原子と原子核
ここでは、原子と原子核についてお話します。
高校の物理、あるいは化学の基本中の基本ですが、既習者の方も、ぜひ確認のため御一読ください。
わたしの個人的な印象として、物理がだんだん苦手になっていく人が多かったです。力学は目に見え想像できますが、波動、原子と進むにしたがって、目に見えないものの比率が増します。ある程度イメージが大事になってきます。加えて、高校の在学中に原子分野まで学習が終わらない学校なんかもあったようです。
目に見えないもの、イメージがわかないものは、わからない、難しい原因の一つではないでしょうか?
残念ながら当サイトでは、なるべく文字だけで表現するような試みをしていますが、ネットで画像や動画などを検索して、なるべく可視化して勉強すると良いかもしれませんね。
原子という言葉
原子を英語で atom と言います。
日本語発音だと、アトム ですね。
語源としては、「ATOMOΣ(アトモス)」というギリシャ語です。
A(=not)という否定の接頭語 + TOMOΣ(=cut)切るという意味。
つまり、これ以上「分割できない」という意味です。
デモクリトスらによって、定義?されたものですが、近代にドルトンが正式に名称としてアトムと名付けたようです。
近代原子論では、物質は色々な種類の基本粒子(原子)が結びついてできていると考えました。
現代では、さらに原子核や電子などに細分化されていることがわかっています。
原子
自然界には一番軽い水素原子(H)から一番重いウラン(U)まで90種類の原子があります。
この世に存在するものは、これらの原子が色々な組み合わせで結びついてできています。
原子には、名前(原子名)がつけられ、記号(原子記号)も作られています。
原子の構造
原子の中心にはプラスに電気を帯びた核があり、そのまわりをマイナスの電気を帯びた電子が回っているというのが基本構造です。
普通の原子では、プラスとマイナスが打ち消しあり、全体として中性を保っています。
原子の大きさ:直径 1000万分の1〜1億分の1cm
原子核の大きさ:直径 1兆分の1〜10兆分の1cm(全体の10万分の1)
電子の大きさ:半径 2.8179403262(13)×10−15 m
*電子のみ半径、m単位になってるので注意。
*仮に球形とみなした場合の直径や半径での表現です。
原子核と電子
原子は、原子核と電子で成り立っています。
原子核はさらに、陽子と中性子という2種類の粒子で成り立っています。
陽子と中性子を総称して「核子(かくし)」と言います。
電子は原子核の周りを衛星のように周り、原子を構成します。
陽子
陽子は英語で proton と呼ばれ、「p」と表記されます。
普通の原子では、陽子はプラスの電気を帯びていて、電子の数と同数存在します。そのため、原子全体で見るとプラスマイナスで相殺されて電気的に中性となります。
中性子
中性子は、その名の通り電気的に中性です。
原子核に含まれている中性子の数は、同じ原子でも同数とは限りません。
中性子の英語名は neutron で、「n」と表記されます。
中性子は陽子よりもやや重いです(質量で0.14%ほど)。
電子
電子は英語で electron で、表記は[e]です。
陽子の質量を1としたときに、電子の質量は0.00054(1839分の1)しかない。
原子番号
原子の性質は、その原子が他の原子とどのような化学反応性を示すかによって特徴づけられます。
化学反応
化学反応とは、1種あるいは2種以上の物質が反応し、元と異なる種類の物質を生成すること、あるいはその過程を言います。
反応は原子と原子の結合ですが、その結合とは原子と原子の間での電子のやり取りによってなされます。
原子番号
原子の電子の数は、陽子の数と同じです。
化学反応や原子の性質に重要な電子の数は、陽子の数と同じのため、陽子の数が非常に重要となります。
そこで、陽子の数=原子番号 として、原子の性質を示すものとして原子番号と呼んでます。
原子番号は英語で atomic number と言い、「Z」という記号で表記されます。
原子番号は1〜92まであります。
自然界に存在するのは90種類ですので、2個差があります。
これは、43番テクネチウム(Tc)、61番プロメチウム(Pm)が自然界に存在しないからです。
自然界には存在しませんが、人工的に作られ、利用されています。
*テクネチウムは「人工的な」を意味するテクネトスというギリシャ語に由来します。
*プロメチウムは蛍光灯に利用され、「火を与えたギリシャ神プロメテウス」に由来します。
元素の周期表
元素を原子番号順に整理した表を「周期表」とか、「周期律表」といいます。
元素
同じ原子番号の原子だけからなる物質は「元素」と呼ばれます。
原子は物質を構成する小さな粒子のことです。
一方で元素は原子の種類を指します。
例えば水(H2O)があった場合、構成する原子はH、H、Oの3つですが、元素はHとOの2種類といえます。
水素原子が2つ、酸素原子が1つと数えるのに比べて、元素は水素と酸素、2種類の元素が使われているという数え方をします。
ざっくりというならば、元素=種類、原子=粒子となります。
周期表
元素を、原子の重さ順に並べて表にすると、似た性質の原子が規則的に現れることに気づいた人がいます。
ロシアのメンデレーエフさんです。
この表を周期表とか周期律表とかと呼びます。
質量数
陽子と中性子の数の合計を「質量数」と呼びます。
これまでのことも含めて整理すると、
原子=原子核+電子
原子核=陽子+中性子
原子番号=陽子数=電子数
質量でいうと、
中性子≒陽子
電子×約1839=陽子
つまり、原子の質量は、ほぼ中性子+陽子とみなして良いことになります。
中性子+陽子=質量数 として、原子の質量を質量数として表します。
質量数は英語で mass number と言い、記号では「A」と表記します。
質量数の単位
質量数が質量である以上、単位は g? kg? というかというと、そうではありません。
水素原子の質量は1.674×10-24gとなります。
明らかに不便なので、相対的に評価することにしました。
質量数12の炭素原子(C)の質量を「12原子質量単位(記号:u)」とし、これを基準として他の原子の質量を相対的に表すことにしました。
言い換えると、「炭素原子の質量の12分の1を1原子質量単位(=1u)」とするとしました。
陽子 =1.007276u
中性子=1.008665u
大雑把に、どっちも1uと言えます。
なぜ炭素原子が基準なのか?
