放射線
原子の構造や言葉の定義などを前節(原子と原子核)でやりました。
ここでは、本題ともいえる放射線についてお勉強していきましょう!
放射線とは?
放射線の放射という字をそのまま解釈しましょう。
飛んでいる(放射されている)粒子や電磁波のことです。
もうちょっと詳しく言うと、「真空中や物質中を高速で飛ぶ粒子や電磁波のこと」です。
放射線は、粒子の場合は「粒子放射線」、電磁波の場合は「電磁放射線」と呼ばれます。
粒子放射線
陽子、中性子、電子がわかりやすい粒子放射線です。
陽子2個、中性子2個からなる複合粒子(ヘリウム原子核と同じ)ものも粒子放射線です。
アルファ線:上述のヘリウム原子核と同じ粒子放射線をアルファ線といいます。
ベータ線:放射性核種から放出される電子を特にベータ線といいます。
電磁放射線
電磁放射線は、電磁波による放射線です。
電磁波
電磁波とは、電界(電場)と磁界(磁場)が相互に作用しながら空間を伝播する波のことです。
波長が短くなる(周波数が高くなる)ほど、電磁波のエネルギーは高くなります。
電界とは電圧のかかった空間であり、磁界とは磁気が働いている空間です。
電磁放射線には、電離放射線と非電離放射線があります。
ようは、電離することができるものと、そうでないものです。
電離
電離とは、電子を引きはがすことをいいます。
その作用を電離作用といいます。
放射線が原子にぶつかって、電子を引きはがす作用をいいます。
粒子放射線も電離放射線です。
電離放射線と非電離放射線
電離放射線
エックス線、ガンマ線、紫外線
非電離放射線
可視光線、赤外線、電波
電磁放射線
もうちょっと詳しく電磁放射線を解説します。
どの電磁放射線も「光の速さ(真空中で3×108m/s)」で伝わります。
電磁放射線が通過する、とある地点では電界と磁界が規則正しく強弱を繰り返します。
この強弱が1秒間に何回繰り返されているかを「振動数」とか「周波数」と呼びます。
電磁放射線の速さ:c(3×108m/s)
振動数:ν(ギリシャ文字のニュー)
波長(強弱を1回繰り返す間に進む距離):λ(ギリシャ文字のラムダ)
上記とすると、、、
λ=c/ν つまり ν=c/λ と表されます。
電磁放射線のもつエネルギー(Eとする)は、振動数νに比例することがわかっています。
比例定数をhとすると、、、
E=hν と表されます。
hはプランク定数と呼ばれ、h=6.626×10-34J/sです。
よって、E=hc/λ となります。
これの意味することは、「波長が長いほどエネルギーは低い」ということです。
レンチェンさんによるエックス線の発見
ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン(Wilhelm Conrad Röntgen)さんがエックス線を発見しました!
ちなみに、英語では、レントゲンではなく、レンチェンと発音されるらしいです。
ガラス管にプラスとマイナスの電極を封じ込め、電流を流す実験中に、装置から離れたシアン化白金バリウムという物質が発光する現象を偶然発見します。
黒い紙で覆っても、厚い紙で遮っても発光したそうです。
正体不明の「線」が光らせていたのです。
ということで、これを「エックス線(X線)」と名付けましたとさ〜
偉大なる発見者に敬意を込めて、エックス線を利用することをレントゲンを取るとか言ったりします。エックス線をレントゲン線と呼ぶこともあったりしますが、正式な使用方法ではなく混同しがちなので、ちょっと微妙です。
エックス線(X線)
エックス線には、その発生原理の違いから2種類に分けられます。
制動エックス線と特性エックス線です。
制動エックス線
電子を加速して金属にぶつけると、電子が原子核の近くを通る時に原子核内の陽子のプラスの電荷に引っ張られて進路を曲げられます。
この時にエネルギーの一部を電磁波として放出する。
この電磁波が制動エックス線です。
通過する時に、エックス線を出す分だけエネルギーを失うので、ブレーキが掛かるようなイメージです。
なので、「制動」エックス線といわれます。
なお、ブレーキのかけられ方はその時によって変わりますので、色々な波長のエックス線が入り交じることになります。
*連続エネルギースペクトルをもつことになります。
特性エックス線
原子核の外を回っている電子は、いくつかの定められた軌道を回っています。
内側の軌道ほど安定しています。
