質量は0.511MeVです。
陽電子はβ+壊変によって生じますが、それ以外に電子2個分の質量に相当する1.022MeV以上のエネルギーの光子と電磁場の相互作用により、電子-陽電子対(ポジトロニウム)が生成します。
いずれも運動エネルギーは連続スペクトルで、壊変エネルギーは放出エネルギーに1.022MeVを加えた値になります。
陽電子は真空中では安定ですが、物質に照射すると、陽電子の停止位置で物質内の軌道電子と結合し、準安定状態の電子-陽電子対をつくった後に消滅し、消滅放射線と呼ばれる511keVの2本のγ線を放出します。
この消滅放射線の波長はドップラー効果により広がり、また同時に制動放射線も放出します。
さらに軌道電子が抜けた後に特性X線やオージェ電子が放出されます。
β+線の最大飛程は、同じエネルギーのβ-線とほとんど同じですが、β+線を遮へいする場合は消滅放射線からのγ線の遮へいも考慮する必要があります。
陽子
陽子は水素原子の原子核で、中性子とともに原子核を構成する素粒子のひとつとして、すべての原子核に原子番号と同じ数だけ含まれています。
中性子と陽子を合わせて核子といいます。
質量は938.3MeVで、中性子よりやや軽く、正電荷e+(eは電気素量)を持ちます。
寿命は極めて長く、実質的には安定な粒子です
中性子
中性子は陽子とともに原子核を構成する素粒子のひとつです。
質量は939.6MeVで、陽子の質量938.3MeVや陽子と電子の和938.8MeVよりもわずかに重く、電子の質量の約1840倍です。
電荷はゼロの中性です。
単独では不安定で、半減期10.2分でβ-壊変して陽子に変わります。
n → P+ + e– + ν
電気的に中性で、陽子による反発力が生じませんので、原子核内に入りやすく、容易に核反応を起こします。
原子炉から取り出される中性子は高速で運動していますが、周りの物質と衝突しながら運動エネルギーを失い、最終的には周りの原子や分子と熱的に平衡状態に達します。
この状態になった中性子を熱中性子といい、運動エネルギーは約0.025eVとなります。
中性子はそのエネルギーにより冷中性子(<0.005eV)、熱中性子(~0.025eV)、低速中性子(~100eV)、中速中性子(100eV~100keV)、高速中性子(100keV以上)などと呼びますが、いずれも定性的な表現で、熱中性子のように明確に定義されたものではありません。
半減期
原子の数がはじめの1/2になる時間t1/2を半減期といいます。
放射性同位元素(放射性核種)は、壊変してα線やβ線などを放出します。
単位時間に壊変する放射性核種の数は、その時刻に存在するその数に比例します。
すなわち、ある時刻tにおける原子数をN(t)とすると、次の微分方程式が成り立ちます。
dN(t)/dt=-λN(t)
ここでλは壊変(崩壊)定数といい、壊変の起こりやすさを表し、核種に固有な値です。
この方程式から時間0における原子数をN0とすると、
N(t)=N0exp(-λt)
が得られます。
t1/2とλの関係は、
N(t1/2)/N0=1/2=exp(-λ t1/2)
となり、この式の両辺の対数をとって、-1をかけると、次式が得られます。
t1/2=In(2)/λ=0.693/λ
放射能
ある量の放射性核種が単位時間に壊変する個数(個/秒)を放射能といい、単位はベクレル(Bq)です。
ある時刻tの放射能をA(t)[Bq]とすると、A(t)はN(t)の微分に相当しますので、
A(t)=l dN(t)/dt l=λ・N0exp(-λt)
となります
核反応
陽子、α粒子などの荷電粒子を高エネルギーに加速して、標的となる原子核に衝突させると、核とのクーロンカの反発による障壁を越えて核力の働く10-14m程度にまで近づけます。
すると、陽子やα粒子と標的核が反応し、新しい原子核(生成核)が生じます。
このとき、反応に伴って放出される粒子を放出粒子といいます。
なお、原子の直径は10-10mに対し、核の直径は約10-14mですので、核反応の起こる断面積は、原子衝突の起こる断面積のほぼ108分の1となります。
また、核反応が起こる確率は、核の断面積に比例します。
このため、核反応の確率は「断面積」と表され、その単位は、面積と同じ次元のバーン(1バーン=10-28m2)を用います。
核反応で放出されるエネルギーQが正の場合にはエネルギーを放出するので発熱反応、負の場合にはエネルギー
を供給する必要があるので吸熱反応といいます。
核反応の表記と核反応式
ある標的原子核Xに入射粒子aが衝突し、Yという原子核と放出粒子b1、b2・・・bnを生じる核反応を、
X+a ―→ Y+b1+b2+…+bn
と表記しますが、核反応の分野では、より簡略化した次式を用います。
X(a,b1b2・・・bn)Y
この式を核反応式といいます。
式の書式は一番左に標的核種、次の( )内には、はじめに入射粒子を、続いて放出粒子を列記します。
陽子はp、中性子はn、α線はα、γ線はγと略記します。
ただし、核と中性子が反応して分裂した場合、反応生成物は一定ではありません。
この場合、生成物をf(fission products)と表記します。
中性子と核
高速中性子と熱中性子
中性子のエネルギーはその速度で決まります。