歴史的に、まず水素、次に酸素、最終的に炭素が原子量の基準になりました。炭素が選ばれた理由は、物理学と化学の原子量の定義の違いに折り合いをつけるためです。
1805年にドルトンは水素の原子量を1としました。
1860年頃、未知原子の原子量を決定するには、まず未知原子の化合物の分子量を決定し、次に元素組成比を決定するのが一般的になりました。なので、化合物を作りやすい酸素が原子量の基準になりました。
物理学では酸素-16の原子量を16と定義。
化学では酸素-16、酸素-17、酸素-18の天然同位体比の混合物の平均質量を16と定義しました。
物理学者は特定の同位体を基準とする定義が重要と考えましたが、化学者は定義を変更すると既往文献の分子量の値がずれることに難色を示しました。
1961年の応用化学連合の会議で、炭素-12の原子量を12と定義することが正式に決まりました。
新たな定義は、偶然にも絶妙に、酸素を基準にした化学原子量の定義とほぼ同じ原子量になったようです。物理学者も化学者もこの定義なら受け入れることができたのでした。
めでたしめでたし。
質量数と原子の質量
質量数=陽子数+中性子数
(A = Z + N)
原子の質量≒原子核の質量=陽子の質量×陽子数+中性子の質量×中性子数
陽子の質量(≒中性子の質量)をmとすると、
原子の質量 ≒ m×Z+m×N = m×(Z+N)= m × A
m ≒ 1.674×10-24g なので、、、
質量数Aがわかれば、原子の質量はおおよそ計算でわかることになります。
ここまでが、中学レベルのおさらいかと思いますが、文系の人や、学生からだいぶ時間経過してる人、勉強がそもそも苦手な人は、侮るなかれ!
しっかりと復習しておきましょう。
難易度があがるというほどでもないですが、ここからは放射線や放射能と少しずつ関係がある内容になってきます。
前のことがわからない状態では決して理解できない領域なので、確認しておきましょう!
同位元素(アイソトープ)
原子の種類は、原子核に含まれる陽子の数(原子番号)で決まります。
これは、同一の原子であれば、陽子の数が同一であるとも言えます。
では、中性子の数はというと、必ずしも同一ではありません。
たとえば、ウラン(U)は、陽子数は92ですが、中性子数142、143、146と3種類あります。
整理すると、下記のような表となります。
陽子数(原子番号) | 中性子数 | 質量数(陽子数+中性子数) | |
ウラン234 | 92 | 142 | 234 |
ウラン235 | 92 | 143 | 143 |
ウラン238 | 92 | 146 | 238 |
このように、陽子数が同じでも、中性子数が異なる原子同士を「同位体(アイソトープ)」あるいは「同位元素」と呼びます。
アイソトープ isotope = isos + topos
isos = ϊσος. = 同じ topos = τόπος = 場所 というギリシャ語語源から来ています。
周期表上は同じ場所に位置するからですね。
同重体(アイソバー)
同という字と、重という字から想像ができるかと思いますが、、、
質量数が同じ原子を同重体と呼びます。
陽子数が違っても中性子数が異なることがあることは説明しましたが、それによって違う原子でも質量数が同じになることがあります。
同重体(アイソバー)=isobar isoはisosで同じという意味。 barは重さという意味です。
同重体の例
原子番号19のカリウム(K)で、陽子数19 中性子数21 質量数40
原子番号18のアルゴン(Ar)で、陽子数18 中性子数22 質量数40
これらは同重体です。
核異性体(アイソマー)
陽子数も質量数も同じ、原子の種類は同じなのに、違う性質をもつものがあります。
具体的には核種の安定性が異なります。
核種の安定性(半減期)だけが違う原子同士のことを「核異性体(nuclear isomer)」と言います。
例)原子番号27 コバルト(Co)で、陽子数27 中性子数33 質量数60
半減期が 5年3ヶ月(コバルト60)
10分28秒(コバルト60m)
不安定な方には「m」をつけて区別する。
*半減期(half-life)とは、ある原子が、放射性崩壊によってその内の半分が別の核種に変化するまでにかかる時間のことを言います。
核種とその表し方
原子番号(陽子数)=Z
中性子数=N
質量数(中性子数+陽子数)=A(N+Z)
上記とすると、記号として、次のように表現できます。
*テーブルで表記処理をしてる関係で、表示ズレがあったらすみません。
A | X | |
Z | N |
原子番号Zと原子記号は1対1ですので、Zはあえて陽子数を表示したい意図がない限りは必ずしも書く必要はありません。
また、中性子数もA-Z(Xからわかる)で計算可能なので、省略可能です。
A | X | |
結果として、上記のような表記になることが一般的です。
例)
1 |
H |
12 | C | 16 | O | |||
1 | 8 | 8 |
60 |
Co |
60m | Co | 234 | U | |||
27 | 27 | 92 | 142 |
人工放射性核種
放射線と放射能については、後述でお話します。
ひとまず人工放射性核種について解説する便宜上、簡単にご説明します。
*厳密ではありませんので、ここは、ふーんと聞いておいてください。
原子を放っておくと、放射線を出して、別の原子に変わってしまうという現象があります。
これを放射性崩壊または放射性壊変、あるいは放射壊変と言います。
放射線を放出する能力があることを放射能と言います。
自然界には勝手に放射性崩壊する原子がありますが、半分崩壊するまでの期間(半減期)は長いものが多いです。
*ウラン238は45億年! カリウム40は13億年!
