放射能
「放射線」を出す能力を持った物質のことを「放射性物質」といいます。
放射線を出す能力のことを「放射能」といいます。
崩壊(壊変)
原子が別の原子に変る方法には大きく分けて4つあります。
原子核が放射線を出して変化する現象を崩壊、あるいは壊変と呼びます。
①アルファ崩壊
②ベータ崩壊
ベータマイナス崩壊、ベータプラス崩壊、電子捕獲の3種類があります。
陽電子は特殊な条件の下でしか存在しないため、原子核に取り込まれるようなことは起こりえません。
したがって、電子捕獲の対になるような陽電子の現象はなく、上記3つのパターンとなります。
③核異性体転移
④自発核分裂
崩壊の種類 | 崩壊形式 (略式記号) |
質量数(A) | 原子番号 | 放出される放射線 | |
①アルファ崩壊 | α | A-4 | Z-2 | アルファ線 | |
②ベータ崩壊 | ベータマイナス崩壊 | β– | A | Z+1 | ベータマイナス線、ガンマ線 |
ベータプラス崩壊 | β+ | A | Z-1 | ベータプラス線、ガンマ線 | |
電子捕獲 | EC | A | Z-1 | エックス線、オージェ電子 | |
③核異性体転移 | IP | A | Z | ガンマ線、内部転換電子 | |
④自発核分裂 | SF | 多様 | 多様 | n、ベータ線、ガンマ線 |
アルファ崩壊
原子核がアルファ粒子を放出し、原子番号が2つ少なく、質量数が4つ少ない別の原子核に変化することをアルファ崩壊と呼びます。
核子結合エネルギーは、大きい原子では小さいため、小さい原子核になった方がエネルギー的に安定します。
そのため、大きい原子核がアルファ粒子を1つ放り出したくらいでは、まだまだ不十分のため、次々に放出します。
つまり、アルファ崩壊を繰り返し、より安定な原子核に移行していきます。
ウラン234がトリウム230になる反応が有名です。
ベータ崩壊
電子が原子核から放出されるか、原子核に取り込まれる崩壊現象をベータ崩壊といいます。
*ベータ線を出すとは限らないので注意です!!
ベータマイナス崩壊
電子が放出される場合
中性子 → 陽子 + 電子 + 反ニュートリノ(反中性微子)
ベータプラス崩壊
陽電子が放出される場合
陽子 → 中性子 + 陽電子 + ニュートリノ(反中性微子)
正確には、以下のようになっています。
陽子 + (電子 + 陽電子) → (陽子 + 電子) + 陽電子 → (中性子 + ニュートリノ) + 陽電子
質量は、中性子>陽子 ですので、質量が小さい陽子が中性子に変るということは、陽子+エネルギーがないと釣り合いません。
したがって、励起エネルギーが高い核種しかおきません。
電子捕獲
軌道電子が取り込まれる場合
陽子 + 捕獲電子 → 中性子 +ニュートリノ
オージェ効果
電子捕獲においては、原子核に近い軌道電子が捕獲されるため、空席が生じます。
この空席を埋めるために、外側のエネルギー準位が高い軌道から電子が遷移してきます。
その際に、軌道間のエネルギー準位の差に相当する特性エックス線を出します。
ときには、そのエネルギーを外部の軌道電子に与えて原子の外に放り出します。
この現象をオージェ効果といい、放出された電子をオージェ電子といいます。
励起状態にある原子がエックス線を放出する代わりに電子を放り出す自己電離現象ですが、光電効果やコンプトン散乱、荷電粒子による電離など、電子軌道に空席ができる現象であれば、常に起こりえます。
特性エックス線が出るか、オージェ電子が出るか、2つに1つです。
核異性体転移
原子番号も質量数も同じですが、核の安定性だけが異なる核種同士を核異性体といいます。
核異性体同士の転移現象を核異性体転移(isomeric transition、ITと略記)と呼びます。
99mTc → 99Tc + γ
核医学診断で用いられるテクネチウムの反応が有名です。
内部転換
核異性体転移で、ガンマ線として放出されるはずのエネルギーが核外の軌道電子がもらい受けて飛び出す現象を内部転換(internal conversion、ICと略)と呼びます。
飛び出した電子は内部転換電子といいます。
内部転換がおきると、軌道電子に空席ができるため、外側の軌道から電子が遷移し、特性エックス線が発生します。
オージェ効果も起きるので、二次的に色んな反応が起きることになります。
自発核分裂
読んで字の如しですが、自分で勝手に核分裂します。
原子番号が大きい原子核は、エネルギー的には小さい原子番号の原子核になった方が安定します。
アルファ崩壊が良い例ですが、もっと単純に、原子核がぱっかーんと分裂した方が単純です。
この現象を自発核分裂(spontaneous fission、SFと略)といいます。
自発核分裂(SF) → 自発核破片(FF) + 自発核破片(FF)
ここで、質量は 左辺 > 右辺 です。
そして、等分されるわけではなく、破片には大小の偏りができることが多いです。
特定の核種あるいは特定の質量数の核分裂生成物を生ずる核分裂の全核分裂に対する比を核分裂収率といいます。
放射能の強さと減衰
1秒間に1個の割合で原子核が崩壊しているときの放射能の強さを1ベクレル(Bq)といいます。
放射能の強さは放射性原子の数に正比例します。
放射性原子の数が多ければ多いほど、1秒あたりの崩壊数も多いので当然と言えます。
放射能の強さと半減期
放射性原子は、放射線を出して別の原子に変っていくので、原子数は徐々に少なくなります。
そのため、放射能の強さも時間とともに減衰していきます。