核反応で放出される中性子は、光の速度に近く、そのようなものを高速中性子といいます。
高速中性子は他の原子核と衝突を繰り返して速度が遅くなります。
十分遅くなって周りの物質と熱平衡に達した中性子を熱中性子といい、運動エネルギーは約0.025eVとなります。
原子核との反応性は熱中性子で高くなります。
核反応
原子核(標的核)に中性子や荷電粒子などが衝突すると核反応が起こり、標的核は変化します。
原子核は、正の電荷を持つ陽子と、電荷がゼロの中性子から構成されるため、全体として正の電荷を持ちます。原子核に核反応を起こさせるためには、核に中性子、陽子、他の原子核などを衝突させればよいのですが、原子
核や陽子では標的核とのクーロンカによる反発があるため、非常に大きなエネルギーが必要となります。
一方、中性子には電荷がなく、標的核とのクーロンカによる反発が生じないため、小さなエネルギーで衝突させることができます。
原子核(標的核)に中性子が衝突した場合に起こる現象には、中性子の散乱と、標的核が中性子を吸収する吸収反応があります。
散乱
散乱とは、光などの波や中性子などが標的核と衝突や相互作用を行い、方向が変わる現象で、これには弾性散乱と非弾性散乱の2種類があります。
弾性散乱は、入射中性子の運動エネルギーの一部を標的核の運動エネルギーとして与え、中性子は運動の方向が変わり、エネルギーの一部を失いますが、標的核の内部状態は変化しません。
非弾性散乱は、入射中性子のエネルギーの一部を標的核に与えて、その内部状態を変化させます。
その後中性子は運動の方向が変わり、エネルギーの一部を失います。一方、原子核が受け取ったエネルギーは、 γ線として放出されます。
吸収反応
標的核に衝突した中性子が標的核に吸収される反応です。
中性子が核に吸収されると、原子番号は変わらないですが質量数が標的核より1つ大きい原子核が形成されます。これを複合核といいます。
この核は生成後、
・複合核から何も放出しない、またはν線のみが放出する:放射捕獲反応
・荷電粒子(陽子、α粒子など)が放出する:荷電粒子放出反応
・複合核が2つの核に分裂する:核分裂反応
の3つのいずれかの反応が起こります
放射捕獲反応
この反応では、中性子と核が反応してできた複合核はγ線を放出し、基底状態、または複合核よリエネルギーが低い励起状態に遷移します。
荷電粒子放出反応
中性子と核が反応してできる複合核で、通常は陽子や中性子を放出します。
原子の原子番号が小さい場合は、荷電粒子を放出するものがあります。
核分裂反応
重い原子核は中性子を吸収し、2つの核に分裂して、2ないし3個の中性子を放出します。
これを核分裂反応といいます。
核分裂反応時の2つの原子核(核分裂片という)の質量は一定にならず、2つのビークを持つ質量分布を示します。
2つの核分裂片はお互いのクーロン力による反発で、反対方向に高速で進んで行きます。
2つの原子核の結合エネルギーより標的原子核の結合エネルギーが大きい場合、その差がエネルギーとして放出されます。
天然に存在する核種のうち、低エネルギーの中性子で核分裂を起こすのは235Uのみで、これが軽水炉などの原料になります。
核融合反応
2つの軽い原子核が反応し、それより重い原子核ができる反応を核融合反応と呼びます。
重水素(D)やトリチウム(T)のような軽い元素では、反応によって全質量が減少し、エネルギーが生成する発熱反応です。
主な反応にDT反応とDD反応があり、どちらも生成する中性子が、次の反応原料を供給する反応に利用します。
DT反応は D+T → 4He+n+17.6 MeV の一段反応ですが、
DD反応は D+D → 3He+n+3.23 MeV
D+3He → 4He+p+18.3 MeV の二段反応で進みます
中性子の反応断面積
核と入射粒子が反応する確率は、入射粒子のエネルギーや種類により異なります。
例えば、235Uと中性子の反応の断面積は、中性子のエネルギーが小さいほど大きくなり、1eV以下では、ほぼ運動速度の逆数(エネルギーの√の逆数)に比例します。
しかし、中性子のエネルギーが1~数100eV付近では、わずかなエネルギー差で断面積が著しく大きくなります。
これは、中性子のエネルギーが複合核の励起準位と一致したときに核反応が起こりやすくなるためで、これを共鳴と呼びます。
弾性衝突
中性子の衝突による減速、コンプトン効果、粒子の反跳などは、粒子や光子の弾性衝突として計算できます
1次元衝突
静止している質量Mの粒子に質量mで速度v0の粒子が弾性衝突し、それぞれV、vで動き出した場合、エネルギーと運動量の保存則から次式が成立します。
i :1/2mv02=1/2mv2+1/2MV2 エネルギー保存則
ii:mv0=mv+MV 運動量保存則
ここでii式より、V=m/M(v0-v)、これをi式に代入して整理すると、
v=(m-M)/(m+M)v0……①
同様にして、Vは次のようになります。
V=2・m/(m+M)v0……②
これにより、衝突後のm粒子の運動エネルギーは、
1/2mv2=1/2m・[1-4mM/(m+M)2]・v02
=(m-M)2/(m+M)2・1/2mv02……③
