放射線と特性

2023年12月18日

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各放射線と、その特性、関連した現象をご説明いたします。

アルファ線

アルファ粒子は陽子2個と中性子2個が結びついた複合粒子で、プラスに帯電しています。

弾性散乱(電磁散乱)

アルファ粒子が物質に飛び込むと、原子核や電子のそばを通過することになります。

電子のそばを通るときは、電子はアルファ粒子に引きずられますが、アルファ線自体はほぼ素通りです。
*電荷だとさほど2個のプラス、1個のマイナスでさほどの差ではないと感じるかもしれませんが、質量は陽子・中性子と電子ではぜんぜん違うのでほとんど影響なしです。

しかし、原子核の傍を通るときはそうはいきません。

原子核には原子番号の数だけ帯電してますので、正の電荷に反発されて、アルファ線の進路は大きく曲げられます。

もちろん、原子によって陽子数が違いますので、どの原子核のそばを通るかで反発力が変わります。

この現象を弾性散乱(電磁散乱)と呼ばれます。

電磁気力(クーロン力)によって起こるので、電磁散乱(クーロン散乱)とも呼ばれます。

原子核、電子というミクロな視点ではなく、原子という塊で見た時に、原子とアルファ粒子がぶつかって進路が変わると考えることができるので、単純に力学的な衝突による進路変更と見ることができます。

そのため、弾性散乱と呼ばれます。

電離作用

アルファ線が物質の中を通過すると、電子に電磁気力(クーロン力)を及ぼし、原子から電子を引き剥がしていきます。

これを「電離作用」といい、この電離作用をもっている放射線を「電離放射線」といいます。
*アルファ線の項目で説明していますが、アルファ線だけの特性ではありません。

電離(ionization)は「イオン化する」という意味です。

イオンとは、原子の電気的中性の状態が崩れてプラスかマイナスに帯電したものをいいます。

イオン化すると、原子の化学反応性が変化したり分子の化学結合に不都合が生じたりするため、電離作用をもつ放射線は重視されます。

アルファ線は2個分の電荷を持っているため、電離作用が強力です。

電離密度:ある距離を進む間に電離を繰り返す度合

つまり、アルファ線は電離密度が高いと言えます。

電離密度が高い、電離作用が強力なため、アルファ線が飛んでいく際に、すぐに電離作用を使い果たし、飛距離は短くなります。

空気中では2〜3cm、水中では0.03mmしか進めません。

超接近戦が得意な近接戦闘タイプですね。

この飛距離を「飛程」といいます。

励起作用

アルファ線は物質中を通過する時に、励起作用も及ぼします。

励起(excitation)させるので、励起作用ですが、励起=エキサイトですから、エキサイト状態を考えるとなんとなくイメージができます。

励起とは、外部からエネルギーを与えることによって、原子、分子などをより高いエネルギー状態に移すことをいいます。

具体的には、アルファ線が通過すると、電子軌道の内側を回っている電子が引きずられて外側の電子軌道に移動します。

しかし、外側の電子軌道はすでに定員いっぱい状態なので、定員オーバーによりすぐに、外側の電子軌道を回っている電子のいずれかが内側の軌道に移動して元の状態に戻ります。

そのときに特性エックス線を発生させます。

各軌道にはエネルギー的な序列があり、「エネルギー準位」と呼ばれます。

エネルギー準位は内側ほど低いため、励起は「低いエネルギー準位の電子が高いエネルギー状態の準位に引き上げられる現象」とも言えます。

定員オーバー状態の時を励起状態として考えてください。

この励起状態の原子を「ラジカル」と呼びます。

すぐに励起状態は解消されてしまいますが、そのごく短期間のラジカルが活発な化学反応性を示します。

原子核反応

アルファ線は2個の陽子をもち、原子核もまた陽子を持っているので、お互いにプラスの電荷ですから反発し合います。

ぶつかろうとしても反発してしまうのが通常ですが、相手の原子核が小さい場合は、反発力が小さいため衝突が起こり得ます。

この衝突で「原子核反応」が起こります。

4He(アルファ線) + 9Be → 12C + n(中性子)

