化学

2026年1月10日

目次

元素

元素は物理的・化学的な性質など、さまざまな切り口によって分類されます。
その代表的なものの1つとして、元素の周期表による分類があります。周期表では、縦の列を族、横の行を周期と呼びます。

同じ周期に属する元素は、最外電子殻が同じです。

同じ族に属する元素は一般的に価電子の数が同じで性質も似ています。
族は1族~18族に分けられ、同じ族に属する元素を同族元素といいます。
族の一部には、最も軽い元素の名前などを付けた別名があります。
ます。

ランタノイド

原子番号57のランタン(La)から71のルテチウム(Lu)までの15の元素の総称で、すべて遷移元素でもあります。
ランタノイドは、4f軌道が占有され始める元素の集まりで、セリウムから順に4f軌道に電子が1個ずつ詰まっていき、イッテルビウム(Yb)で14個の全軌道が占有されます。
原子番号が増すと原子半径が小さくなりますが、これをランタノイド収縮といいます。
また、原子番号61のプロメチウム(Pm)には安定同位体がありません。
ランタノイドの安定原子価は3価ですが、一部の化合物では2価や4価で安定する場合もあります。
特にセリウム(Ce)は4価、ユウロピウム(Eu)は2価が安定です。

アクチノイド

原子番号89のアクチニウム(Ac)から103のローレンシウム(Lr)までの15の元素の総称で、ウラン(U)などが含まれます。
すべて放射性核種で、壊変系列のトリウム系列とウラン系列に属する元素以外は半減期が短く、天然には全くまたはごくわずかしか存在しません。
したがって、これらは人工的につくられたものです。
アクチノイドの原子価はトリウム(Th)で4価、ウランで6価、ネプツニウム(Np)で5価、プルトニウム(Pu)で4価など元素によつてさまざまです

放射性核種

放射性核種(放射性同位元素、ラジオアイソトープ(RI))には、自然を起源とした放射性核種と、人工的に生成した人工放射性核種があります。
自然を起源としたものは、さらに次の2つに分類されます。
●地球形成過程で宇宙空間から地球に取り込まれた放射性核種
40K、87Rb、138La、147sm、176Lu、232Th、238U系列などがあります。
●現在も宇宙線によつて自然界で生成される放射性核種
3H、7Be、22Na、14C、36Clなどがあり、宇宙線起源核種、宇宙線生成核種または誘導放射性核種ともいいます。
自然起源の放射性核種を有意に含む物質を自然起源放射性物質(NORM)といいます。

原子放射性核種

原始放射性核種(一次放射性核種ともいいます)は、約46億年前に地球が誕生したとき、宇宙空間から取り込んださまざまな放射性核種のうち、半減期が長い核種が46億年経つた現在でも存在し続けているものです。
・232Th(半減期140億年)を親核とするトリウム系列核種
・235U(半減期7.04億年)を親核とするアクチニウム系列核種
・238U(半減期44.7億年)を親核とするウラン系列核種
があります。
これらはいずれも半減期が長く、一番短い235Uでも7.04億年の値となります。
また、原始放射性核種が壊変して生成した核種を二次放射性核種といいます。

誘導放射性核種

安定核種の原子核に、宇宙線や原子炉からの高エネルギーの中性子、陽子、重陽子、α粒子などの粒子あるいは高エネルギーX線を照射すると、核反応が起こり、放射性核種が生成されます。
これを誘導放射性核種といいます。
宇宙線によるものは宇宙線起源核種と呼び、それには核反応で生成するものと破砕反応で生成するものの2種類があります。
原子炉で生じる誘導放射性核種は、施設内の放射能汚染の原因になります。

壊変系列

原子放射性核種は、質量を4で割つた余りにより4つの系列に分類される。
放射性核種の中には1回の壊変で安定核種に到達しないものもあります。
このような放射性核種は、壊変によって新たな放射性の娘核が生成され、それがさらに壊変して放射性の娘核が生成されることが繰り返され、最終的に安定核種に到達します。
この連続した壊変で生成される核種の列を放射性壊変系列といいます。
原子放射性核種の中では、ウラン系列、 トリウム系列、アクチニウム系列、ネプツニウム系列と名付けられた4つの系列がこれに当たります。
天然元素で原子番号82の鉛以上の元素はすべて放射性核種を持ち、これらはすべてこの4つの系列に属します。原子放射性核種は、質量を4で割つた余りにより4つの系列に分類される。

ウラン系列

ウラン系列は、半減期44億7千万年の238Uから始まり、最後に安定した206Pb(鉛)になるまでの核壊変系列です。
この系列では、最終的な壊変の近くで複雑に分岐しますが、いずれも途中8回のα壊変と6回のβ-壊変を起こします。
この系列の核は、質量が4n+2(nは整数)で表されるので、4n+2系列と呼びます

トリウム系列

トリウム系列は、半減期140億年の232Th(トリウム)から始まり、最後に安定した208Pb(鉛)になるまでの核壊変系列です。
この系列は最後に1回分岐しますが、いずれも途中6回のα壊変と4回のβ-壊変を起こします。
この系列核は、質量がすべて4n(nは整数)で表されるので、4n系列と呼びます。

アクチニウム系列

アクチニウム系列は、半減期7.04億年の235Uから始まり、最後に安定した207Pbになるまでの核壊変系列です。
この系列は、はじめから複雑に分岐しますが、いずれも途中7回のα壊変と4回のβ-壊変を起こします。
この系列の核は、質量が4n+3(nは整数)で表されるので、4n+3系列と呼びます。

ネプツニウム系列

ネプツニウム系列は、半減期214万年の237Npから始まり、最後に安定した205TIになるまでの核壊変系列です。この系列は最後に1回分岐しますが、いずれも途中8回のα壊変と4回のβ-壊変を起こします。
この系列の核は、質量が4n+1(nは整数)で表されるので、4n+1系列と
呼びます。なお、237Npの半減期が短いので、この系列は分裂する最後の核種で
半減期が長ぃ209Bi以外は現在天然に存在しません。

壊変系列における放射性核種

238U(ウラン)

238uは、ウラン系列の最初の核種です。
238Uは半減期44.7億年でα壊変して234Th(半減期24.1日)となり、さらに234mPa(半減期1.16分)を経て234U(半減
期24.5万年)となります。
238Uの半減期は極めて長いので、天然のウラン中では238U-234Uは放射平衡となり、両者の放射能強度は等しくなります。
238Uは太陽系がつくられたときから存在しており、天然ウランの99.27%を占めます。
また、原子炉の一種である重水炉や黒鉛炉の燃料として使用されています。
238Uは中性子を捕獲すると239Uとなり、それが2回β-壊変して239Puが生成します。
このプルトニウムを核燃料とする高速増殖炉が開発されています。
238Uは地球上の地殻に広範囲に含まれており、日本で多く産出する花こう岩と石灰岩にも1t当たりそれぞれ、4.7および4.4gの238Uが含まれています。
また、海水中には、この1/1000の1t当たり2~3mg程度が含まれます。
この系列は、ウランー鉛年代測定法として数億年の年代測定に使われます。

210Po(ポロニウム)

ウラン系列の最後に210Pb→210Bi→210Po→206Pbがあります。
210Poは魚介類に多く含まれ、特に内臓に濃縮します。
日本人は魚介類の消費量が多いうえ、内臓ごと食べる習慣があるため、210Poの摂取量が多くなります。
この210Poが体内に入ると、α壊変で多くの内部被ばくを生じます。
これは日本人が自然界から被ばくする最も大きな原因となっています

222Rn(ラドン)

222Rnは、226Ra(ラジウムの中で半減期が最も長い1600年)の娘核です。
半減期3.82日(Rnの中で最長)でα壊変し、218Poになります。
また、両者は永続平衡になっています。
ラドンは貴ガスなので、生成すると土壌などから空気中に移行します。
これを含む空気を吸入摂取することが内部被ばくの大きな原因になっています。

232Th(トリウム)

232Thはトリウム系列の最初の核種で、半減期140億年でα壊変して228Raに変わります。
228Raは半減期が5.75年と短く、232Thと永続平衡の関係になります。

220Rn(ラドン、トロン)

トリウム系列には224Raがα壊変で生じた220Rnが含まれ、これは222Rnとともに吸入被ばく源となります。
なお、220Rnは歴史的経緯でトロンともいいます。

235U(ウラン)

アクチニウム系列の最初の核種です。
半減期は7.04億年でα壊変して231Thになり、さらに半減期25.5時間でβ壊変して231Paになります。
235Uと231Thは永続平衡の関係になります。
太陽系がつくられたときから存在し、天然ウラン中の0.72%を占めます。
日本では軽水炉型原子力発電所の核燃料として、235Uを3~5%に濃縮したものを使用します

237Np(ネプツニウム)

ネプツニウム系列の最初の核種で、半減期214万年でα壊変して233Paになります。
半減期は地球年齢と比べて短いため、現在は消滅しています。
このように太古には存在したが、現在は天然に存在しないものを死減放射性核種といいます。

209Bi(ビスマス)

ネプツニウム系列の最後の手前にあり、半減期が長いので現在も存在します。
ネプツニウム系列の特徴は、最終壊変生成物が鉛でなくタリウムであること、貴ガスのラドンが生じないことです。

237Npや239Pu

鉱物中のウランとの中性子の核反応によって生成されます。
鉱物中に存在する系列核種から放出されるα線は、ウランやベリリウムに衝突し、中性子を放出します。
この中性子と鉱物中のウランが核反応を起します。

壊変系列以外の放射性核種

40K(カリウム)

40K(カリウム)は、天然に存在する代表的な放射性核種で、太陽系がつくられたときから存在しています。
半減期は12.5億年であり、その89.3%はβ-崩壊でエネルギー1.31MeVのβ線を放出して40Ca(カルシウム)に、残りの10.7%は電子捕獲壊変で40Ar(アルゴン)となり、同時にエネルギー1.46MeVの7線を放出します。
40Kは超新星の爆発時につくられたもので、地球が形成されたときに宇宙空間から取り込まれました。
現在の同位体存在比は0.0117%で、比放射能は30.4Bq/gです。
40Kは人工的につくられることはほとんどありませんが、同位体存在比や比放射能の高い40Kは同位体濃縮で得られます。
人体を被ばくする自然放射線であり、被ばく源としては大きな割合を占めます。カリウムは人体の必須元素です。
アルカリイオンとして水に溶けるので、それを飲水すると人体の全身に広く分布します。
体重60kgの成人男性の体内にはカリウムが140g含まれ、そのうちの0.0117%が40Kです。
したがって、この成人男性にはおよそ4000Bqの40Kが存在しています。
この40Kが放出するβ線による被ばく線量は、日本人の自然被ばく線量の10%ほどを占めています。
食品中のカリウム含有量は、1kg当たりに換算すると、自米で1.1g、大根で2.4g、ほうれん草で7.4g、りんご、鶏むね肉およびカツオで4.4gとなります。
また、外洋海水では0.4gです。
一方、岩石中のカリウム量(%)は、玄武岩0.83、花こう岩3.34、石灰岩0.31です。
地球の大気中に約1%存在する気体アルゴンの99.6%は40Arで、これは主に40Kから生成したものです。
「溶岩中にはガスである40Arは含まれないが、溶岩が固まって岩石ができるとその後は40Kの壊変で生成した40Arが岩石中に留まっている」という仮定に基づき、岩石中の40K-40Ar比を求めることで岩石の年代測定を行う方法をカリウム-アルゴン年代測定法といいます。
この測定法は、数千万年前から数十億年前程度の年代測定に使われ、黒雲母、自雲母、長石など、カリウム含有量の多い岩石に適用されます。
なお、これら岩石の39Ar/40Ar比は、カリウム含有量が多いほど小さくなります。