すなわち、衝突後のm粒子のエネルギーは、衝突前に持っていたエネルギーの(m-M)2/(m+M)2になります。
同様に、
1/2MV2=4mM/(m+M)2・1/2mv02……④
となります。
この4mM/(m+M)2は、m=Mのときに最大になります。
1次元分解
核が壊変し、α粒子を放出する場合などに適用します。
静止している質量Mと質量mの粒子が運動エネルギーEを受けてそれぞれ速度V、vで反対方向に動き出した場合、次式が成り立ちます。
iii E=1/2mv2+1/2MV2 エネルギー保存則
iv 0=mv-MV 運動量保存則
iv式からV=m/M・v、これを面式に代入して整理すると次式が得られます。
1/2mv2=M/(m+M)・E…⑤
同様にして、
1/2MV2=m/(m+M)・E…⑥
光子の放出
核が光子を放出する場合などに適用します。
光子の場合、エネルギーE=hν、運動量P=hν/cから、核の質量をM、光子放出後の速度をVとすると、次式が成り立ちます。
v E=hν+1/2MV2 エネルギー保存則
vi 0=hν/c-MV 運動量保存則
vi式からV=hν/(c・M)となります。
光子を放出するときの反跳エネルギーは1/2MV2ですから、
1/2MV2=1/2M・[hν/(c・M)]2=1/2(hν)2/Mc2..⑦
ここで、hνは光子のエネルギー、Mc2は核の静止エネルギーになります。
エネルギーの単位がMeVの場合、⑦式はE=537E2/Mとなります。
コンプトン効果
コンプトン効果は、光子が軌道電子と衝突し、散乱される現象です。
入射光子のエネルギーをhν 散乱光子のエネルギーと散乱角をそれぞれhνとθ、コンプトン電子の質量、運動エネルギー、運動量と放出角をそれぞれm、e、pとφ、また光速をcとすると、運動量およびエネルギーの保存則より次の関係が成り立ちます
hν0/c=hν/c・cosθ+Pcosφ……進行方向の運動量保存則
0=hν/c・sin θ-Psin φ……垂直方向の運動量保存則
hν0=hν+E……エネルギー保存則
これらの式からφとPを消去すると、次式が得られます。
hν=hν0/〔1+ [(hν0)/(mc2)]・(1-cos θ)〕……⑧
なお、この式のmc2は電子の静止エネルギーになります。
また、エネルギー保存則からコンプトン電子のエネルギーは次式となります。
E=hν-hν0=hν0/〔1+ [(hν0)/(mc2)]・(1-cos θ)〕・〔 [(hν0)/(mc2)]・(1-cos θ)〕
この式から、散乱光子のエネルギーはθ=0°で最大となり、入射光子のエネルギーと同じになります。
また、180°で最小となり、コンプトン電子のエネルギーは最大になります。
このとき、φも180°となります。
このコンプトン電子の最大エネルギーをコンプトン端と呼びます。
放射線の発生
電子線の発生
真空中で金属を加熱したときに表面から飛び出す電子を熱電子といい、これを電圧で加速させたものを電子線として利用します。
身近な装置として蛍光灯があります。
また、X線も同様にして発生させた電子線を利用します
X線の発生
融点が高く、抵抗の大きい、タングステン製のフイラメントと呼ぶ細い金属線に電流を流し、白熱状態まで加熱して熱電子を発生させます。
この熱電子を10k~数100kV程度の電圧(管電圧)で加速し、ターゲットと呼ばれる金属に衝突させると、電子は原子の核と相互作用して連続X線を放出します。
また、原子の軌道電子と相互作用して特性X線を放出します。
連続X線
高速運動している電子がターゲット材料の原子核の近くを通ると、核の正電荷のクーロン力により減速され、進行方向が変わり、同時に電子の運動エネルギーの一部をX線として放出します。
このX線を制動放射線といいます。
このとき、進行方向が変わった電子を反射電子といいます。
電子は、核の近くを通るほど大きく曲がり、放出されるX線のエネルギーも大きくなります。
このため、X線のエネルギーは連続的に変化するので、連続X線と呼びます。
デュエン・ハントの法則( Duane-Hunt Law)
X線管で発生する制動X線最短波長(λmin)[nm]が、印加する管電圧(V)[kV]に反比例して決まることを示す法則
λ min[nm]=1.240/V[kV]
連続X線では、電子の運動エネルギーの一部が電磁波に変わることから、最もエネルギーが高い、すなわち
最も波長が短いX線のエネルギーは、電子の運動エネルギーと等しくなります。
原子核と電子間のクーロン力は、その原子番号Zに比例して大きくなるので、原子番号の大きい材料ほど、連続X線の放出量が多くなります。
特性X線
電子は原子の内部で原子核のクーロン力に東縛され、とびとびのエネルギー準位を持つ電子軌道に存在します。
この中で、同じエネルギーを持つ軌道をまとめて殻と呼び、エネルギーが安定な順にK殻、L殻、M殻……と名付けられます。
高速運動している電子が原子の軌道電子と衝突すると、その軌道電子は原子から飛び出します。
最も安定なK殻の電子が衝突により放出されると、その殻に電子1個分の空きができます。
その空いた殻にはL殻やM殻の電子が遷移し、同時にK殻とL殻やM殻とのエネルギー差に等しいエネルギーのX線を放出します。