上記が例となりますが、この反応は(α、n)反応(アルファ・エヌ反応)と呼ばれ中性子線を発生させるために利用されたりします。

226Ra(ラジウム226)のようなアルファ線を出す放射性物質をベリリウムで包むと同様の反応が起きます。

 

ベータ線

ベータ線は電子の流れです。

電離・励起作用

アルファ線と同様の考え方をしていきましょう!

電子も電荷を帯びていますが、アルファ線と異なり、マイナスの電荷を1つ持ちます。

そして、質量が極めて小さいのが大きな違いですね。

ベータ線が核外の電子と電磁気力を及ぼし合えば、電離・励起を引き起こします。

つまり、ベータ線も電離放射線です。

ただし、電離密度は低いため、飛程は大きい(ベータ線は線スペクトルで、エネルギーがまちまちのため、一律ではないですが)です。

そのため、広範囲に影響を及ぼします。

また、質量が軽く、進路を曲げられてしまうため、直進性は低いです。

ちなみに、ベータ線の飛程距離は最大飛程で表します。

制動放射

物質に電子線やベータ線が原子核の作用で急激に曲げられると、エネルギーの一部を電磁波として放出します。

結果として電子線やベータ線はブレーキ(制動)をかけられるので、この現象は「制動放射」と呼ばれ、生じた電磁波(エックス線)を制動放射線(braking radiation)と呼びます。

病院で検査に使われるエックス線も、この制動放射線を利用しています。

ちなみに、原子の中で、原子核を中心、その周囲を回っている電子を領域として考えましょう。

すると、ベータ線が通過する時に、原子核の近くを通過する確率(制動放射線を発生する確率)と、電子領域を通過する確率(電離や励起を起こす確率)がなんとなく想像できると思います。

制動放射でエックス線を発生する割合は、電離や励起で失うエネルギに比べるとごくわずか(0.46%)です。

後方散乱

ベータ線が物質中を通過すると、電子の質量が小さいため直進性が低く、容易に進路が変更して曲げられます。

なかには、入射側に戻ってくる(入射したはずが後方に進む)ものがでてきます。

ベータ線が入射方向に散乱されて戻ってくる現象を「後方散乱」と呼びます。

通過する物質の原子番号が多いほど、陽子や電子の数が大きく、曲げられやすいため後方散乱が起きやすい。

そのため、後方散乱の発生の程度によって、その物質を推定することが可能です。

後方散乱電子の全入射電子に対する比を後方散乱係数と呼びます。

ガンマ線、エックス線

エックス線は「核外起源の電磁波」で、ガンマ線は「核内起源の電磁波」であって、その起源は異なるものの、本質的には同じ電磁波です。

トムソン散乱

エックス線のような低エネルギーの波長の長い電磁波が物質を通過する時、近くの電子は電磁気力(クーロン力)によって振動します(弾かれたりするほどではない)。

そこを起点に、同じ振動数の電磁波が別の方向に放出されます。

結果として、同じ波長(同じ振動数)の電磁波が別の方向に放出されるだけの現象ですが、これをトムソン散乱といいます。

弾性散乱の一種といえます。

光電効果

エックス線やガンマ線が原子に吸収され、その全エネルギーをもらって軌道電子が飛び出してくる現象を光電効果(光電吸収)といいます。

光電効果の起こりやすさはエックス線やガンマ線のエネルギーEと物質の原子番号Zに依存します。

光電効果の起こる確率をpとすると、以下の式が成り立ちます。

p∝Z4.5/E3.5  *∝は「比例する」という意味のマークです。

光電効果はエネルギーの低いエックス線やガンマ線が、原子番号の高い物質に飛び込んだ場合に起きやすく、エネルギーが低い時ときのほうが起きやすいことがわかります。

コンプトン効果(コンプトン散乱)