87Rb(ルビジウム)

87Rb(ルビジウム)は、半減期が497億年と極めて長い核種で、β-崩壊を起こして87Srになります。
ルビジウム中の天然存在比は27.84%と大きな割合を占めています。
87Rbは40K、ウラン系列核種およびトリウム系列核種に比べると被ばくへの寄与は小さいのですが、放射性系列を構成しない核種としては40Kに次いで重要な核種です。
環境中でのルビジウムの挙動には不明な点が多くありますが、人体中の87Rb濃度は約8.5Bq/kgです。
87Rbが87Srに崩壊する現象を利用した年代測定法にRb-Srというものがあります。
石英、カリ長石、斜長石、雲母など、複数の鉱物を含む花こう岩などでは、各鉱物に含まれる87Rbと87Srの比は溶岩が固まって岩石になった時点では同じですが、時間の経過とともに変わっていきます。
Rb-Srはこの現象を利用した測定法で、岩石からアルゴンが抜け出すために40K-40Arでは正しい年代を測れない場合に利用されます

138La(ランタン)、147Sm(サマリウム)、176Lu(ルテチウム)

人体への被ばく源として、従来は40Kと87Rbのみを考慮していましたが、現在はこれらの核種について検討されています

宇宙線起源核種

地球には、太陽からの高エネルギーの陽子や超新星の爆発を起源とする荷電粒子などの宇宙線が降り注いでいます。
これら高エネルギーの一次宇宙線は地球の大気と衝突し、中性子、陽子、π中間子、α線などの二次宇宙線、核反応や核破壊で生じる3H、7Be、22Na、14C、35S、36Cl、129Iなどを生成させます。
このような起源で生じた放射性核種を宇宙線起源核種、宇宙線生成核種または誘導放射性核種と呼び
ます。
宇宙線起源核種には多くの種類がありますが、いずれも半減期が地球誕生からの時間と比べて短いので、現在の存在量は時間が経っても変わらない平衡状態になっています。
また、存在量が少ないため、人体の被ばく線量への寄与はわずかです。
なお宇宙線は地磁気の影響で赤道近くで減少するので宇宙線起源核種も減少します

14C(炭素)

14Cは、高層大気中で低速の宇宙線による14N(n,p)14C反応で生成し、半減期5730年で低エネルギーのβ線を放出し、14Nになります。
宇宙線で生じた14Cは、大気中の酸素と直ちに反応してCO2になった後、大気循環で海水に吸収されたり、光合成で植物に取り込まれ、有機物として固定されます。
固定された14Cはその後、食物連鎖で人体に取り込まれます。
地球表面の炭素の同位体比は次のようになっています。
12C:13C:14C=0.989:0.011:1.2×10-12
なお、宇宙線強度が大きくなると14N(n,p)14C反応で14Nが減少するので、14N/15N比は小さくなります。

3H(トリチウム)

3H(Tとも書きます)は宇宙線からの高速中性子が大気中の14Nや160などと衝突し破砕反応(n,3H)で生成します。
3Hは弱いβ線を放出して3Heになります。
これによる生成量は7×1016Bq/年、平衡存在量は1.8×1018Bqです。
これにより生じたTは、大気中の水と水素交換してHTOとなります(Hと比べTの量が少ないのでT2Oにはなりません)。このHTOは、大気循環を通して大気や海水中に取り込まれます。
この他に、1945~63年に行われた原水爆実験で約2.4×1020Bqが大気圏に放出されたことで降水中のT濃度が100Bq/Lまで上昇しました。
この値は現在0.5Bq/Lまで減少しています。
原子炉では約1×10-4程度の確率でウランからTが生成します。この結果出力lGWの原子炉で約1.8×1014Bq/年のTが生成します。
これは燃料棒に留まりますが、核燃料再処理工場で処理するときに放出されます。
Tを核融合の燃料に使う研究が行われています。
これに使うTは6Li(n, α)3Hゃ7Li(n,na)3Hの反応で製造することが予定されています。
使用量は1発電所当たり年間0.5×1018Bqと想定されています。
他の用途として地下水中の3H:3He比の測定から、降水から湧き出すまでの時間を求める方法があり、富士山の湧き水の年代測定に利用されました。

7Be(ベリリウム)

7Beは、宇宙線と大気中の酸素や窒素との反応によって生じ、半減期53.2日で電子捕獲して7Li(リチウム)となります。
温帯では、地表水中に3000Bq/m3、雨水中に700Bq/m3程度含まれています。
宇宙線起源のBeには、他に160(n,4p3n)10Beで生成する半減期151万年の10Beがあります。

その他の核

宇宙線起源核種は、この他に、22Na(ナトリウム:半減期2.61年)、32P(リン:半減期14.3日)、33P(リン:半減期25.4日)、35S(硫黄:半減期87.4日)、36Cl(塩素:半減期301万年)などがあります。

14C年代測定

大気の上空では、宇宙線から生じた二次宇宙線の中性子が空気中の窒素14Nと(n,p)反応し、半減期5730年(=1.8×1011秒)の14Cが生成します。
もし、地球に飛来する宇宙線強度が一定なら大気中の14Cの量は一定で、炭素1g当たり約0.23Bqです。
放射能Aは、壊変定数λ(=0.693/半減期)、原子数Nとした場合、A=λ0Nの関係になるので、1g中の14Cの数は、N=0.23×(1.8×1011)/0.693≒5.97×1010となります。
また、天然の炭素には、12Cが98.9%、13Cが1.1%存在するので、
1gの(12C+13C)原子数は、
(6.02×1023)/(0.989×12+0.011×13)=5.01×1022
となります。
これより、14C/(12C+13C)原子数比は1.2×10-12になります。
化学形が14CO2となって存在する大気中の14Cは、光合成により植物体内に取り込まれ、食物連鎖により動物体内にも入るため、動植物中の14C比放射能は大気中とほぼ同じになります。
しかし、動植物が死ぬと14Cの供給が途絶えるので、14C比放射能は時間とともに減衰します。
したがって、これら動植物試料中の14Cを測定すれば、死んでからの経過時間を求めることができます。
これを14C年代測定といいます。

14Cはβ線を放出して壊変するので、以前は試料をアセチレンなどの気体にして比例計数管で測定する方法や、ベンゼンなどの炭素含有量の多い有機液体にして液体シンチレーションカウンタで測定する方法が使用されていましたが、試料量が1g以上必要なため、試料が少量の場合や数万年前の古い試料では、14C核の放射能が少なく、その放射能測定は困難あるいは不可能でした。
しかし、1970年代末に、14C核の数を直接数える小型加速器を用いた加速器質量分析法(AMS)が開発され、lmg程度の試料で測定が可能となり、数万年前の試料でも年代を決定できるようになりました。
例えば、ある試料を測定し、13C/(12C+13C)原子数比の値が0.0107、14c/13C原
子数比の値が7.0×10-12でぁったとすると、14C/(12C+13C)原子数比は7.5×10-14となります。
これは前出の人気中原子数比の1/16ですから、この試料のおよその年代は半減期の4倍の時間、すなわち4×5730年=23000年前となります。
なお、14C年代測定では、1950年を時間の原点としています。

測定誤差

14C年代測定では、大気中の14Cの量が一定であること、14Cの測定値が正確であること、半減期の値が正確であることが必要条件です。

誤差が生じるケースとしては、次のものが考えられます。

・大気中の14C量が変動する例
太陽の活動は11年周期で変化し、宇宙線の量も変わるため、生成する14C量も変化します。
特に西暦774~775年にかけて急激な増加がありました。
過去の宇宙線強度が現在より大きかった場合、14C含有量は大きくなるため、実年代より新しくなります。
石炭や石油などの化石燃料は数億年前にできたもので、炭素中の14C含有量は少なくなっています。
このため、化石燃料起源の炭素が混入すると、得られた年代は実年代より古くなります。
このような影響を補正するため、国際較正曲線がつくられています。

・14Cの測定値が変動する例
液体シンチレーション法では、計数率から放射能を求めるため、計数率を検出効率で割ります。
このため、検出効率を多く見積もると14C量が少なく算出されるので、得られる年代は実年代より古くなります。

・半減期の値の正確さの例
半減期の値が変わると、原子数の算出と、原子数比の自然対数と半減期の積での年代の算出の2箇所で、値に影響を受けます。
このうち前者がより大きく影響します。
この結果、半減期値に実際より大きな値を用いた場合には、得られた年代は実年代より新しくなります。

軽元素の放射性核種

C

炭素には、12Cと13Cの2つの安定同位体と、10種類以上の放射性核種が存在します。
13Cは核磁気共鳴分光法(NMR)で用いられ、有機化合物の構造を決める有力な手段となっています。
放射性核種で重要なのは14Cと11Cです。

14C

14Cは字宙線起源核種で炭素唯一の天然由来の放射性核種で、14C年代測定に使用されます。
人工的な14Cは、原子炉において14N(n,p)14C反応などにより製造されます。
14C化合物は、14CO2を用いた光合成の研究など、放射性トレーサとして古くから使われています。
また、最近では、放出するβ線のエネルギーが小さく、32Pより画像分解能の高い画像が得られるため、イメージングプレートを用いたオートラジオグラフィにも利用されています。

11C

11Cは炭素の中で最も安定した人工放射性核種で、半減期20.4分で陽電子を放出して安定同位体のHBに変わります。
11Cは、陽電子放射断層撮影(PET)の際に使われます。
また、11Cは、小型サイクロトロンなどでつくられた陽子を利用して11B(p,n)11Cなどの核反応で製造しますが、半減期が短いので試料の取り扱いに時間がかかる原子炉では製造しません。

P

リンは、天然に存在する核種が31Pのみの単核種元素です。
リンは、RNAとDNAの構成原子で、骨や細胞膜の主要成分でもあり、さらにエネルギー代謝を制御するなど、生体の必須成分です。
13Cと同様に、核磁気共鳴分光法(NMR)で使用されます。
放射性核種が20種類以上あり、主なものに30P、32P、33Pがあります

30P

30Pは、人類初の人工放射性核種です。
半減期は2.50分で、β+壊変して30Siになります。

32P

32Pは、32Sへの中性子照射による32s(n,p)32Pゃ31P(n, 7)32P反応などで生成します。
14.3日の半減期で、エネルギーが1.71 MeVと高く、β-壊変を起こして安定な32Sになります。
このとき、γ線は放出されません。
主に同位体標識として、DNAやRNAの塩基配列の決定、生体内の物質循環の研究に使われています。
摂取した32Pは、骨や核酸に取り込まれるため、取り扱う場合は手袋などの使用が求められます。
また、β-線のエネルギーが高いため、鉛などの原子番号が大きい物質で遮へいすると制動放射による二次X線が多く放出されるので、10mm厚のアクリル樹脂のプラスチックなど、原子番号が小さい物質での遮へいが必要です。