このエネルギー差は原子ごとに固有なので、このX線は原子ごとに固有なエネルギーを持つ線スペクトルとなり、これを特性X線と呼びます。
L殻やM殻からK殻に落ち込む場合の特性X線は、それぞれKα線、Kβ線と名付けられます。
また、高速電子でM殻やL殻の電子が放出された場合には、それぞれMX線やLX線が放出されますが、この場合の波長はKX線が最も短く、KくLくMの順に長くなります。
また、異なる原子間では、原子番号の増加とともにK、L、MのX線のエネルギーは高くなります。
強度が0となる波長を最短波長と呼びます
モーズリーの法則
元素の特性X線の周波数(または波数の逆数の平方根)が原子番号(核の正電荷数)に比例するという関係を示します。
α線源
α線源としては、原子炉を使用する方法と、α線を放出する放射性核種(RI)を使用する場合があります。
RIとしては、天然のウラン壊変系列核種である226Raなどや、半減期は短いが原子炉での製造が容易な210Poが多く使用されていましたが、最近は、原子炉で製造されたウランより原子番号が大きい、超ウラン元素の核種が市販され、普及しています。
α線の用途としては、煙感知器や、微量のトリウムを含有させてイオン化することにより炎を安定化させるキャンプ用のランタンもあります。
β-線源
線源としてのβ-線には、厚さ測定用の用途があり、測定する物質の厚さや材質によって異なる線源が使用されます。
β-線はエネルギーが低いほど物質透過力が小さいので、開口部には数μmの金属箔が使われます。
紙・プラスチックなどの測定には、85Krまたは147Pmのような弱いエネルギーのβ-線源が用いられ、ゴムや比較的厚いプラスチツクシートの測定には、90Srのような高いエネルギーのβ-線源が利用されます。
また、蛍光灯の点灯管では63Niや147Pmが、点火時間の短縮用に使われています。
β+(陽電子)線源
陽電子はPET装置において、がん診断に用いられますが、その他の用途としては、半導体や高分子分野の研究に使用されています。
陽電子線源として最も広く使用されているのは22Naで、24Mg(d, α)22Naの核反応で製造されます
γ線源
γ線源は、主に材料の透過写真測定や厚さ測定などの非破壊検査に使用されます。
X線源に比べてサイズが小さく、細い管内や狭い隙間に挿入できること、電源が不要で移動性に優れていること、などの特徴を有しています。
γ線の線源としては、使用目的に適し、かつサイズが小さく、線量率の大きい(比放射能が高い)ものが望まれます。
放射性核種(RI)としては、イリジウム(192Ir)、コバルト(60Co)が多く用いられています。
これらは、原子炉で元素の単体金属または酸化物に熱中性子照射による放射化反応で製造し、容器に封入して密
封線源として利用されます。
イリジウム(192Ir)
半減期は73.8日と短いが、多数の異なるエネルギーのν線を放出する特徴から、非破壊検査用γ線源として広く使われています。
平均エネルギーは400keVです。
コバルト(60Co)
γ線の実効エネルギーがイリジウムに比して約3倍高いので、比較的厚物の鋼材・構造物などの検査に使用されます。
イッテルビウム(169Yb)
低エネルギーγ線で、X線装置が使用できない場所での薄い材料の非破壊検査装置に用いられています。
セレン(75Se)
半減期が120日と、イッテルビウム(169Yb)やイリジウム(192Ir)に比べて長く、平均エネルギーが両者の中間であるため、欧州ではイッテルビウムの代わりとして使用されています。
線量率が高いものの製造が難しいという欠点があります
中性子線源
中性子線の発生には放射性同位元素(RI)を用いる方法と、加速器や原子炉を用いる方法があります。
前者は後者と比べ、小型、可搬で取り扱いが簡単、設備や維持費が安い、強度とエネルギーの安定性が高いという利点を持っています。
RIを利用して中性子を発生させる方法としては、(a,n)反応や(γ,n)反応を用いるものと、核分裂反応を用いるものがあります。
ただし実用的には、241Amのα線を9Beに照射する方法と252Cfの核分裂反応に限られています。
また、中性子の遮へいには水素含有量が多いパラフィンやポリエチレンが使われます。
以下に、主な中性子線の発生方法を挙げます。
アメリシウム(241Am)のα線をベリリウム(9Be)に照射
α線を低原子番号元素に照射すると、(a,n)反応で高速中性子が生じます。
241Amのα線を9Beに照射すると、約4MeVと比較的高エネルギーの中性子と、比較的少ない量の随伴ν線を発生します。
241Amの半減期が433年と長いため、長期間の使用でも取り替えの必要がなく、比較的低コストで運用できます。
また252Cfよリエネルギーの高い中性子が得られます。
しかし、中性子発生効率が低いため、高強度の中性子源の製作は困難で、252Cfと比べて費用も高くなります
アメリシウム(241Am)のα線をリチウム(Li)などに照射
中性子線の平均エネルギーを下げるために、241Am/Beのベリリウムの代わりにホウ素、フッ素、リチウムを使用するもので、平均エネルギーが約3MeV、1.5MeV、0.3MeVに下がります。
ただし、中性子線強度も数分の1に低下します。
カリホルニウム(252Cf)による方法