放射能の強さが半分になるまでの時間を「半減期」と呼びます。
*生体内に入った薬などの物質が、代謝や排泄などによって半分に減るまでに要する時間も生物学的半減期などと呼ばれますので、他の学問でも似たような表現がなされるようです。
ちなみにウラン238の半減期は45億年です。
放射能の強さの指数関数的減衰
高校数学の微分方程式を用いれば、比例定数λと、初期原子数、半減期などを用いて計算できるのですが、結論だけ記載します。
最初の原子数:N0
原子数:N
時間:t
崩壊定数(比例定数):λ
ネイピア数(自然対数の底):e
最初の放射能の強さ:A0
放射能の強さ:A
半減期:T
原子数の減少は、以下のように指数関数的に減少します。
N = N0・e-λt
放射能の強さも、以下のように指数関数的に減少します。
A = A0・e-λt あるいは、A = A0・(1/2)t/T
逐次崩壊と系列
放射性核種が放射線を出して別の核種になったあとも、変身後の核種も放射性で、さらに崩壊が続くことがあります。
崩壊前の放射性核種を親核種、崩壊後の核種を娘核種と呼びます。
特に多段階の崩壊現象を逐次崩壊と呼び、いくつかの系列に分類されます。
現在の地球上には三種類の崩壊系列が残っています。
アルファ崩壊、ベータ崩壊を繰り返しながら原子核が安定化するまで変化しますが、アルファ崩壊では質量が4変化し、ベータ崩壊では変化しません。
つまり、親核種の質量数が、4n、4n+1、4n+2、4n+3で分類されます。
ウラン系列
238Uから出発して最終的に206Pbへ崩壊する系列(4n+2)
アクチニウム系列
235Uから出発して207Pbに崩壊する系列(4n+1)
トリウム系列
232Thから出発してそして208Pbへ崩壊する系列(4n)
ネプツニウム系列
237Npから出発してそして209Biへ崩壊する系列(4n+1)で、自然界には存在しません。
半減期が短い核種は、自然界ではすでに崩壊しきっていて存在せず、半減期が長い核種のみが残存していることが関係しています。
放射平衡
A → B → C という逐次崩壊を考えます。
Aは、半減期に伴い、減少していきます。
Bは、Aが崩壊するたびに生産されるので、増えていく一方で、崩壊によって、減少もしていきます。
Bは増える要因と減る要因の両方が存在していることになります。
このように、親核種と娘核種の放射能の並行関係は放射平衡と呼ばれます。
親核種と娘核種の放射平衡の比が1よりもかなり小さいとき(親核種の半減期と娘核種の半減期がそれほど違わない時)は過渡平衡といいます。
親核種の半減期が娘核種の半減期よりも圧倒的に長いときは、比はほぼ1になり、永続平衡といいます。
ミルキング
親核種から必要な娘核種を搾り取る方法をミルキング(milking)といいます。
この場合、親核種をカウ(cow)、娘核種をミルク(milk)といいます。
たとえば、核医学診断に用いられる99mTcは半減期が6時間しかありませんので、勝手に崩壊して、保存上の利便性がよくありません。
しかし、99Moは半減期が66時間で、99mTcとなるため、親核種のMoを持っている方が実用的と言えます。
病院では、99Mo/99mTcジェネレーターとして供給され、広く利用されています。
トリウム系列(4n系列)
232Thを親核種として208Pbまで逐次崩壊する系列です。
親核種 | 崩壊 | 半減期 | 娘核種 |
---|---|---|---|
252Cf | α | 2.645 年 | 248Cm |
248Cm | α | 3.4 × 105 年 | 244Pu |
244Pu | α SF 0.12 % |
80 × 106 年 | 240U ? |
240U | β– | 14.1 時間 | 240Np |
240Np | β– | 65 分 | 240Pu |
240Pu | α | 6564 年 | 236U |
236U | α | 2.3×107 年 | 232Th |
232Th | α | 1.405×1010 年 | 228Ra |
228Ra | β– | 5.75 年 | 228Ac |
228Ac | β– | 6.15 時間 | 228Th |
228Th | α | 1.9131 年 | 224Ra |
224Ra | α | 3.66 日 | 220Rn |
220Rn | α | 55.6 秒 | 216Po |
216Po | α | 0.145 秒 | 212Pb |
212Pb | β– | 10.64 時間 | 212Bi |
212Bi | β– 64.06 % α 35.94 % |
60.55 分 | 212Po 208Tl |
212Po | α | 2.99×10-7秒 | 208Pb |
208Tl | β– | 3.083 分 | 208Pb |
208Pb | - | 安定 | - |
特に注意すべきは、220Rn(ラドン)で、大気中にも含まれるため人体への吸収を通じての体内被曝として重要です。
ネプツニウム系列(4n+1)
241Puを親核種として209Bi(あるいは209Ti)まで逐次崩壊する自然界にない系列です。
親核種のプルトニウムではなく、系列の中で最も半減期が長いネプツニウムが系列名称となっています。
親核種 | 崩壊 | 半減期 | 娘核種 |
---|---|---|---|
241Pu | β– 99.9975 % α 0.0025 % |
14.4 年 | 241Am 237U |
241Am | α | 432.2 年 | 237Np |