33P

33Pの半減期は32Pより長く、25.4日です。
また、エネルギーが0.25MeVと低いβ-壊変を起こして安定同位体の33Sに変わります。
β線のエネルギーが低いため、DNAシーケンスなどの実験に使われます。

S

硫黄には32S、33S、34S、36Sの4種の安定同位体があり、そのうち95%が32Sです。
放射性核種は約20種類ありますが、35S以外は半減期が3時間以下です。

35S

35Sは半減期87.4日で、β~壊変を起こし、0.167MeVのエネルギーが弱いβ-線を放出して35Clに変わります。
このとき、γ線は放出されません。
35Clに中性子を照射する35Cl(n,p)35S反応で生成し、35Sの分離には35S2--イオンをH2Sとして蒸留します。
用途としては、メチオニンを35Sで置換したものがタンパク質の合成量を測定する際に使われます。
また、35Sは宇宙線起源核種で、40Arの破砕によっても生成します。

第4周期の放射性核種

Mn

マンガンは、安定同位体が55Mnのみの単核種元素です。
放射性核種は18種類あり、その中で半減期が長いものは370万年の53Mn、5.59年の52Mn、312日の54Mnです。
残りはすべて3時間以下の短い半減期の核種です。
また、半減期の長い53Mnが電子捕獲して生じる53Crの存在比の測定から、隕石の年代測定に使用されます。

Co

コバルトは、安定同位体が59Coのみの単核種元素です。
放射性核種は22種類あり、その中で半減期が長いものは5.27年の60Co、272日の57Co、70.9日の58Co、
77.2日の56Coです。

60Co

60Coは代表的な人工放射性核種で、59Coに原子炉からの中性子を照射して生成します。
半減期は5.27年で、β-壊変による318keVの低エネルギーのβ-線を放出後、1.17MeVと1.33MeVというエネルギーが高い2本のy線を放出して60Niに変わります。
60Coのγ線エネルギーが高いことから、γ線源として非破壊検査、密度計、レベル計などの工業用線源、生薬系医薬品の殺菌、がん治療、さらに特殊な用途としてジャガイモの発芽防止など、幅広い分野で利用されています。
また、60Coは、放射能測定器の校正用標準線源として測定器のエネルギーや計測数の補正に使われます。

57Co

57Coのγ線を使用し、その共鳴吸収から固体中の鉄の構造を調べるメスバウアー分光装置に使われています。

Ni

ニッケルには、5種の安定同位体と18種類の放射性核種があります。
半減期が長いものは59Niの8.1万年、63Niの101年、56Niの6.08日です。

63Ni

63Niは、62Niに中性子を照射して起こる捕獲反応などで生成します。
半減期は100.1年で、最大エネルギーが67keVのβ-壊変を起こして安定的な63Cu(銅)になります。
放射線はβ線のみで、α線やγ線は放出しません。
63Niは化合物の同定・定量に使われるガスクロマトグラフイーで、β-線による電離を利用するエレクトロン・キャプチャ・ディテクタ(ECD)に使用されます。

Zn

亜鉛には、5種の安定同位体と21種類の放射性核種があります。放射性核種
の中で半減期が長いものは、65Znの244日と72Znの46.5時間です。

Kr

85Krは、半減期10.7年で687keVのβ-線を放出し、安定な85Rbに変わります。
85Krがガスであるという特性を利用し、かつて化学プラントの気密性試験に使用されていました

事故で放出される放射性核種

原発の原子炉内では、ウランの核分裂により、133Xe(キセノン)、131I(ョウ素)、90Sr(ストロンチゥム)、137Cs(セシウム)などの放射性核種が生成します。
これらの多くは半減期が短いため、通常の運転時は原子炉内部にとどまったまま核壊変で消滅します。
しかし、原発事故が起こると、それらの核種が環境中に放出されるため、人々に大きな健康被害をもたらします。
事故直後では甲状腺に蓄積する131Iが、また長期的には半減期がともに約30年であり、骨などに固定される90Srと、食物連鎖で長期にわたつて人体に取り込まれる137Csが特に問題となりました。

Sr

ストロンチウムは、骨を構成するカルシウムと同じアルカリ土類で、4種の安定同位体と16種類の放射性核種があります。
このうち重要なのは90Srです。

90Sr

90Srは28.8年の半減期で、エネルギーが0.55MeVのβ-壊変を起こして90Y(イットリウム)となります。
90Yはさらに2.67日の半減期でエネルギーが2.28MeVと高いβ-壊変を起こして安定的な90Zr(ジルコニウム)になります。
このとき、両壊変ともγ線放射は伴いません。
また、90Yの半減期は、90Srと比べてはるかに短いため、両者は2週間以上経過すると永続平衡となり、両者の放射能がほぼ等しくなります。
90Srは、238U(ウラン)の自発核分裂などでも少量発生しますが、主な発生源はウランなどが中性子と反応して生じるもので、核実験や原子炉で発生します。
ウランなどが中性子により核分裂を起こすと、90Srを含む質量数が90~105付近および130~145付近の核分裂片を生成します。
90Srは骨と親和性が高いという特徴があります。
したがって、体内摂取されると、骨に長く残留して90Yからの高エネルギーβ線で健康に大きな影響を与えます。
90Srの用途には、たばこの葉の詰まり具合を測定するたばこ量目計があります。
核分裂で89Srも同程度生成し、エネルギー1.5MeVの高いβ-壊変を起こして
安定した89Yを生じますが、半減期が短いため生体への影響は大きくありません。

I

ヨウ素は、天然に存在する核種が127Iのみの単核種元素で、人工放射性核種は36種類あります。
そのうち131Iが原発事故時の放出核種、123I、125I、128Iが医学分野で利用されています。
129Iは字宙線起源核種で、また原子炉内の核分裂でも生じます。
ヨウ素は原子量126.9のハロゲン元素で、通常単体(I2)やヨウ化イオン(I)の形態で存在します。
単体は容易に昇華し、酸性のヨウ化イオンは加熱による揮発で空気中に飛散します。
また、ヨウ素は甲状腺との臓器親和性が高いために甲状腺に濃縮され、チロキシンやトリヨードチロニンなど、ホルモンの原料となります。
このように1つの器官に高濃度に濃縮されるのは、他の元素ではみられないヨウ素に特徴的な現象です。

127I

甲状腺に蓄積されるヨウ素量には上限があります。
このため、原子力災害時にあらかじめ安定同位体の127Iを含むヨウ素剤を飲んで蓄積量を上げ、後から人体
に取り込まれる放射性のヨウ素が蓄積されることを防ぎます。

123I

123Iは半減期13.2時間で、100%軌道電子捕獲(EC)で壊変し、低エネルギーγ線159keVとTe(テルル)の特性X線27.5keVを放出します。
γ線のエネルギーが159keVと低くて半減期が短いので、人体内部に投与する検査に向いており、シングルフォトン放射断層撮影(SPECT)に利用されます。
123Iは次の反応式のように、124Xeに陽子を照射して製造します。
124Xe(p,2n)123Cs→(β+)→123Xe→(β+)→123I

125I

125Iは半減期59.4日で、100%軌道電子捕獲(EC)で壊変して125mTeに変わり、35.5keVのγ線と125Teの27.5keVの特性X線を放出します。
半減期が長いので体内投与には不向きで、
①ラジオイムノアッセイ(RIA)やイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)
②タンパク質の標識利用(K125I)
など、体外検査に使われます。
医療目的では、前立腺がんの密封小線源療法に使われます。
放出されるγ線のエネルギーが小さいので、測定には125I専用の薄型Nal式検出器や井戸型Nal(TI)を使用します。

128I

128Iは、127Iの中性子照射の(n, γ)反応で生成します。
半減期は約25分で443keVの γ線を放出し、ホットアトムによる合成に使われます。
また、127Iの中性子が(n, γ)反応で128Iを生じるので、中性子放射化分析による含有量の測定に利用されます

129I

129Iは半減期1570万年でβ-壊変を起こして129Xeとなります。129Iは地球誕生時に天然放射性核種として存在していましたが、半減期が短いために減衰して消滅した死減放射性核種です。
自然界では、Xeと宇宙線との反応や地殻中天然ウランの自発核分裂によっても生成します

131I

131Iは半減期8.02日でβ-壊変して131Xeとなります。
131Iは、129Iと同様、自然界では宇宙線とXeとの反応や、地殻中天然ウランの自発核分裂によって生成します。
しかし、環境への最も大きな放出源は、原子力発電所の事故や、再処理工場や原子爆弾から放出される人工放射性核種です。
131Iは、熱中性子による235Uの核分裂で、収率1%以上生成するので、原子炉内に多く溜まっていますが、半減期が短いので通常は問題となりません。
しかし、1986年のチェルノブイリ原子力発電所のように、稼働中の原子炉事故では131Iが汚染物質として環境に放出されます。
チェルノブイリでは、131Iによる内部被ばくで児童に小児甲状腺がんが発生したことが知られています。
甲状腺にはヨウ素が濃縮するので、甲状腺に生じたがんの治療のため、放射線の到達距離が短いβ線を放出する131Iを服用する内服治療法が行われています。

Cs

セシウムはアルカリ金属に属し、天然に存在する核種が133Csのみの単核種元素です。
放射性核種は39種類ありますが、その中でも重要なのは137Csです。

137Cs

137Csの半減期は30.1年で、多くは514keVのβ-壊変を起こし、137mBa(バリウム)となります。
この137mBaは、2.55分の半減期で核異性体転移し、662keVのγ線を放出して安定な137Baとなります。
環境中に放出されたセシウムは、陽イオンとして土の中に滞留します。
このセシウムは、水とともに根から植物に取り込まれ、その後食物連鎖で人体に取り込まれます。
セシウムは人体の特定臓器に対する臓器親和性はありませんが、食物として毎日摂取するため、長期にわたってβ線による内部被ばくを引き起こします。
工業的用途では、137Csは鋼板などの厚さ測定や非破壊検査のγ線源として利用されます

その他の放射性核種

Zr
ジルコニウムには、4種の安定同位体と多数の放射性核種があります。

95Zr

金属の中で熱中性子の吸収断面積が最も小さいため、ジルコニウム合金は原子炉の燃料棒の被覆材料(燃料被覆管)などに使われます。

Tc

テクネチウムはマンガン族元素で、安定同位体はありません。
多くの放射性核種があります。

99mTc

99Moの娘核の99mTcは半減期6.01時間で核異性体転移し、エネルギーが141keVと低いγ線を放出して99Tcに変わります。
このとき、β-線を放出しない特徴を活かし、核医学検査(シンチグラフイ)に使われます。

Ru

ルテニウムには、7種の安定同位体と34種類の放射性核種があります。
半減期が長いものに半減期372日の106Ruがあります。

106Ru

106Ruは、β-壊変して半減期30.1秒の106Rh(ロジウム)となり、さらにβ-壊変して安定的な106Pd(パラジウム)となります。

Ir

イリジウム

192Ir

192Irは半減期73.8日でエネルギーの異なる多数のγ線を放出します。
このγ線の透過・減衰を利用して非破壊検査の線源として使われます。
また、192Irからのγ線は、エネルギーが平均約350keVと低いので、放射線の遮へいが容易です。
さらに、種々の形状の密封小線源が得られ、また国産化されて供給も安定しています。
このため、組織内照射線源として、多くの種類のがん治療に利用されています。