全壊変のうちの3.1%が中性子を放出する自発核分裂で、 1核分裂当たり3.76個放出するので、 1壊変当たり0.117個の中性子が得られます。
これは241Am/Beの約2000倍も大きく、微量の放射線源でも十分な線量が得られることを意味します。
また、強度の高い中性子線源も得られます
平均エネルギーは約2MeVで、きれいな連続分布となります。
欠点としては、半減期が2.65年と短いため、長期間の使用ができません。
原子炉による方法
原子炉は高線量線源で、冷中性子、高速中性子など、いろいろなエネルギーの中性子線が得られます。
欠点として、装置が高価で運用コストが高いため、施設が限られ、施設内への人の立ち入りや物品の出し入れに多くの制限があります。
加速器による方法
加速器では、陽子または重陽子ビームを、ベリリウムまたはトリチウムに衝突させ、核反応で生じた高速中性子を、通常熱中性子まで減速して使用します。
移動可能な小型装置もあります
チェレンコフ現象
荷電粒子が物質中を運動するとき、荷電粒子の電場により物質の電子が振動・分極して光を放出します。
物質の屈折率をnとするとき、荷電粒子の速度が物質中の光速であるc/nより速いと荷電粒子の飛跡上の各点から放出された光の波面(衝撃波面)がそろうため、粒子の飛跡に沿った可視光線から紫外線領域の弱い光として観測されます。
これをチェレンコフ現象といい、放出された光をチェレンコフ光といいます。
この光は、高エネルギーβ-線を放出する32P(最大エネルギー1.71MeV)や90Y(2.28MeV)で観測されます。
また、発光時間が約3psと有機シンチレーションの1/1000程度ですので、32Pの放射能の測定にチェレンコフ
検出法が使われます。
また、シンチレーション光は、荷電粒子の飛跡によらず、空間の全方向に等方的に放出されますが、チェレンコフ光の放出は指向性があり、荷電粒子の飛跡に沿った方向に放出されます。
このため、荷電粒子の進行方向がわかります。
高速の荷電粒子が物質と相互作用して光を放出すると、光はその点から円錐状に広がります。
電子の速度が光の速度より速いと各点で放出され、光の到達点(各円の包絡線)が互い同士重なり、衝撃波面が生じ、それがチェレンコフ光として観察されます
放出方向と角度
真空中の光の速度がcのとき、屈折率 nの物質中の光の速度はc/nとなります。
速度vの荷電粒子が物質を通過するとき、単位時間の間にvだけ進みます。
一方、同じ時間の間に光はc/nだけ進みます。
粒子の進行方向とチェレンコフ光の放出方向が成す角度をθとすると、
v・cos θ=c/nより、cos θ=c/(n,v) となります。
しきいエネルギー
チェレンコフ光の放出のためには、荷電粒子の速度が一定以上であることが必要です。
この最低速度は、物質内の光の速度と荷電粒子が等しい値となるところです。
v=c/n この場合、cos θ=c/(n・v)=1となります。
このとき、荷電粒子の速度vはc/nと光速に近い値なので、この粒子のエネルギーEは相対性理論で与えられます。
v/c=1/nですから、運動エネルギーTは
T=E-mc2=mc2(1/√{〔1-(1/n)2〕 -1})となります。
荷電粒子と物質の相互作用
α粒子やβ-粒子などの荷電粒子は、物質中を通過しながら原子を電離して電子-イオン対を生成し、同時に粒子自身もエネルギーを失うなどのことを繰り返し、最終的には全エネルギーを失って停止します
このとき、
・荷電粒子が単位長さ当たりで生ずるイオン対数を比電離
・1組の電子-イオン対を生じるのに必要なエネルギーをW値
といいます。
荷電粒子と相互作用
荷電粒子は、物質と次のような相互作用を起こします。
①原子を電離して、電子―陽イオン対を生成する
②軌道電子や原子核によって散乱され、進行方向が変化する(放射阻止)
③原子核の電場によって散乱され、X線(制動放射線)を放出する
これら阻止能の総和を全阻止能といいます。
このうち、①はすべての荷電粒子で起こります。②③は粒子の進行方向を変化させますが、β粒子以外の粒子では無視できる大きさの相互作用です。
荷電粒子の中でβ粒子以外を重荷電粒子といいます。
重荷電粒子は②③の相互作用が小さいので、停止するまで直線的に進みます。
一方、β粒子は②③で方向が変わるため、ジグザグに進みます。
このβ-粒子が曲がるときに制動放射線としてX線を放出します。
また、α粒子などと比べ、物質との相互作用が小さいため、停止するまでに長い距離を進みます
阻止能
粒子が単位長さ当たりに失うエネルギーを阻止能または線阻止能といい、粒子の速度の減少とともに増加します。
阻止能のうち衝突(による電 超離)を行ってエネルギーを失うものを衝突阻止能(Scol)といい、
粒子が原子核の学電場によって曲げられ、電磁波を放射することでエネルギーを失うものを制動放射阻止能(Srad)といいます。
また、失う全エネルギー(全阻止能S=-dE/dx)は、衝突阻止能と制動放射阻止能の合計で表され、単位は、J/mまたはkeV/μmです。
衝突阻止能
衝突阻止能Sは、速度vで入射する重荷電粒子に対して、次に示すベーテの理論式によって算出されます。