237U | β | 6.75 日 | 237Np |
237Np | α | 2.144×106 年 | 233Pa |
233Pa | β– | 26.967 日 | 233U |
233U | α | 1.592×105 年 | 229Th |
229Th | α | 7,880 年 | 225Ra |
225Ra | β– | 14.9 日 | 225Ac |
225Ac | α | 10.0 日 | 221Fr |
221Fr | α 99.9 % β– 0.1 % |
4.9 分 | 217At 221Ra |
221Ra | α | 28.0 秒 | 217Rn |
217At | α 99.99 % β– 0.01 % |
32.3 ミリ秒 | 213Bi 217Rn |
217Rn | α | 0.54 ミリ秒 | 213Po |
213Bi | β– 97.91 % α 2.09 % |
45.49 分 | 213Po 209Tl |
213Po | α | 4.2 ミリ秒 | 209Pb |
209Tl | β– | 2.20 分 | 209Pb |
209Pb | β– | 3.253 時間 | 209Bi |
209Bi | α | 1.9×1019 年 | 205Tl |
205Tl | - | 安定 | - |
237Npはわずかながら自然界で確認はされています。
ウラン系列(4n+2)
ウラン系列は238Uを親核種として、206Pbまで崩壊する系列です。
もっとも有名なラジウム226を含むため、ウラン・ラジウム系列とも言われます。
同位体 | 崩壊形式 | 半減期 | 娘核種 |
---|---|---|---|
238U | α | 4.468×109 年 | 234Th |
234Th | β- | 24.10 日 | 234mPa |
234mPa | β-99.84%
IT0.16% |
1.17 分 | 234U
234Pa |
234Pa | β- | 6.7 時間 | 234U |
234U | α | 2.455×105 年 | 230Th |
230Th | α | 7.538×104 年 | 226Ra |
226Ra | α | 1600 年 | 222Rn |
222Rn | α | 3.824 日 | 218Po |
218Po | α99.98% | 3.1 分 | 214Pb
218At |
214Pb | β- | 26.8 分 | 214Bi |
218At | α99.9%
β-0.1% |
1.6 秒 | 214Bi
218Rn |
214Bi | α0.021%
β-99.979% |
19.9 分 | 210Tl
214Po |
218Rn | α | 3.5×10-2 秒 | 214Po |
214Po | α | 1.643×10-4 秒 | 210Pb |
210Tl | β- | 1.3 分 | 210Pb |
210Pb | α1.0%
β-99% |
22.3 年 | 206Hg
210Bi |
210Bi | α1.0%
β-99% |
206Tl
210Po |
|
206Hg | β- | 206Tl | |
210Po | α | 206Pb | |
206Tl | β- | 206Pb | |
206Pb |
238Uと234Uは親子関係にあり、永続平衡関係(親の半減期が圧倒的に長い)が成立しています。
アクチニウム系列(4n+3)
235Uを親核種として207Pbまで逐次崩壊する系列です。
ウランから始まりますが、ウラン系列特別するため途中で出てくるアクチニウム(ついで半減期が長い)が系列の名称として使用されています。
親核種 | 崩壊 | 半減期 | 娘核種 |
---|---|---|---|
239Pu | α | 24110 年 | 235U |
235U | α | 7.038×108 年 | 231Th |
231Th | β– α 0.000001 % |
25.52 時間 | 231Pa 227Ra |
231Pa | α | 32760 年 | 227Ac |
227Ra | α | 42.2 分 | 223Rn |
227Ac | β– 98.62 % α 1.38 % |
21.773 年 | 227Th 223Fr |
223Rn | β– | 23.2 分 | 223Fr |
227Th | α | 18.72 日 | 223Ra |
223Fr | β– 99.994 % α 0.006 % |
22.0 分 | 223Ra 219At |
223Ra | α | 11.435 日 | 219Rn |
219At | α 99.99 % β– 0.01 % |
56 秒 | 215Bi 219Rn |
219Rn | α | 3.96 秒 | 215Po |
215Bi | β– | 7.6 分 | 215Po |
215Po | α β– 0.000023 % |
1.781 ミリ秒 | 211Pb 215At |
215At | α | 0.10 ミリ秒 | 211Bi |
211Pb | β– | 36.1 分 | 211Bi |
211Bi | α 99.72 % β– 0.28 % |
2.14 分 | 207Tl 211Po |
207Tl | β– | 4.77 分 | 207Pb |
211Po | α | 0.516 秒 | 207Pb |
207Pb | - | 安定 | - |
219Rnはアクチノン(An)とも呼ばれます。