エックス線やガンマ線が原子にあたり、軌道電子を突き飛ばして放出させ、自らもエネルギーを失って散乱される現象をいいます。

衝突の際にエネルギーを失いますので、波長が伸びます。

コンプトン効果における波長の伸び

波長の伸び=Δλ (Δはデルタと読み、増加分を示すのに用いられることが多いです)
プランク定数=h
電子の質量=m
真空中の光の速さ=c
散乱の角度=θ (シータと読みます)

Δλ=h/mc × (1-cosθ) =2.426×10-12(1-cosθ)

コンプトン効果における電磁波のエネルギー変化

入射電磁波のエネルギー=E0
散乱電磁波のエネルギー=Eθ

Eθ E0 1+ E0×(1-cosθ) 0.511

コンプトン効果の起こりやすさ

p∝Z/E

コンプトン効果は、物質の原子番号が大きく電磁波エネルギーが低いほど起こりやすいといえます。

電子対生成

消滅放射線と逆の現象を電子対生成といいます。

高エネルギーの電磁波が物質中に入ると、原子核や軌道電子の近くで電磁波と作用して消失し、陽電子と電子へと変ります。

消滅放射線が、電子と陽電子が結合して0.511MeVの電磁波2本になるので、逆を言うと、0.511×2=1.02MeVのエネルギー以上が必要だということがわかります。

電子対生成が起こるエネルギー=E

E > 2×mc2 = 1.02MeV

電子対生成の起こりやすさは以下の通りです。

p∝Z2 × (E-1.02MeV)

電子対生成によって生じた電子は、通常の電子と同じく周囲の物質と相互作用し、電離や励起を起していきます。

陽電子も電離や励起を起していきますが、エネルギーを失うと、周囲の電子と結合して消滅放射を起します。

光核反応

光核反応(ひかりかくはんのう)は高エネルギーのエックス線やガンマ線を原子核に照射したときに起こる核反応のことです。

原子核の陽子、中性子の結合に関わるため、陽子と中性子の結合エネルギー以上のエネルギーが必要だということがわかります。

ざっくりと、10MeV以上高いエネルギーが必要です。(結合エネルギーは8~9MeV)

*ただし、重水素やベリリウムなどの小さな核種は核子結合エネルギーも小さいので、2~3MeV程度でも光核反応は起こせる。

以下のように光核反応によって、原子が崩壊する過程のこと光崩壊、あるいは光壊変や光分解と呼ばれます。

2H + エックス線、ガンマ線 → 陽子 + 中性子

放射線減弱

エックス線、ガンマ線は線源から離れるほど弱くなります。

強度は距離の二乗に反比例します。

加えて以下のエネルギー領域においても減弱します。

超高エネルギー領域:光核反応
高エネルギー領域:電子対生成
中エネルギー領域:コンプトン散乱
低エネルギー領域:トムソン散乱、光電効果

放射線の強度は単位時間あたりに単位面積を貫いて通過する放射線の数で表わします。

最初の強度:l0
物質の深さ:d
距離通過後の強度:ld
減弱係数:μ (物質の種類と電磁波のエネルギーで決まる)

ld = l0 × e-μ・d

実際には、散乱されて線束から外れたものが、再び散乱されて、線束に戻ってくるものも含まれます。

その関係で、計算式で表わされるほど減弱されません。

再生係数(Bで表わします)を乗じて補正されます。

中性子線

中性子線は電気的に中性なので、原子核のプラス電荷の反発も受けませんし、周囲の電子の影響も受けずに反応を引き起していきます。

弾性散乱

アルファ線やベータ線の弾性散乱は、入射した放射線のエネルギーは変らず、方向だけが変るものでした。

中性子線の弾性散乱では、以下のようにエネルギーの変化が生じます。

中性子の運動エネルギー=弾かれた原子核の運動エネルギー + 散乱後の中性子の運動エネルギー

中性子1つが大きな原子核に衝突しても、一方的に跳ね返され、エネルギーはあまり減りません。

水素の原子核にぶつけると、効率が一番良いですが、弾かれた陽子は荷電があるため、短い距離で運動エネルギーを失います。

非弾性散乱

散乱の前後でエネルギーが保存されるのを弾性散乱と呼びましたが、中性子の運動エネルギーの一部が原子核の励起や電磁波を発生させるなどに使われて保存されない場合を非弾性散乱と言います。