Yb

イッテルビウム

169Yb

半減期32.0日で電子捕獲(EC)し、63.1keV~307.7keVの低エネルギーのγ線を放出します。
このγ線を利用し、X線装置が使えない細い薄肉鋼管の溶接部の欠陥検査に使用されています。

Ce

セリウムには、4種の安定同位体と27種類の放射性核種があります。
半減期が長いものに半減期285日の144Ceがあります。

144Ce

半減期285日

Am

アメリシウムは原子番号95の元素であり、アクチノイド元素の1つです。
また、
超ウラン元素でもあります。安定同位体は存在しません。
同位体の中で241Amはα線およびγ線の線源として使われます。
その製造は、239Pu(プルトニウム)に中性子を照射することで行います。

241Am

241Amは、半減期433年でエネルギー5.49と5.44MeVのα線を放出し、237Np(ネプツニウム、半減期214万年)になります。
また、59.5keVのν線も放出します。
用途
・241Amからのα線を9Beに照射して発生させた中性子を用いた水分計
・241Amから放出されるα線で煙をイオン化して測定する煙探知機
・γ線の透過を利用した厚さ計
・γ線を銀板に照射して生じる低エネルギーの特性X線が硫黄に選択的に吸収されることを利用した硫黄計
・γ線を線源とする可搬式蛍光X線分析装置

Cf

カリホルニウムは原子番号98の元素で、アクチノイド元素の1つです。
また、超ウラン元素でもあります。
安定同位体は存在しません。
同位体の中で、半減期2.65年でα線を放出する252Cfは中性子源として使われます。

252Cf

製造は、235Uに原子炉からの中性子を照射する方法で行います。
252Cfからの高速中性子は水素核と衝突しエネルギーを失って熱中性子となります。
これをBF3比例計数管で測定し水分量を求める中性子水分計があります。

放射平衡

放射平衡

逐次壊変や系列壊変で親核が壊変してできた娘核との放射能の量的な関係が、時間的にほぼ一定の比率で推移する状態を放射平衡といいます。
親核と娘核の合計の放射能は、時間の短い部分では娘核からの放射能が少ないので、親核の放射能にはぼ等しくなります。
この傾きが親核の壊変定数λ1になります。
時間の長い部分では、親核は消滅し、娘核だけの減衰となるので、この傾きが娘核の壊変定数λ2になります。
親核の半減期T1が娘核の半減期T2より短い場合には、両者の比は一定にならず、親核が先になくなるので放射平衡は起こりません

ある親核が半減期T1(壊変定数λ1)で壊変し、それにより生じた娘核がさらに半減期T2(壊変定数λ2)で壊変して孫核となる逐次壊変を示します。
この場合、親核と娘核の時間0の個数をそれぞれN10、N20とすると、親核の数N1(t)の時間変化は次式で与えられます。
N1(t)=N10exp(-λ1・t)……①
一方、娘核の時間変化は次の微分方程式で与えられます。
dN2(t)/dt=λ1・N1(t)-λ2・N2(t)……②
ここでλ1・N1(t)は親核が壊変して娘核種が増加する項でλ2・N2(t)は娘核が壊変して消滅する項です。
この微分方程式を解くと次式が得られます。
N2(t)=λ1/(λ2-λ1)・N10(exp(+λ1・t)-exp(-λ2・t)) + N20・eXp(-λ2・t)・・・・・・③
この式で、時間0での娘核の数、N20が0の場合、娘核の数N2(t)が最大となる時間tMaxは次式となります。
tMaX=1/ (λ2-λ1)・ln (λ2/λ1)
=1/1n(2)・T1・T2/(T1-T2)・ln(T1/T2)・……④
この時間tMAXでは次のようなことが起こります。
・親核が壊変して娘核が生成する速度と娘核が壊変する速度が等しくなる。
・親核と娘核の壊変速度が等しいので、放射能も等しくなる。
・tMaxの後、娘核の放射能は親核の放射能を常に上回る。

③式でN20=0とすると、N2(t)/N10の値は次式で与えられます。
N2(t)=λ1/(λ2-λ1)・(exp(+λ1・t)-exp(-λ2・t))・・・・・・⑤

過渡平衡

T1>T2、すなわちλ1<λ2の場合、時間tがT2の7~10倍以上に大きくなると、⑤式の2項目のexp(-λ2・t)の値はゼロに近くなります。
また、N10・exp(-λ1・t)=N1(t)なので、⑤式は次のようになります。
N2(t)=λ1/(λ2-λ1)・N1(t)=T2/(T1-T2)・N(t)・・・・・・⑥
すなわち、娘核は見かけ上、親核の半減期で減衰します。
この状態を過渡平衡といいます。
また、放射能の比は次式で表せます。
A2(t)/A1(t)=λ2/(λ2-λ1)=T1/(T1-T2)・・・・・・⑦
すなわち、親核と娘核の比は一定で、T1>T1-T2ですから、A2(t)>A1(t)、つまり娘核の放射能は親核の放射能より大きくなります。

永続平衡

さらにT1>>T2すなわちλ1<<λ2の場合、⑦式の分母は、
(λ2-λ1)≒λ2となり、N2(t)/N1(t)=λ1/λ2=T2/T1
つまり、娘核と親核の数の比は半減期の比と等しくなります。この状態を永続平衡といいます。
また、放射能の比A2(t)/A1(t)=(N2(t)・λ2)/(N1(t)・λ1)=1
つまり、永続平衡状態では親核の放射能と娘核の放射能は同じとなります

親核と娘核間の関係

共通

親核が分岐壊変する場合でも、親核・娘核間の過渡平衡、永続平衡の関係は成立します。
しかし、娘核間では成立しません。

過渡平衡の性質

娘核の放射能が最大となる前に、親核+娘核の放射能は最大になります。
娘核の放射能が最大のとき、親核の放射能と等しくなります。
また、娘核の半減期の7~10倍の時間を経た後、娘核は見かけ上、親核の半減期で壊変します。

永続平衡の性質

永続平衡の性質としては、以下が挙げられます。
①娘核の放射能は一定になる
②娘核の放射能(=壊変率)は親核の放射能(=壊変率)と等しくなる
③全放射能は親核の放射能の2倍となる
④娘核の数/親核の数=T2/T1である

放射性核種の製造

原子炉による放射性核種の製造

放射性核種(RI)の製法には、原子炉で製造する方法と、サイクロトロンや直線加速器などの加速器で製造する方法があります。
前者では、主として標的核に熱中性子を照射し、(n, γ)反応で標的核と同位元素で質量数が大きい核種を製造します。
この方法は、数種類のRIを大量に製造するのに適しています。
しかし、この方法は標的核と生成核が同位体のため、両者を化学的に分離することが困難で、得られる試料の比放射能が低いものしか得られません。
生成核がβ壊変やEC壊変を起こす場合は、娘核と原子番号が異なるので分離が容易になり、比放射能の高い試料が得られます。
また、生成核と娘核間に永続平衡が成立している場合は、生成核と娘核を分離した後、しばらくするとまた生成核から娘核が生じるので、再度娘核を取り出すことができます。
この製法は、牛から毎日牛乳を取るのに似た操作なので、ミルキングと呼ばれます。
核医学検査で使われる99mTcはこの方法を用いて99Moから生成しています。

加速器による放射性核種の製造

加速器による製法は入射粒子として、陽子、重陽子、α線など、多くの粒子が利用でき、エネルギー範囲や標的種の組み合わせで多様な核反応が選択可能で、多種類の放射性核種の製造に使用できます。
また、直線加速器(リニアック)などの加速器による製法は原子炉と比べ生成後の後処理時間が短くできるので、PETなど半減期が短い核種を使用する試薬の製造に多く使われます。
核反応の選択法として、標的核の原子番号がZ、生成核の原子番号がZ+1のときには、(p,n)反応や(α,pn)反応などが利用可能です。
生成核の原子番号がZ-1のときには、(n,p)や(p, α)反応などが使えます。
(n, γ)反応のように標的核と生成核の原子番号が同じ場合には、生成核の非放射性核種を含まない放射性核種(これを無担体といいます)を得ることはできません。

励起関数

標的核と照射粒子の核反応の起こりやすさは反応断面積で表され、反応断面積と照射粒子エネルギーの関係は励起関数と呼ばれます。
中性子の捕獲反応の反応断面積は、低いエネルギー領域では中性子エネルギーをEnとすると、1/√Enに比例しますので、速中性子より熱中性子の反応性が高くなります。
ある元素に中性子や荷電粒子を照射し、(n,γ)反応などで生成する放射性核種の放射能Aは次式で与えられます。

n:標的核の数 σ:反応断面積 f:粒子フルエンス率 t:粒子の照射時間 λ:生成核の壊変定数 T:生成核の半減期 として
A=nσf・(1-exp(-λt))=nσf・(1-(1/2)t/T)……①
また、λtが小さいとき、exp(-λt)≒1-λtと近似できるので、次のようになります。
A=nσf・(λt)=nσf・(0.693・t/T)……②
このAは、照射時間とともに増加しますが、Tの4倍を超えるとほとんど増加しなくなります。
これを飽和といい、(1-(1/2)t/T)を飽和係数といいます。
また、照射時間が長いと、生成核種が照射粒子と反応して生成核種の核種純度が低下します。
したがって照射時間は、半減期の2~3倍程度にとどめます。
一方、②式から生成核種量N0は次式で与えられます。
N0=n・σ・f・t……③
照射時間が半減期の4倍程度を超すと、照射しても放射能はほとんど増加しません。

放射性核種の分離

同位体の分離技術は大きく分けて、医療機器のPETで用いる試薬など、特定の同位体のみが必要で、それを分離する場合と、原子力発電所の廃棄物から半減期の長いものだけを分離するなど、望ましくない特性を持つ同位体を除去する2つの場合があります。
製造した放射性核種(RI)は、原料の標的物質や原料不純物などが混ざっています。
分離はその中から目的のRIを取り出す作業で、沈殿分離、溶媒抽出、イオン会合体抽出、イオン交換分離、蒸留分離、析出抽出など、非放射性物質を分離するのと同じ技術が用いられます。
ただし、次の3つの観点から通常の物質の分離とは異なる扱いが必要です。
①RIは少量でも検出感度は高いが、原子の絶対量は少量です。
このため、量が多いときには問題にならない、分離に使う溶媒中の微量不純物、ろ紙やガラス容器表面にある末端OH基がRIと反応し、吸着するなどの問題を起こします。
②非放射性物質では時間が経っても量が変化しないので、分離方法を検討するとき、時間がかかってもなるべく多く分離できる、純度が高く分離できるなどの方法を採用します。
一方、RIの場合、特に半減期が短い物質を分離するときは、作業の間に壊変して量が減少するので、短時間で分離できる方法を選択します。
③放射性核種を取り扱うので、放射線防御が重要です。
また、ほとんどの場合、密封していないRIを扱うので、その漏えいや体内へ取り込まないような処置が必要です。