ベーテの式(阻止能の公式、Bethe formula / Bethe-Bloch equation)
陽子やアルファ粒子などの高速荷電粒子が物質中を進むとき、単位距離あたりに失うエネルギー(阻止能)を計算する式です。
粒子が物質中の電子と電離・励起を起こすことでエネルギーを失う現象を記述します。
dE/dx = 4πe4z2N/mv2・Z・(In(2mv2)/I)-In(1-β2)-β2) = 定数×NZ・z2/v2
ここで、eは電子の素電荷、mは入射粒子の静止質量、zは入射粒子の電荷数(=原子番号)、Zは粒子が照射される標的物質の原子番号、Nは標的物質の単位体積中の原子数、Iは物質の平均励起ポテンシャル、βはcを光速度としてv/cを表します。
この式から衝突阻止能は、
・入射粒子の電荷zの自乗に比例し、速度vの自乗に反比例する
→速度の遅い電子ほど大きく阻止する
・標的物質の単位体積中の原子数Nと原子番号Zに比例する
→原子番号と密度が高い物質ほど大きく阻止する
質量衝突阻止能
阻止能を密度ρで割ったものを質量衝突阻止能といい、Smで表します。
単位は[MeV cm2・g-1]です。
質量衝突阻止能の値はその物質の原子番号Zに比例し、質量数A(=陽子数+中性子数)に反比例します。
原子番号が小さいときは核の中性子数と陽子数はほぼ同じですが、大きくなると陽子数より中性子数が多くなるので、質量衝突阻止能は小さくなります。
つまり、原子番号の影響は衝突阻止能と逆になります。
重荷電粒子と物質の相互作用
重荷電粒子は、物質中の電子に比べて非常に重いので、物質に照射された粒子は電離作用をしながら、入射位置から停止するまで直線的に進みます。
このとき、重荷電粒子はベーテの式で表されるように、速度が遅くなるほど急激に阻止能が大きくなります。
この結果、β-粒子と異なり、同じエネルギーの重荷電粒子はほぼ同じ距離で停止します。
この停止するまでの距離に対する比電離の大きさを示す曲線をブラッグ曲線といいます。
また、入射から停止するまでの距離を飛程といいます。
飛程は粒子の種類、エネルギー、標的物質の種類が同じなら、ほぼ同じになります。
また、粒子のエネルギーが大きいほど、また軽い物質中ほど飛程は長くなります。
放射性核種から放出されるα線のエネルギーは約4MeVから9MeVで、光の速度の20分の1程度の速度になります。
このエネルギー範囲でα線の空気中での飛程R(cm)とエネルギーE(MeV)の関係は、次式で表せます。
R=0.318E3/2
例えば、232Thのα粒子(4.01 MeV)の空気中の飛程は約2.5cmです。
ある物質中と空気中の飛程の比を相対阻止能といい、次式で表されます。
相対阻止能=(空気中でのα粒子の飛程)/(その物質中でのα粒子の飛程)
相対阻止能は、水で約1000、鉛で5000以上です。
β-粒子と物質の相互作用
β粒子は質量が小さいので、比電離は同じエネルギーのα線の場合より小さく、物質の内部をはるかに奥まで侵入し、数m~数10mに及ぶこともあります。
β粒子は重荷電粒子とは異なり、運動エネルギーが連続的な分布のうえ、進行方向が変化するため、重荷電粒子のような決まつた飛程がありません。
しかし、ある物質に入射したβ粒子の電離は距離とともに指数関数的に減少します。
その後、ある厚さ以上になると、ほぼ一定の電離となります。
このため、飛程の代わりに、電離が事実上起こらなくなる物質の厚さとして最大飛程を定義しています。
β線の最大飛程R(g・cm-2)は、物質にあまり影響されず、エネルギーE(MeV)との関係は次式で与えられます。
R=0.407E1.38 0.15MeV<E<0.8MeV
R=0.542E-0.133 0.8MeV<E
この飛程の式から実際の飛程距離を求めるには、計算結果を密度で割って算出します。
最大飛程の値は、物質の原子番号Zが大きくなるほど短くなります。
これは、原子番号Zが大きくなると、入射電子と衝突する電子数が増加するので、その分だけ大きく減速されるためです。
光子と物質の相互作用
光子(電磁波)であるγ線やX線は電荷を持たないので、α線やβ線のようなクーロン力による相互作用はありませんが、軌道電子と衝突することなどにより、物質と相互に作用します。
光子と物質との主な相互作用には、次の3つが代表的です。
①光電効果
②コンプトン効果
③電子対生成
+レイリー散乱、放射線吸収・放射・放出
光電効果
光電効果は、原子核の周りにある軌道電子が、入射光子のエネルギーをすべて吸収して原子外に飛び出し、光子が消滅する現象です。
このとき、消滅したX線の進行方向に、光電子と呼ばれる電子が放出されます。
放出された光電子の運動エネルギーTは、光子のエネルギーE0から電子の電離エネルギーEBを引いたもので、入射光子のエネルギーより小さくなります。
照射される物質の原子番号をZ、エネルギーをEとすると、光電効果の起こる確率は、Z5・E-3.5に比例します。
つまり、原子番号が大きく、光子のエネルギーが小さいほど大きな効果を与えます。
鉛では600keV以下、アルミニウムでは50keV以下で生じる主要な相互作用です。
光電効果の起こる確率は、原子核との結び付きの強い電子ほど高く、最も内側にあるK殻電子から約80%が放出されます。