放射線の影響で、内側の電子が弾き飛ばされて、空席ができると、外側を回っていた電子が空席に入り込みます。
そのときに、電磁波を放出します。
エネルギーの高い状態から、安定した低い状態に移動することになるので、差分のエネルギーを放出することになります。
この電磁波が特性エックス線です。
軌道間のエネルギーの差は明確に決まるという特性を持っていますので、「特性」なんですねー。
*線スペクトルを持つことになります。
アルファ線
ラザフォードさんが天然ウランから2種類の放射線が出ていることを発見しました。
これはアルファ線、ベータ線と名付けられました。
アルファ線は、陽子2個と中性子2個が結びついた複合粒子で、ヘリウムの原子核と同じです。
電子が2個あれば、ヘリウム原子ですが、電子が2個ありませんので、電気的にはプラスです。
陽子2個分の電荷を帯びています。
ベータ線
結論から言うと、原子核の中から放出される高速の電子の流れがベータ線の正体です。
コバルト60は放っておくと原子核から電子を放り出して、ニッケル60という別の核種に変わります。
このときに放出される電子がベータ線にほかなりません。
原子核の中では、下記のような反応を起こしています。
中性子 → 陽子 + 電子 + 反ニュートリノ
この放出される電子がベータ線です。
*反ニュートリノ(ニュートリノは中性微子とも言われます)はまた今度ご説明します。
通常は、マイナスの電荷を帯びた電子が放出されますが、特殊条件下では「プラスの電荷を帯びた陽電子」が放出されることもあります。
陽子 → 中性子 + 陽電子 + ニュートリノ
中性子は核内にとどまり、陽電子とニュートリノが放出されます。
つまり、ベータ線は厳密には、「原子核から放出される電子、または陽電子」と定義されます。
ちなみに、人工的に加速された電子は「電子線」と呼ばれます。
ガンマ線
エックス線に似た透過性の強い第三の放射線が発見され、「ガンマ線」と名付けられました。
エックス線同様、波長が短くエネルギーが高い電磁波です。
波長からは区別できません。
では、何が違うのか?
それは、発生機序の違いです。
エックス線は、制動エックス線と特性エックス線に分類されましたが、ともに原子核外起源の電磁波です。
外からの要因で発生しますが、ガンマ線はうちからの要因、つまり原子核内起源の電磁波です。
原子核が余分のエネルギーを持つと、その余分なエネルギーを核外に放り出します。
これがガンマ線です。
余分なエネルギーを持った原子核の典型的な例が放射能を持った核種(放射性核種)です。
それぞれの放射性核種が出すガンマ線はエネルギーが決まっているため、線エネルギースペクトルを示します。
逆を言うと、ガンマ線のエネルギーを計測すると、それを放出した放射性核種が推定できるのです。
中性子線
中性子はチャドウィックさんが発見しました。
原子核を構成する基本粒子としては最後に発見されましたが、電気的に中性のため発見が一番遅れたようです。
中性子が、真空中や物質中を飛んでいる時に、中性子線といいます。
具体的には、カリフォルニウム(Cf)という放射性核種は放っておくと、勝手に核が2つに分裂し、中性子がこぼれ落ちて放出されます。
これが中性子線となります。
中性子は実は不安定な素粒子です。
原子核内で、以下のような平衡状態を作りながら、絶えず変化しています。
中性子 ⇔ 陽子 + パイ中間子
パイ中間子を陽子と中性子がお互いにキャッチボールをして、陽子になったり中性子になったりをくりかえしています。
*キャッチボールによって生じる結合力を「交換力」といいます。
なんらかの原因で中性子が多くなると、
中性子 → 陽子 + 電子 + 反ニュートリノ
上記の反応が進み、核外に電子と反ニュートリノが放出されることになります。
消滅放射線
発生の仕組みが特殊な放射線をご紹介します。
原理というか、理屈では一番簡単に(表面上の)理解ができます。
電子、陽電子の2つは電気的には真逆です。
この2つが合体すると、ともに物質として消失します。
そして、2本の電磁波が発生することになります。
特殊相対性理論において、質量がエネルギーに変わるという単純な図式ですね。
プラスとマイナスでゼロというのもイメージが湧きやすいと思います。
電子 + 陽電子 → 0.511MeVの2本の電磁波(正反対の方向に放射される)
この電磁波はエックス線、ガンマ線と全く同じ性質を有し、「消滅放射線」と呼ばれます。