溶媒抽出

溶媒抽出は、さまざまな物質が溶解している水溶液を分液ロートなどの容器に入れ、それにベンゼンやクロロホルムなど、水と混ざり合わない有機溶媒を入れて振とうし、目的とする成分を有機溶媒に選択的に移動させて分取する方法です。
目的とする核種Cの水中濃度をC1、有機溶媒中の濃度をC2とするとき、両者の比は次のような式になります

D=C2/C1……①
このDを分配比といい、値が大きいほど目的核種が有機溶媒に多く抽出されます。
また、Cが有機相中に移行した割合は抽出率Eといい、次式で定義されます。
E(%)=C2V2/(C1V1+C2V2)×100……②
ここでV1、V2は水および有機溶媒の体積です。
この式にD=C2/C1を代入すると、
E(%)=D/(D+V1/V2)×100……③
が得られます。
溶媒抽出で同じ量の有機溶媒を使用する場合、有機溶媒を分割して複数回抽出を行うほうが抽出率が高くなります。
一般にアルコールなど、極性の強い有機溶媒は水と混合するので、溶媒抽出に使用できません。
一方、ほとんどの金属イオンは極性の弱い有機溶媒に溶けません。
このため、金属イオンをビピリジンなどのキレート剤で金属の錯体を形成させて疎水性を増し、極性の弱い有機溶媒に金属イオンを移行させます。
水相中の金属イオンAn+とキレート剤Lが反応し、中性の錯体ALnが形成され、それが有機相に抽出される場合、次の反応平衡が成立します。
An+wo nLo⇔ ALno+nH+w
ここでWとOの添字は水相と有機相を表します。
この平衡定数をKeqとすると、
K=[ALno][AH+w]/[An+w][Lno]=D[H+w][An+w]・・・・④
となります。

ここで[ALno]などは、それぞれの物質の濃度を表します。
この両辺の対数をとり、式を変形すると、次式が得られます。
log D=log Keq+nlog[HLo]+n(pH)・・・・・・⑤
すなわち、分配比Dの対数と水相のpHには直線関係が成り立ちます。

キレート剤としてはHDEHP(ジ‐2‐エチルヘキシルリン酸)などを使用します。
複数のイオンの混合水溶液から特定のイオンのみ有機溶媒へ抽出する場合に、目的以外のイオンの水溶性を高めるため、マスキング剤を用いることもあります。
マスキング剤としてはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)がよく使われます。

イオン会合体抽出

1価の陽イオンまたは陰イオンで、イオン半径が大きく、電荷がイオン全体に分布している試薬は反対電荷のイオンとイオン会合体(イオン対)をつくります。
この会合体が有機溶媒に溶解する場合、溶媒抽出ができます。
このようにイオン会合体をつくってキレート試薬では抽出できない、陽イオンまたは陰イオンや電荷を持つ金属錯体の溶媒抽出法をイオン会合体抽出といいます。
イオン会合体抽出の例として、以下があります。
①テトラフェニルホウ酸イオンによるカリウムイオンの抽出
②ローダミンBによる[SbCl6]の抽出

イオン交換分離

イオン交換分離は、イオン交換樹脂にRIを吸着させて分離する方法です。
イオン交換樹脂は、スルホン基(-SO3H)やアルキルアンモニウム基(-NR3X;R=アルキル基、X=陰イオン)などのイオン交換基を持つ高分子で、イオン交換樹脂に吸着しているイオンと水溶液中のイオンを交換します。
スルホン基のように、H+を解離して陽イオンと交換するイオン交換基を持つものを陽イオン交換樹脂、アルキルアンモニウム基のように、Xと陰イオンを交換するイオン交換基を持つものを陰イオン交換樹脂といいます。
イオン交換樹脂が、水溶液中のイオンを吸着する強さがイオンによって異なることを利用してイオンを分離できます。
例えば、-SO3H基をイオン交換部位として持つ強酸性陽イオン交換樹脂では、
+1価イオンの樹脂への吸着強度はLi+<Na+<K+くRb+の順、つまり水和イオン半径が小さいものほど強くなります。
また、価数が異なるイオン間では、一般に+1価<+2価<+3価という傾向があります。

イオン交換樹脂に吸着しているAイオンの濃度を[A]r、水溶液中のAイオンの濃度を[A]aとするとき、
Kd=[A]r/[A]a
を分配係数といいます。
2種類のイオンがある場合には、Kdの大きいイオンのほうが樹脂により強く吸着されます。
イオン交換樹脂の吸着平衡は、溶液と樹脂吸着のイオンの濃度比で決まり、元素濃度には依存しないので、無担体(ある放射性核種(RI)に同じ元素の非放射性核種を含まない状態)の放射性核種(RI)を得るのに適しています。
一方、アルキルアンモニウム基などを持つ陰イオン交換樹脂では、価数が同じ金属イオンの分離は非常に困難ですが、酸化還元反応によって金属イオンの酸化数を変えることや、塩化物イオンとの錯形成能の違いを利用して分離できます。
例えば、塩化物イオンとの錯形成能の強さは、Fe3+>Co2+>Ni2+の順です。
いくつかのイオンを錯形成能が強い順に並べると、次のようになります。
Zn2+>Fe3+>Cu2+>Co2+>Mn2+>Ni2+

蒸留分離法
複数の成分からなる混合溶液を加熱し、沸点の差を利用して精製や分離を行う操作を蒸留といい、これによる分離を蒸留分離法といいます。
RIを含む水溶液を加熱すると、蒸気圧の高い中性成分のRIが水より先に蒸発するので、その蒸気を冷却してRIを分離できます。
主な例として、次のものがあります。
・33S:Sイオンを含む水溶液を酸性にしてH2Sとして蒸留。
・36Cl:塩酸水溶液をそのまま加熱し、HClとして蒸留。
・74As:亜ヒ酸を塩酸に溶かし、硫酸を吹き込みAsH3として蒸留。
・82Br:イオンを酸性下で塩素を吹き込みBr2として蒸留

析出抽出法

硫酸銅(CuSO4)水溶液に亜鉛金属(Zn)を浸けると、亜鉛がイオンとして溶け出し、代わって銅イオンが金属銅となって亜鉛表面に析出します。
このような方法でRIを抽出する方法を析出抽出法といいます。
これは銅と比べ、亜鉛のほうが電子を放出して陽イオンになりやすく、自分自身は酸化され、鋼イオンを還元するためです。
このような金属が水溶液中で電子eを放出して陽イオンになろうとする性質をイオン化傾向といいます。
2つの金属がある場合、イオン化傾向が大きい金属が溶出し、小さい金属が析出します。
主な金属のイオン化傾向の順は、次のようになります。
Li > Cs > Rb> K > Ba > Sr > Ca > Na > Mg >Th > Be > Al > Ti > Zr > Mn > Ta > Zn > Cr > Fe > Cd > Co > Ni > Sn > Pb > H+ >
Sb> Bi > Cu > Hg > Ag > Pd > lr > Pt > Au
また陰イオンのイオン化傾向は、次のようになります。
NO3 > SO42- > OH > Cl > Br > I

その他の分離法

放射性核種の分離には他に、ガスクロマトグラフィ、ペーパークロマトグラフィなどのクロマトグラフ法、電気泳動法、ラジオコロイド法、および反跳法などが知られています。

沈殿分離

沈殿分離は、水溶液から目的物質を固体の沈殿として分離する方法です。
陽イオンAと陰イオンBが反応してAmBnの沈殿が生じる場合、沈殿物の水への溶解度が分離の収率を決定します。
それぞれのイオンの水溶液中の濃度を[A]、[B]とすると、
KsP= [A]m[B]n・・・・・・①
という関係が成り立ちます。
ここでKsPは溶解度積と呼ばれ、イオンや溶媒の種類や溶液の温度で決まる定数です。
それぞれAとBを含む水溶液を混合したとき、
①式の右辺がKsPを上回るとAmBnが沈殿し、液中のAとBの濃度が、①式が成立したところまで下がります。
しかし、一般にRIは量が少ないため、このままでは対となるイオンの濃度が高くても、①式の右辺はKsPを上回りません。
溶液中に非放射性のイオンを一緒に加え、全イオンの量を増やせば沈殿させることができます。
このように超微量のRIを扱いやすくするために加えられる、RIの安定核種や化学的性質がRIに似た他元素の安定核種のことを担体といいます。
RIイオンの沈殿分離を行う際には十分な量の担体を加えておくことが必要です。
ただし、担体を加えると得られるRIの比放射能が低下するので、これが望ましくない場合は、化学的な挙動が類似した他元素の安定核種を担体として加えて沈殿させ、その沈殿から担体を溶媒抽出など他の方法で分離除去します。

添加薬品と沈殿物

陽イオンに次のイオンを含む水溶液を添加すると、沈殿が生じます。
これらの試薬は沈殿試薬と呼ばれます。
・ハロゲン
AgCI(白色)、AgBr(淡黄色)、AgI(黄色)、PbC12(白色)、Hg2C12(白色)
・2H2S(S2-イオン)
①水溶液が酸性でもアルカリ性でも沈殿(いずれもイオン化傾向が小さいイオン)
CuS(黒色)、CdS(黄色)、SnS(褐色)、HgS(赤色)、B12S3(褐色)、PbS(黒色)、Ag2S(黒色)
②水溶液がアルカリ性下でのな沈殿(いずれもイオン化傾向が中程度のイオン)
NiS(黒色)、ZnS(白色)、MnS(淡紅色)、CoS(黒色)
③水溶液が酸性でもアルカリ性でも沈殿しないアルカリおよびアルカリ土類
・硫酸イオン(アルカリ土類と鉛が沈殿する)
CaSO4、SrSO4、BaSO4、PbSO4(いずれも白色)
・リン酸イオン
BaHPO4(白色)、Ba3(PO4)2(白色)、Ag3PO4(黄色)、FePO4(白色)
・水酸化物(アルカリとアルカリ土類以外のイオンはすべて沈殿を生じる)
Fe(OH)3(赤褐色)、Al(OH)3(白色)、Cr(OH)3(灰緑色)
・炭酸塩(アルカリ土類のみ沈殿する)
CaCO3、SrCO3、BaC03が沈殿(いずれも白色)
・クロム酸イオン(CrO42-)
Ag2CrO4(赤褐色)、PbCrO4(黄色)、BaCrO4(黄色)

陽イオンを含む水溶液の系統的分離

いろいろな陽イオンを含む水溶液から沈殿分離するには、次の手順で行います。
①:溶液に希塩酸を加える(この時点で溶液は酸性)と、AgCl、Hg2Cl2、PbCl2が沈殿します。
いずれも白色です。
その沈殿物にアンモニア水を加えると、Agのみ再溶解します。
②:①のろ液を強酸性にし、還元作用があるH2Sを吹き込むと、CuS(黒色)、CdS(黄色)、SnS(褐色)、その他にBi、As、Sbや①で残ったHgイオンも沈殿します。
また、Fe3+は還元され、Fe2+となります。
③:②のろ液を煮沸してH2Sを除き、硝酸を加えてFe2+をFe3+に酸化後、NH3とNH4Clを加えると(この時点で溶液はアルカリ性)、Fe(OH)3(赤褐色)、Al(OH)3(白色)、Cr(OH)3(灰緑色)が沈殿します。沈殿物にNaOHを加えると、AIは溶解します。
④:③のろ液に再度H2Sを吹き込むと(溶液はアルカリ性)、NiS(黒色)、ZnS(白色)、MnS(淡紅色)、CoS(黒色)が沈殿します。
⑤:④のろ液に(NH4)2CO3を加えると、CaCO3、SrCO3、BaCO3が沈殿し、いずれも白色です。
ろ液中にNa+、K+、Rb+、Cs+およびMg2+が残留します。