そのため、光電効果の後、L殻、M殻からK殻に電子が落ち込み、特性X線が二次的に放出されます。
コンプトン効果
コンプトン効果は、入射光子が軌道電子と衝突すると、軌道電子が反跳電子(光子と逆向きに動くこと)として飛び出し、光子の運動方向が変わる現象です。
このとき、散乱される光子は、反跳電子に電離するエネルギーと運動エネルギーを与えるため、入射光子のエネルギーより小さく、波長が長くなります。
入射光子の波長λ0と散乱角θの散乱光子の波長λsとの差 Δλ=(λs―λ0) は散乱前後のエネルギーと運動量の保存則から、電子の質量をm、真空中の光速をc、プランク定数をhとすると、次式で与えられます。
Δλ=h/mc(1-cos θ)
この式のh/mcはコンプトン波長と呼ばれ、2.426×10-12mで、この波長のエネルギーは電子の静止エネルギーと等しい0.51 MeVとなります。
コンプトン効果は電子による散乱なので、確率は物質の原子番号に比例し、エネルギーEに反比例します。
つまり、Z・E-1に比例します。
鉛では0.6~5MeV、アルミニウムでは0.05~15MeVで大きな効果を生じます。
コンプトン効果では、光子は全方向に散乱しますが、光子のエネルギーが大きくなるほど前方により多く散乱します
電子対生成
電子対生成とは、電子2個分の静止質量に相当する1.02MeV以上の高エネルギーの光子が原子核の近くのクーロン場を通過したときに電子と陽電子の対が生成され、光子が消滅する現象です。
電子対生成の反応確率(反応断面積)はZ2に比例します。
生成した陽電子は、電子と結合すると、その位置で0.51 MeVの2個のγ線を互いに反対方向に放出します。
このγ線は消滅放射線と呼ばれます
エネルギーが1.02MeV以上のX線が原子核の近くを通過すると電子と陽電子の対が生成され、2電子とも前方向に放出されます。
レイリー散乱
低エネルギーの光子ではレイリー散乱が起こります。
原子核に5MeV以上の光子が入射すると励起され、その後、中性子、陽子、重陽子、α粒子などを放出する吸熱反応が起こります。
これを光核反応といいます。
線減弱係数
物質内を進むX線やγ線は、相互作用によって次第に減衰します。
この減衰を引き起こす相互作用を行う単位距離当たりの確率を、線減弱係数と呼びます。
線減弱係数は、光電効果による減衰(μτ)、コンプトン効果によるる減衰(μσ)および電子対生成による減衰(μκ)の効果の和で表されます。
それを全線減弱係数(μ、単位:cm-1)と呼び、次式で表します。
全線減弱係数 μ=μt+μσ+μκ
同じ物質でも密度によって単位厚さに含まれる原子数は変化します。そこで線
減弱係数の代わりに、μを密度ρで割つた質量減弱係数(μ/ρ、単位:cm2・kg-1)を用いる場合もあります。
μはエネルギーによって大きく変化します。
エネルギーが小さい領域では光電効果が、数100keV以上ではコンプトン効果が、5MeV以上では電子対生成が主な効果となります。
また、光電効果は0.09MeVの部分で大きくなっていますが、これはこのエネルギー以上になると初めてK殻電子が放出されるためで、このエネルギーをKリミットといいます。
半価層
強度I0のγ線やX線が線減弱係数μの物質中をxcm進んだ場合の強度Iは、次式で表されます。
I=l0 exp(-μx)
ここで、はじめの強度I0が半分となる物質の厚さxを半価層(単位:cm)といいます。
線減弱係数と半価層には次の関係があります。
線減弱係数×半価層=ln(2)=0.693
また、半価層は線減弱係数と同様、 γ線のエネルギーによって変化します。
類似の用語として、はじめの強度I0が1/10となる厚さを1/10価層といいます。
加速器
加速器は、電場や磁場を用いて電子や陽子、イオンなどの荷電粒子を加速して運動エネルギーを大きくする装置です。
加速された高エネルギーの荷電粒子は、物質と衝突させて別種の放射線を発生させたり、核反応で別種の核を製造したりするほか、がん治療などに応用されています
種類
法令では加速器を放射線発生装置と呼んでいます。
「サイクロトロン、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン、直線加速装置、ベータトロン、ファン・デ・グラーフ型加速装置、コッククロフト・ワルトン型加速装置の7種とその他荷電粒子を加速することにより放射線を発生させる装置で、放射線障害の防止のため必要と認めて原子力規制委員会が指定するもの」を挙げています
分類
荷電粒子の運動形態による分類
①真っ直ぐ走らせて加速する線形加速器
フアン・デ・グラーフ型加速器、コッククロフト・ワルトン型加速器、直線加速器
②円運動をさせて加速する円形加速器
サイクロトロン、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン、ベータトロン
荷電粒子の加速方式による分類
・荷電粒子を直流高電圧で直接加速する直接加速方式
*高い加速エネルギーが得られません
ファン・デ・グラーフ型加速器、コッククロフト・ワルトン型加速器
・高周波磁場/電場を用いて加速する間接加速方式
間接加速方式はさらに次の2つに分けられる。
・高周波電場を利用した線形加速器