衝突によって、原子核は励起状態になりますが、余分なエネルギーを持っていることになるので、すぐに電磁波を出すことで放出し、安定状態になります。

核内起源の放射線を放出することになりますので、ガンマ線が放出されるということになります。

放出されたガンマ線は、トムソン散乱、光電効果、コンプトン散乱、電子対生成などを起していきます。

飛び込んだ中性子が弾き返される場合以外にも、核反応を起すこともありますが、これも広義では非弾性散乱に含まれることがあります。

中性子捕獲反応

中性子が原子核に吸収されてしまい、ガンマ線が放出される反応を中性子捕獲反応といいます。

非弾性散乱との違いは、中性子が衝突後もいるかどうかの違いです。

59Co(n、γ)60Co と呼ばれる反応で、 59Co + n → 60Co + γ というものが代表です。

これは、自然界にあるコバルトに中性子をぶつけると、ガンマ線が発生することを利用して、がんの治療に使われます。

60Coは、やがてベータ線を出して、60Niに変ります。(原子番号が1つ増える不思議)

荷電粒子放出反応

中性子が原子核に入り込み、陽子やアルファ線などの荷電粒子を放出させる反応は荷電粒子放出反応といいます。

中性子は電気的に中性のため、直接電離を起こせませんが、こういった反応によって間接的に電離を起すことが可能です。

そのため、「間接電離粒子」と呼ばれます。

14N(n、p)14C 、 14N + n → 14C + p

10B(n、α)7Li 、 10B + n → 7Li + α

上記が有名な反応です。

炭素14は放射性炭素14同位体年代測定法によって、死後の年代経過を調べることに用いられます。

原子核分裂反応

大きい原子核の場合、もっと小さい原子核に変化した方がエネルギー的に安定します。

アルファ線を放出して小さくなる方法もありますが、中性子をぶつけることで原子核分裂反応を起すことでも小さくすることができます。

235U + n → 236U → 140Xe + 92Sr + 3n

ウラン236は中間的な励起状態です。
また、右辺の核分裂生成物であるキセノン140やストロンチウム92、3つの中性子は一例にすぎず、他の生成物ができることもあります。

放射線の単位

色んな放射線の単位があります。

照射線量

空気中1kgに電離によって1C(クーロン)の電気量が生じているとき、照射線量が1C/kgである、といいます。

1C(クーロン)は1アンペア(A)の電流が1秒間に運ぶ電気量のことです。

放射線の通過により発生する電荷量を表わす単位として、かつてはレントゲンが使われていましたが、今は使用されていません。

空気カーマ

空気1kg中で電離を起こし、電子に1ジュール(J)の運動エネルギーを与えたときに、空気カーマは1J/kgとか、1グレイ(Gy)であるといいます。

粒子フルエンス

ある場所の1cm2を貫いて1個の粒子が貫いていれば、粒子フルエンスは1cm-2であるといいます。

単位時間あたりの粒子フルエンスを粒子フルエンス率と呼ばれます。

ある場所に粒子がどれだけのエネルギーを運んできているかを表わすには「エネルギー・フルエンス」という量が使われます。

1cm2を貫いている放射線が1ジュールの運動エネルギーを持っているときに、エネルギーフルエンスは1J/cm2といいます。

単位時間あたりのエネルギーフルエンスをエネルギーフルエンス率といいます。