共沈分離

沈殿を用いて微量のRIを分離する他の方法として、共沈分離があります。
この方法は、非放射性核種で沈殿物を生成させ、それと一緒にRlも沈殿させるもので、これを共沈分離といいます。
共沈は化学的性質の似たイオンが共存しているとき、そのうちのあるイオンを沈殿して分離させようとすると、その条件では沈殿しないはずの他の物質が、沈殿するイオンを伴って沈殿する現象です。
例えば、塩化バリウム溶液に硫酸カリウム溶液を加えると、硫酸バリウムの沈殿とともに硫酸カリウムも沈殿します。
共沈が起こるメカニズムとしては
①沈殿粒子の表面にRIが吸着される
②沈殿粒子の内部にRIが取り込まれる
③沈殿する安定核種とRIが化合物をつくる
などがあります。
Fe(OH)3などの金属の水酸化物やCuSなどの硫化物、またBaC03は陽イオンや陰イオンを吸着して表面積の大きなコロイド状の沈殿を形成しやすいため、共沈分離に用いられます。

ラジオコロイド

RIを含むコロイドをラジオコロイドといい、その性質としては
①直径が1~100nm程度の粒子
②繊維、ガラス、沈殿物などに吸着されやすい
③アルカリ性溶液で生じやすい
④ろ紙に吸着される
などがあります

ホットアトム

原子が核反応や放射性壊変により放射線を放出したとき、運動量保存の法則に従って放出された放射線と反対方向に反跳します。
こうして反跳エネルギーを受けた高エネルギーの原子をホットアトムまたは反跳原子といいます。
ホットアトムが持つエネルギーE(eV)は、放出されるγ線のエネルギーEγ(MeV)、原子の質量をMとすると、E=537E γ2/Mで表されます。
すなわち、ホットアトムのエネルギーは原子の質量に逆比例するので、ウランなどでは数10~100eV程度ですが、炭素では数100eV~1keVと、数eVの化学結合と比べ、はるかに大きなエネルギーを有します。
このため、反応性が高く、熱平衡の原子では起こらない反応を生じます。
この性質を利用し、比放射能の高い放射性核種RIの製造に利用されています。

ホットアトムによる反応例

化学結合が切断するもの

ヨウ化エチル(C2H51)やヨードフォルム(CH31)に熱中性子を照射し、127I(n,γ)128I反応を起こさせると、反跳エネルギーにより化学結合が切断され、水に溶ける形となります。
これを分液ロートで水と振ると、128Iのほとんどが水相に移ります。
同様に臭素酸カリウムに中性子を照射すると、臭素酸がBrとなり、水に溶け出します。
また、フタロシアニン銅に中性子を照射すると、63Cu(n, γ)64Cu反応で生じる64Cuがフタロシァニンとの結合が切れ、2価のCuイオンとして水に溶け出します。

化学結合が形成されるもの

安息香酸と炭酸リチウムを混合し、熱中性子を照射すると、6Li(n, α)3H反応で放出されたトリチウムが安息香酸の水素と置き換わり、 トリチウムで標識されます。
同様にブタノールと3Heを混合し、熱中性子を照射すると、3He(n,p)3H反応でトリチウムが放出され、それがブタノールをトリチウム標識します。
このようにホットアトムのトリチウムなどで有機化合物を標識する方法を反跳合成法といいます。
また、ヘキサアンミンコバルト塩化物([Co(NH3)6]CI3)に熱中性子を照射すると、37Cl(n, γ)38Cl反応で生じる38CIがNH3基と交換し、クロロベンタアンミンコバルト塩化物([Co(NH3)5Cl]Cl3)になります。
80mBrで標識した有機化合物では、壊変の反跳エネルギーにより化学結合が切断され、80Brが分離されます。
カルシウムの8-ヒドロキシキノリン(オキシン)錯塩に中性子を照射すると、40Ca(n,γ)41Ca反応で生じた41Caは錯体から分離するので、イオン交換樹脂で分取できます。

価数が変化するもの

クロム酸カリウムK2CrO4に中性子を照射すると、50Cr(n,γ)51Crで生じた51Crが6価から3価に還元されます。
[Co(NH3)6]の塩素や硝酸塩などに熱中性子を照射すると、59Co(n,γ)60Coで生じた60Coが3価から2価に還元されます。
ヒ酸ナトリウムに熱中性子を照射すると、75As(n,γ)76As反応で生じる76Asが5価から3価に還元されます。

元素が放出されるもの

234uは238Uの壊変によって生じ、放射平衡が成立しているので、234u/238U放射能比は1となります。
しかし、水中の団体表面近くで238uがα壊変して生じる234Thが反跳で水相に放出され、これがβ壊変を2回行って234Uになります。
このため、地下水中の放射能比が1より大きくなることがあります。
ウランに中性子を照射すると、接触して置かれた紙に反跳効果で核分裂生成物が移り、超ウラン元素ネプツニウムはターゲット中に残ります。
タンタルに含まれる微量ニオブの定量のため、同じタンタル箔3枚を重ねて陽子を照射し、93Nb(p,n)93mMo反応で生じた93mMoが、反跳エネルギーにより金属表面から飛び出すため、93mMoの放射能強度は1枚目と2枚目で異なります。

その他

ホウ素化合物をがん組織に濃縮させた後、熱中性子照射で腫瘍を治療する中性子捕捉療法では、10B(n, α)7Liで生じたα線の反跳エネルギーでがん細胞を殺します

標識有機化合物

標識有機化合物の合成

生物領域でトレーサ実験のように、化合物の特定の元素を放射性核種で置き換えた標識有機化合物が使用されます。
これらの合成には、次の方法が使われます。

化学的合成法

特定の元素を放射性核種に置き換えた標識無機化合物や市販中間標識化合物を出発化合物とし、既知の有機合成反応で目的の標識有機化合物を合成する方法です。
比放射能が高く、特定位置を標識した化合物を合成できます。

生合成法

14CO2などを原料とし、生体内で起こる生合成反応を利用して複雑な生体物質を標識するのに使われます。
生体反応には、酵素や微生物などを利用します。
この方法で化学合成が難しいホルモンやタンパク質などができます。
すべての位置の原子が均一に標識され、光学的活性体が得られるなどの利点があります。

同位体交換法

安定核種(安定同位体)Xを持つ化合物AXと放射性核種(放射性同位体)X*を持つ化合物BX*を混合し、AX+BX*→AX*+BX反応で放射性核種X*と安定核種Xとを入れ換える方法です。

反跳合成法(ホットアトム)

ホットアトムを用いて標識有機化合物をつくる方法で、直接標識法や放射合成法ともいいます。
複雑な構造の化合物の標識に使われます。

ウィルツバッハ法

トリチウムガス3H2と有機化合物を同じ容器に入れ、数日間放置すると有機化合物の水素の一部が3Hに変わることを利用して標識有機化合物をつくる方法です。
簡便な合成法ですが、標識位置が一定しない欠点があります。

標識有機化合物の標識位置

有機化合物の炭素や水素のように1分子中に同じ元素が複数ある場合、それらのどの位置の元素をRIで標識したかにより、4種に分類されます。

特定位標識化合物

特定の位置の原子だけが放射性核種で95%以上標識されている
標識位置と元素を表記

名目標識化合物

特定の位置の大部分の原子が標識され、他の位置の原子も標識されているが純度が不明確なもの
元素名の後ろに(N)を表記

均一標識化合物

すべての位置の原子が均―に標識されているもの
元素名の後ろに(U)を表記

全般標識化合物

特定元素がすべて標識されているが、分布は不均―で、各位置の純度は不明確
元素名の(G)を表記

多重標識化合物

1つの分子で炭素と水素などの複数の元素を、放射性核種で標識したものを多重標識化合物といいます。

放射化学的純度と放射性核種純度

試料中で、全放射能に対する指定の化学形で存在する着目放射性核種の放射能の割合を放射化学的純度といい、化学形とは関係なく存在する着目放射性核種の放射能の割合を放射性核種純度といいます。
標識化合物の放射化学的純度は、同位体希釈法、逆希釈法あるいは二重希釈法で求めることができます。

同位体希釈法

同位体を利用した化学定量法で、分析化学で使われる内部標準法の一種です。
具体的には、濃度が不明な化合物の溶液に、放射性核種で標識した同じ化合物で比放射能がわかつている物質の一定量を加えてよく撹拌した後、混合液の一定量から化合物を分離し、その比放射能を測定して化合物の濃度を求める方法です。
同位体希釈法の特徴は、簡易な方法では分離が困難な特定成分を、処理量は少ないが、分離能が高いクロマトグラフイー法などで、試料の一部分のみを高純度で分離後、その重量と比放射能より特定成分の濃度を求めることです。
同位体希釈法には、直接同位体希釈法、逆希釈法、二重希釈法などがあり、標識化合物の放射化学的純度は、逆希釈法や二重希釈法で求めます。

直接同位体希釈法

直接同位体希釈法は、試料中の濃度を求めたい物質に、その物質と同じ化合物の一部を放射性核種に置き換えた比放射能がわかつている標識物質を加え、十分撹拌して均一にした後、混合試料容量から一定量を取り出します。
その中から濃度を求めたい目的物質を分離し、その比放射能を求めます。

逆希釈法

逆希釈法は、直接同位体希釈法とは逆に、放射性核種を含有する物質や放射性核種を微少に含む比放射能がわかっている試料に非放射性の物質を添加し、それを含む試料の比放射能と比較することで化合物の量を求める方法です。
ただし、あらかじめ試料中に含まれる化合物の比放射能がわかっていることが必要です。

二重希釈法

逆希釈法では、混合物試料中のAのはじめの比放射能値が必要ですが、二重希釈法ではこれがわからなくても量を求めることができます。
混合試料を2つに分割し、それぞれに非放射性のAを、それぞれa1とa2を加えて得られた比放射能がS1、S2になった場合、
全放射能=S1(X+a1)=S2(X+a2)となります。
これより、X=(S2a2-S1a1)/(S1-S2)が得られます。

放射性気体を放出する反応

気体を発生する反応
気体を発生する反応は、大きく分けて、
①放射性気体を発生する化学反応
②化学反応以外で放射性気体などが発生する反応
③その他の化学反応
に分類できます。
放射性核種を*で表します
化学反応などで気体が発生するものは、放射性核種を経口吸引することで内部被ばくを招くおそれがあるので注意が必要です

①3Hで標識された水と金属ナトリウムが反応する。
2Na+2*H2O→ 2NaOH+*H2↑
なお、他のアルカリ金属でも同様の反応でトリチウム水素を発生します。

②3HでOH基が標識されたメタノールと金属ナトリウムが反応する。
2Na+2CH3O*H → 2CH3ONa+*H2↑
なお、他のアルコールでも同様の反応でトリチウム水素を発生します。