直線加速器
・磁場を用いて荷電粒子を円運動させる円形加速器
サイクロトロン、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン、ベータトロン
特徴
コッククロフト・ワルトン型加速器線形加速器。
直接加速方式。
交流電源から多数のコンデンサと整流器を組み合わせた、倍電圧回路と呼ばれる整流回路で、直流の高電圧を発生させます。
この高電圧で強い直流電場をつくり、イオン源で発生させた荷電粒子を加速させます
ファン・デ・グラーフ型加速器線形加速器。
直接加速方式。
球状の高圧電極の中にある滑車と下端の滑車の間にある、図に赤色で示す電荷移送用絶縁ベルトに、コロナ放電
で正電荷を与え、その正電荷を上方の電極内に運び込み、高圧電極表面に蓄えて高電圧を発生させ、イオン源からの荷電粒子を加速させます。
この加速器はRBSなどの表面分析装置として使われま
す。
ベルトの代わりに金属ペレットを用いる方式も開発されています
直線加速器(線形加速器):リニアック
線形加速器。間接加速方式。
直線状の加速管と呼ばれる真空の円筒内に、中央に穴が空いた円盤状の電極を並べ、その電極を1極おきに接
続し、2つの極間を荷電粒子が通過する時間の2倍に相当する高周波電圧を加えて加速させます。
電子と他の荷電粒子は質量が大きく異なるため、それに応じて構造の異なる線形加速器が使われます。
医療の分野では、電子線、陽子線、重陽子線などを加速させ、がんの治療や診断に用いる半減期の短い核種の製造など、先端医療分野で幅広く使われています。
サイクロトロン
円形加速器。間接加速方式。
この加速器は、一様な磁場の中に、磁場と直角にディーと呼ぶ2個の半円形電極を一様な磁場の中に向かい合
わせに置き、これに高周波電圧を印加します。
粒子は2つの電極間ギャップを通過するときに印加された電圧からエネルギーを得ます。
粒子が加速するとともに、軌道がらせん状に広がっていきます。
加速によって粒子の軌道半径は大きくなりますが、角速度は一定のままです。
粒子が半周して、もう一方の電極に達したときに電圧を逆転させると、粒子はさらに加速され、加速とともにその軌道半径は大きくなります。
このようにして、粒子は同じ周波数の高周波電圧で徐々に加速され、軌道半径がデイーの直径と同じになったところで荷電粒子が取り出されます。
この加速器の利点としては、加速された荷電粒子が連続的に得られることです。
この特徴を生かし、放射性核種の製造に多く使われます
シンクロトロン
円形加速器。間接加速方式。
サイクロトロンは、粒子が加速するとともに、軌道がらせん状に広がっていきます。
このため、高エネルギーを得るには巨大な磁石が必要となります。
これを避けるため円形軌道の直径を一定とし、粒子が加速されるとともに磁場を強くし、同時に加速周波数も変化させて加速させるのがシンクロトロンです。
電子や陽子の超高エネルギー加速器としては、ほぼすべてにシンクロトロンが使われます。
シンクロトロンはある一定以上の速度を持った粒子でないと加速できないため、前段の加速器が必要となります。
通常、この用途には直線加速器が使われます
シンクロサイクロトロン
円形加速器。間接加速方式。
サイクロトロンでは、荷電粒子の速度が光速度に近づくと、相対性理論の効果により質量が増大し、回転速度が下がるため、それ以上の加速ができなくなります。
シンクロサイクロトロンは、質量の増大に対応し、高周波電場の周波数を徐々に下げることで加速を行う装置です。
ベータトロン
円形加速器。間接加速方式。
円形磁石の外周部にドーナツ型の真空容器を置き、その中で電子を高周波磁場で加速させます。
加速とともに回転半径が増加するのを円形磁石の磁場を強くすることで一定とし、同時に高周波磁場を増加させます。
電子(β粒子)用の加速器ですが、近年は直線加速器に置き換えられています。
直流電場による荷電粒子の加速エネルギーと速度
荷電粒子の電荷をze、加速電極間の電場をVとすると、その電場で荷電粒子が得る運動エネルギーEは
E=zeV
となります。
一方、荷電粒子の質量をm、加速で到達した速度をvとすると、この運動エネルギーは、E=1/2mv2です。
この両式から、V=√(2zeV/m)が得られます
直流磁場中の電子の運動
磁束密度Bの磁場に垂直な平面内を、非相対論的速度vで運動する粒子(質量M、電荷ze)の円軌道の半径をrとすると、このとき、ローレンツカ=zevBと遠心力=Mv2/rが釣り合って円運動をします。
これより、zevB=Mv2/rとなり、これを変形すると、角速度(v/r)は、v/r=zeB/Mとなります。
また、粒子が円軌道を一周するのにかかる時間Trは、次式となります。
Tr=2π(r/v)=2πM/zeB
つまり、非相対論的速度の範囲では、Trは粒子のエネルギーによらず一定となります。
この周回の周波数1/Trが粒子のエネルギーによらず一定となることを利用し、一定の周波数で粒子を加速させるのがサイクロトロンです。
また、このとき加速された粒子の速度は、角速度の式からv=zeBr/Mとなる
ので、粒子の運動エネルギーEは次のようになります。
E=1/2Mv2=1/2M。(zeBr/M)2=(zeBr)2/(2・M)