③金属を酸やアルカリで溶解すると、水中のトリチウムが交換してトリチウム水素を発生する。
2Al+6HCl+3*H2O →2AlCl3+3H2O+3*H2↑
なお、次のように、他の金属でも同様の反応が進みます。
2Al+2NaOH+6*H2O→ 2Na[Al(OH)4]+3H2O+3*H2↑
また、Zn、Sn、Pbでも同様の反応でトリチウム含有水素を発生します。

④3Hで標識されたN*H4ClにCa(OH)2を混含して加熱すると、N*H3を発生
する。
2N*H4Cl十Ca(OH)2 → CaCl2+2*HHO+2N*H3↑

⑤3Hで標識された水素化アルミニウムリチウムにエタノールを加えると、トリチウム水素を発生する。
LiAl*H4+4EtOH→LiOEt+Al(OEt)3+4*HH↑

⑥14Cで標識された炭酸や炭酸水素塩に、塩酸や硫酸などの強酸を加えると、*CO2を発生する。
2NaH*CO3+H2SO4→Na2SO4+2*CO2↑+2H2O
Ba*CO3+2HCl→BaC12+*CO2↑十H2O
②35Sで標識された硫化鉄(Ⅱ)に希塩酸や硫酸を加えると、H2*Sを発生する。
Fe*S+2HCl‐>FeC12+H2*Si
Fe*S+H2SO4→FeSO4+H2*S↑
③35Sで標識された亜硫酸水素ナトリウムに硫酸を加えると、*S02を発生する。
2NaH*SO3+H2SO4→Na2SO4+2H2O+2*SO2↑
◎36Clで標識したNaClに濃硫酸を加えると、H*Clを発生する。
Na*Cl+H2SO4→NaHSO4+H*Cl↑
⑩125Iのアルカリ性水溶液に酸を加えると、*I2を発生する。
4*I+4H++O2→2*I2↑+2H2O

⑪有機化合物を完全燃焼させると、H2OとCO2が生じる。
CmHn+(m+n/4)O2→mCO2+n/2H2O
この発生したガスを塩化カルシウム管に通すと、次の反応で水が捕集されます。
CaCl2・2H2O+4H2O→CaCl2・6H2O
また、ソーダ石灰管(NaOH+Ca(OH)2)に通すと、次の反応が生じます。
2NaOH+CO2→Na2CO3+H2O
Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O
これにより、有機物に14Cゃ3Hが含まれていると、その燃焼物ガスを塩化カルシウム管に通すと3Hが、ソーダ石灰管に通すと14Cが捕集されます

⑫酢酸エチルは、水があると希硫酸により酢酸とエタノールに加水分解される。
CH3C‐*H2-O-C(=O)-CH3+H2O→ CH3C*H2-OH+HO-C(=O)-CH3
このとき、酢酸エチルのエタノール側が標識されているので、反応生成物のエタノールが標識されます。
もし、酢酸側が標識されている場合には、標識された酢酸が得られます。
アルカリ水溶液では、けん化により加水分解します。

化学反応以外で放射性気体などが発生する例

①トリチウム水を電気分解すると、トリチウム水素が発生する。
一方、1Hと3Hが混ざった水を電気分解すると、1Hガスが多く発生します。
これは軽い1Hがより分解されやすいためです。
このように同位体により異なる挙動をすることを同位体効果といい、3Hの濃縮などに使われます。
2*H2O → 2*H2+O2

②ウラン鉱石を酸に溶解すると、鉱石中に閉じ込められていたRnなどの放射性気体が放出される。

③空気中には40Arが微量存在するため、空気が熱中性子に照射された場合、中性子が反応して41Arが生成される。

④放射性粉末を取り扱う際、容器から他の容器に移したときなどに飛散する。

フードとグローブボックス

放射性気体などを放出する実験を行う場合に、作業者および環境への放射性汚染、ならびに放射性物質の摂取による作業者の内部被ばくを防止するために、放射性物質を閉じ込める設備が使われます。
このための設備には、フードとグローブボックスがあります。
フードを使うかグローブボックスを使うかは使用する放射性物質の種類と量および操作の種類によって定められています。

フード

フードはドラフトチャンバーとも呼ばれ、少量の低レベルの非密封放射性物質を取り扱うための設備で、 トレーサ実験や簡単な分析作業など、比較的危険性の低い作業に使用します。
オークリッジ型フードは前面開口部から作業するのに広く用いられています。

グローブボックス

放射性気体などを発生する反応や、危険度の高い非密封放射性物質を取り扱う場合、高汚染が発生しやすい実験を行う場合に、それらの非密封の放射性物質を閉じ込めるための設備としてグローブを装着したボックス、すなわちグローブボックスが用いられます。
グローブボックスの中では、排気ファンを作動させてボックス内空気を吸い込み、フィルタを通して施設の排気設備に排気する排気型グローブボックスが広く用いられています。
グローブボックス内は、室内より負圧に保たれて使用され、排気ガスは、グローブボックスの排気口に設備された高性能エアフィルタと排気浄化設備により、放射性物質を除去してから施設外へ排出されます。

化学線量計

放射線の吸収線量測定には、化学反応を利用した化学線量計を用い、固体やガス中の励起数はG値などのエネルギーー粒子数変換定数から算出します。
電離や励起で、発生する電子数に比例し、定量的に起こる化学反応から、吸収線量を求める方法です。
1~数万Gyなど、高線量測定に利用します。

フリッケ線量計(鉄線量計)

硫酸第一鉄溶液中に放射線を照射すると、無色のFe2+イオンが赤色のFe3+になる反応を利用し、色の変化から吸収線量を求めます。
この測定では、生じたFe3+がFe2+に戻ることを防ぐため、溶液に空気を吹き込んで酸素を飽和させた状態で行います。
他の化学線量計より信頼性が高いうえ、放射線に対して水と等価な物質となるため、放射線化学分野で広く使われています。
測定範囲は20~400Gyです。

セリウム線量計

硫酸セリウム溶液に放射線を照射すると、4価イオンが3価に還元されることを利用した線量計です。
セリウム濃度を変えることで、5~5×105Gyの線量範囲を測定可能です。

アラニン線量計

放射線の照射により、結晶のアラニンが室温で安定なラジカルを生成します。
それを電子スピン共鳴装置(ESR)で定量します。吸収線量範囲は1~10kGyです。
固体の線量計で最も高精度であり、医療分野で広く使われています。

蛍光ガラス線量計(RPLD)

銀イオン含有リン酸ガラスに放射線を照射すると色の中心が形成され、これに紫外線刺激をすると蛍光を発します。
この発光量から吸収線量を求めます。
測定範囲は1~10kGyです。
また、フェーディングが少ないという特徴があります。

ポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計

ポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計は、着色PMMAが放射線の吸収線量に比例して変色します。
この色の変化量を測定し、定量します。
線量範囲は100Gy~50kGyです。
形状および線量計特性の異なる数種類の線量計があり、用途に応じたものを選択します。

プラスチック線量計

プラスチックを固体飛跡検出器として用いた線量計で、プラスチックとしてアリルカーボネートを用いた検出器がよく知られています。
材料に荷電粒子が入射すると、その粒子の飛跡に沿つて損傷が生じます。
その形状から、線量以外に入射した粒子の位置、飛来方向、電荷状態など、さまざまな情報が得られます。
宇宙飛行士の被ばく量の測定や宇宙放射線生物影響実験に使われています。

放射線と励起の変換定数

W値

気体が入った箱に放射線を照射すると、気体分子や原子は電離され、電子-陽イオン対を生じます。
このとき生じるイオン対の総数は、入射した放射線のエネルギーに比例します。
その放射線が気体中にイオン対を1対つくるのに要する平均エネルギーを、その気体のW値(単位:eV)と呼びます。
W値は放射線の種類やエネルギー、気体の種類によって変化し、その範囲は30~42eVです。
電離箱で使われる乾燥空気では、W=33.97eVです。
貴ガスの中ではヘリウムのW値が42.3eVと最大となります。

G値

放射線を物質に照射すると、物質を構成している原子・分子が電離や励起を受け、イオンや励起分子を生じます。
この電離や励起に必要なエネルギーは同じ物質では値が一定です。
G値は放射線の吸収エネルギー100eV当たりの生成分子数として定義されています。
γ線やX線、電子線では、G=15.5となります。
Fe2+(フリッケ線量計)では15.5です。

ε値

半導体や結晶に放射線を照射すると、電子-正孔対が発生します。
1対の電子-正孔対を発生させるのに要する放射線の平均エネルギーをε値(単位:eV)と呼びます。
ε値は放射線の種類やエネルギーでは変化せず、シリコン半導体では3.61eV、ゲルマニウム半導体で2.98eVです。
ゲルマニウムが最も小さい。
ダイアモンドは13.3eV

放射線の応用

厚さ計

放射線が物質を透過すると、吸収により減衰することを利用し、試料の厚さを非接触で測定する装置です。
工場の生産ラインなどの連続測定に適します。
測定する材料の厚さに応じて、α線(タバコの巻紙)、β線(フィルム、リチウム電池電極、金属薄膜、塗膜など[1~1000mg・cm-2])、γ線(圧延鉄鋼板、ガラス、プラスチック板など[1g・cm-2以上])など、広範な分野で使われています。

密度計

厚さ計と同じ原理で、試料の厚さが一定の場合、透過率の変化からその密度を知ることができます。
90Srのβ線の透過を利用したタバコ量目計として使われ、137Csゃ60Coが放出するγ線のコンプトン散乱を利用した密度計は土木分野の地盤調査などで使われています。

レベル(液位)計

石油タンクなどの液に60Coや137Csのγ線を透過させて液体のレベルを測る装置です。
横方向(水平)から照射してその高さの液の有無を測る方式と、垂直方向から照射して液面高さを連続的に測る方法があります。
ビールなどの瓶の内容物のレベル測定では、241Amが使われています。

硫黄分析計

石油精製や電力業界で使われる原油には、数wt%程度の硫黄が含まれ、これが公害の原因となります。
この硫黄をオンライン測定するため、分析計が開発されました。
これには、241AmからAgにγ線を照射して発生する22.1keVの特性X線に対する硫黄の吸収が水素や炭素より大きいことを利用した透過型と、55Feから放出される5.9keVの特性X線により生じる蛍光X線強度を用いる励起型があります。

静電除去器

紙、プラスチック、ゴムなど、絶縁物の表面には静電気が溜まり、それによりゴミが付着します。
この静電気を放射線の電離作用で生じるイオンで中和する方法です。
放射線には、電離能の高ぃ201Poのα線をGBq程度使用することが多く、90Srゃ204Tlからのβ-線も用いられています。

中性子水分計

252Cfなどから放出される高速中性子は、水素核と衝突するとエネルギーを失って熱中性子になります。
この熱中性子の量は水量に比例するので、それをBF3計数管で測定して水分量を求めます。
土壌の管理などに使われています。

蛍光X線分析装置

物質にX線やγ線を照射すると、それに含まれる原子から特性X線が発生します。
そのエネルギーと強度から、元素の種類と量を求める装置です。
γ線を用いる装置は、電源のない野外やX線管が入らない狭い場所での測定に使われます。

メスバウアー分光法

57Coからのγ線を57Feが共鳴吸収する吸収スペクトルから、鉄化合物中の価数、配位環境、磁性などの情報を求める方法です。

その他の用途

283Puのα線を用いた宇宙探査機用の原子力電池、3Hのβ-線を蛍光塗料に照射して光らせる夜光時計、α線を用いた煙探知器や避雷針の避雷器などがあります。

陽電子消滅法

試料に陽電子を照射すると、試料中の電子と衝突し、電子-陽電子対(ポジトロニウム)をつくった後、消滅放射線を放出して消滅します。
試料の細孔に陽電子が捕捉されると、周囲の電子と衝突する確率が高くなり、寿命が短くなります。
この消滅時間や消滅放射線のエネルギー分布からサブnm~nm程度の孔の大きさや電子状態を調べます。
陽電子源としては、主として22Naの壊変で生じるβ+線が使われます。

荷電粒子励起X線分析法(P:XE)

試料に加速器で、数MeVに加速した陽子、α粒子などの重荷電粒子を照射すると、試料中の原子核が励起し、特性X線を放射します。
これを用いて元素分析を行います。
この分析法の特徴には、次のようなものがあります。
・ppm以上の高感度で分析可能
・数μgの少試料量を分析可能
・ナトリウムからウランまでの多元素を同時に定量可能
・1μm以下のサイズで測定でき、細胞中の微量元素分布を分析可能

ラザフォード後方散乱分光法(RBS)

試料に加速器で、数MeVに加速した陽子、α粒子などの重荷電粒子を照射すると、試料中の原子が弾性(ラザフオード)散乱されます。
この散乱粒子のエネルギーが、試料中の元素と異なる質量・深さであることを利用し、深さ方向の分布を分析します。

放射化分析

放射化分析は、安定な元素に中性子やγ線などを照射して放射性核種に変換し、それから放出される放射線のエネルギーが核種に固有であることを利用して、照射前の元素の種類と量を分析する方法です。
この方法は、次のような利点を生かし、自然科学、考古学、環境などの分野で使われています。
・試料を破壊しない非破壊分析
・検出感度が高く、多くの元素を10-8g/g以下まで測定可能
・多種の元素を同時に分析可能
・照射後に測定目的元素が混入しても定量に影響しない

一方、次のような課題もあります。
・中性子捕獲断面積が大きい核種が共存すると、微量元素の定量精度が低下
・原子炉や加速器などを利用するため、放射線防護の考慮が必要

これらを考慮した分析試料容器は、熱中性子で放射化されない、またはされても極短半減期で測定時に影響のないポリエチレン、石英、アルミなどを使用します。
照射時間が短い場合はポリエチレン、長い場合は石英を使用します。
水銀やハロゲン元素など、揮発するおそれがある場合は封管します。
一方、中性子捕獲断面積が大きいホウ素や、 γ線放出割合が高い24Naが生成するナトリウムを含むホウケイ酸ガラス、半減期が長い38Clを生成するポリ塩化ビニルは容器に適しません。
なお、希土類中のYの定量では、共存するDyからの妨害を減らすため、熱中性子を吸収するCd容器が使われます。

中性子放射化分析

試料に、原子炉で発生させた熱中性子を照射し、生じた放射性核種から放出されるγ線のスペクトルを測定して、核種の種類と量を求めます。
測定対象は(n,γ)反応を起こすすべての核種です。
測定法には、次のものがあります。
・照射後試料を原子炉から取り出し、γ線を測定する機器中性子放射化分析
・照射後試料を原子炉内に残したまま、γ線を測定する中性子即発γ線分析
・試料から目的核種を化学分離し、測定する放射化学的中性子放射化分析

荷電粒子放射化分析

中性子放射化分析で測定困難な軽元素に、サイクロトロンなどの加速器で加速した陽子(p)、重陽子(d)、3Heを照射し、生じた放射性核種から発生する放射線の測定に使われます。

アクチバブルトレーサ法

野外のトレーサ実験では、環境への影響から放射性核種が利用できない場合があります。
アクチバブルトレーサ法は、天然存在量が少ない元素やその化合物をトレーサとして使用し、実験終了後試料を放射化分析して、その量を測定する方法です。
アクチバブルトレーサに使用する元素には、次のことが求められ、多くの場合は153Eu(ユウロビウム)が使われます。
・実験環境に存在しない、また実験によって実験場を汚染しない
・中性子照射で高い放射能が生成するよう、放射化断面積が大きい
・生成核の半減期が短い
適用例として、農薬空中散布後の分布や拡散状況の調査、ダムの水漏れの検査、河川水の汚濁や大気汚染物質の移動調査などがあります。
また、鮭の稚魚に153Euを混ぜた餌を与えた後、川に放流し、それがどのように回遊し、日本にどの程度帰ってくるかの調査が有名です。

核種の性質

単核種元素

天然に存在する核種がただ1つである元素のことを、単核種元素といいます。
これには次の元素があります。
9Be,19F,23Na,27Al,31P,45Sc,55Mn,59Co,75As,89Y,93Nb,103Rh,127I,133Cs,141Pr,159Tb,165Ho,169Tm,197Au,209Bi,232Th,231Pa

モノアイソトピック元素

モノアイソトビック元素は、単核種元素に似た概念で、天然に存在する安定核種が1つだけの元素です。
これには次の元素があります。
51V,85Rb,113In,139La,153Eu,175Lu,185Re

欠損元素

欠損元素は、原子番号がウランの92より小さい元素で天然の安定同位体を持たない元素をいいます。
これには次の4元素があります
Tc,Pm,At,Fr

壊変関係

①β-壊変でγ線を放出しない核種(分岐壊変しない核種)には次のものがあります。
3H,14C,32P,33P,35S,36Cl,45Ca,59FE,63Ni,90Sr,90Y,99Tc,103Cd,147Pm

②αやβ壊変の他にγ線またはX線を放出する核種には次のものがあります。
・β-壊変でγ線を放出する核種
24Na,60Co,129I,131I,147Pm,192Ir
・電子捕獲(EC)壊変でγ線を放出する核種
7Be,51Cr,57Cr,67Ga,123I,125I
・EC壊変で特性X線を放出する核種(括弧内は放出される特性X線を示す)
55Fe(Mn-K),68Ge(Ga-K),109Cd(Ag-K,γ線も放出)、201Tl(Hg-K)

③電子捕獲(EC)壊変のみの核種には次のものがあります。
51Cr,55Fe,57Co

④β+壊変する核種には次のものがあります。
括弧内はその核種が起こす他の壊変を示します。
11C(EC),13N,15O(EC),18F(EC),22Na(EC),26Al(EC),40K(EC,β-),57Ni(EC),64Cu(EC, β-),68Ga(EC),1261(EC, β-)

⑤内部転換(IT)する核種には次のものがあります。
括弧内はその核種が起こす他の壊変を示します。
81mKr,99mTC,137mBa(γ線)

熱中性子で分裂しない核種

熱中性子で分裂しない核種には次のものがあります。
232Th,238U

中性子源として用いられる核種

中性子源として用いられる核種の組合せには次のものがあります。

①9Beまたは6Liに226Raや241Amが放出するα線を照射すると、次の反応で中性子を放出します。
9Be(α, n)12C、6Li(α, n)9B

②人工放射性核種の252Cfは自発核分裂で壊変し、中性子を放出します

核分裂性核種

核分裂性核種は、運動エネルギーを持たない中性子(熱中性子)によって核分裂を起こすことができる物質と定義されています。
これには、奇数の質量数を持つ次のウランとプルトニウム核種があります。
233U,235U,239Pu,241Pu

核原料物質

核原料物質とは、ウランもしくはトリウムまたはその化合物を含む物質で、核
燃料物質以外のものと定義されています。これには、偶数の質量数を持つ次のウ
ランとトリウム核種があります。
232Th,2238U

放射線による水の励起と電離

スプール

液体や分子性固体に放射線を照射すると、その進路に沿つて断続的に励起や電離が起こり、そこからイオン、不対電子を持つたラジカル、水和電子などが混ざったスプール(スパーともいいます)が生じます。
単位長さ当たりのスプール数はLETが大きいほど多くなります。

反応生成物

水に放射線を照射すると水分子を励起・電離し、次のものが生成します。
①励起:ヒドロキシルラジカル(・OHラジカル)と水素ラジカル(・Hラジカル)
②電離:水分子のイオン(H2O+)と電子(e)
水分子のイオンは非常に不安定で、直ちに分解し、ヒドロキシルラジカルを生じます。
電子はその周りに水分子が配列して水和電子となり、さらに酸素と反応してスーパーオキサイド(O2・+)になります。

・酸素分子:不対電子を2個持つフリーラジカル。ビラジカルと呼ばれる
・過酸化水素:不対電子はなくラジカルではない。強い酸化剤
・ヒドロキシルラジカル:極めて反応性が高い。強い酸化剤。中性で、pHに影響を与えない。寿命はμ秒オーダー
・水和電子:強い還元剤
・水素ラジカル:強い還元剤
・スーバーオキサイド:酵素反応により過酸化水素を生じる

放射線化学反応

エタノールはラジカルと反応し、ラジカルを消滅させます。
ラジカルを消滅させる物質をラジカル捕捉剤といいます

年代測定(放射年代測定)

放射性核種が一定の半減期で壊変するので、その親/娘核種の比を求める、また放射線による試料損傷数から生成年代を求める方法を放射年代測定法といいます。
前者の一種の14C年代測定が有名ですが、他に次のものがあります。

40K-40Ar年代測定法

火山活動などで岩石が加熱され、含まれていたAr気体が失われた後、冷却した岩石中の40Kが壊変して生じた40Arが溜まります。
この岩石中の40K/40Ar比から年代を求めます。適用年代は数千万~数10億年です。
また、貴重な月の岩石の年代測定法として、試料に中性子を照射して39Kを39Arに変換して年代を求める39Ar-40Ar法が開発されました。

Rb-Sr年代測定法

87Rbは半減期497億年で87Srになります。
同組成のマグマから同時期に生成した、RbとSrを含有する数種類の組成の異なる鉱石ができた場合、二重希釈法と同様の考え方で、それら鉱石の87Rb/86Srと87Sr/86Srを求めることでマグマが固まった年代を求める方法です。
他に鉱石の年代を求めるU-Pb年代測定、また53Mn_53Crによる隕石年代測定があります。
地質分野では、地下水の3H/3He比から、その滞留時間を求める3H/3He法や空気中の222Rn由来の210Pbを含む湖底などの堆積泥の年代を測定する方法があります。

熱ルミネセンス法

土器や火山噴出物中の石英や長石岩石に含まれる結晶の損傷は加熱されると消滅しますが、その後それらの周りにある核種の放射線により再び生じます。
その数を熱ルミネセンス線量計と同じ方法で求め、年代を測定します。
適用年代は測定時から数100~数10万年です。

電子スピン共鳴(ESR)法

熱ルミネセンス法と同様の試料以外に、生体物質や鍾乳石など熱の影響を受けていない試料が、放射線照射により生じたラジカル量をESR装置で求め、年代を測定します。
主な用途に骨や歯などのリン酸塩試料、鍾乳石、貝殻などの炭酸塩試料があります。
適用年代は数100~数10万年です。

フィッショントラック(飛跡)法

雲母、ジルコンやカンラン石などに含まれる238Uの自発核分裂で生じた核分裂核が岩石に生じる飛跡の数と岩石中のウラン量の比から岩石の年代を求めます。
雲母やジルコンを含む岩石に適用します。
適用年代は10万~数10億年です