対して、人工の核種、つまり人工放射性核種は自然界のものと比べると短いです。(それでも数万年とか長いものもあります。)
例)コバルト60 半減期5年3ヶ月 →ニッケル60 へと放射性壊変
質量保存の法則が成立しない世界
質量保存の法則(law of conservation of mass)は、物質の総質量が保たれるという物理学および化学の法則です。
閉鎖系内で物質が移動したり、その形状が変化することはあっても質量そのものが増える(生み出される)、減る(消失する)ことがないことを意味しています。
たとえ、物質が変わったとしても、化学反応の前の質量と後の質量は等しく、総量として質量は変わらないとされています。
しかし!!!
質量保存の法則は古典力学による仮説でしかなく、今となっては自然の基本法則ではない(つまりは、成り立たない法則)ことが知られています。
特殊相対性理論における質量とエネルギーの等価性に従うように修正する必要があります。
さらに非常にエネルギーの高い系、つまり、今勉強している原子とか放射線とかの分野では、質量の保存は成り立ちません。
原子核 = 陽子 + 中性子
上記が成り立つはずですが、原子核の質量 ≠ 陽子の質量 + 中性子の質量 なのです。
原子番号の小さい原子では微差ですが、ウランの場合は、陽子や中性子1個分よりも大きい差となりますので、非常に大きいと言えます。
このように、質量保存則が成り立たない世界です。
特殊相対性理論
アインシュタインさんが提唱した特殊相対性理論を簡単にご説明します。
これは質量とエネルギーの等価性を述べた理論です。
つまり、「質量はエネルギーの塊である」といえます。
E=mc²
E:エネルギー
m:質量
c:光の速さ
アインシュタインさんの特殊相対性理論における非常に有名な式です。
「ほんのわずかな物質にも,膨大なエネルギーが秘められている」ことを意味します。 物質は非常に大きなエネルギーになることができ、また逆にエネルギーから質量を生みだすこともできます。
1円玉が約1g これを式で計算すると90兆ジュールのエネルギーとなり、長崎原爆と同等の威力となります。
結合エネルギー
と、、、いうことで、これで質量保存の法則が成り立たないことと組み合わせて考えます。
陽子と中性子を足して、原子核を構成する際に、質量の一部が消失する・・・
*この消えた質量を「質量欠損」と言います。
その質量はどこに行ったのかというと、「エネルギー」に変わったのです!
陽子と中性子が結合し、原子核となりますが、その接着に使われるエネルギーと同等マイナスのエネルギーを「結合エネルギー」と言います。
ややこしいですが、「結合しているエネルギー」ではなく、「結合をほどくのに必要なエネルギー」を結合エネルギーと呼びます。
なので、絶対値は同じですが、向きが逆ということで、マイナス表記です。
で、、、話を戻すと、質量欠損分が結合エネルギー(=f と表記)になったのです。
陽子や中性子がどのくらいしっかりと原子核として結びついているかの強度を示す指標でもあります。
小さい原子核では、そもそも質量欠損が小さく結合エネルギーは小さいです。
鉄(Fe)付近で最大となり、徐々に結合エネルギーは小さくなります。
結合エネルギーが大きいということは、単に原子核がもつエネルギーが大きい、ということではないことに注意が必要です。むしろ逆ですね。
結合エネルギーが大きいということは、核子をバラバラにするために必要なエネルギーが大きいことを意味していて、原子核が安定になっているのです。
今後勉強する反応を考えると、「反応の起きにくさ」と考え、結合エネルギーが低いものは反応させるのがチョロいと思っておくと良いでしょう。
原子核の融合反応と分裂反応
鉄(Fe)付近が結合エネルギーの最大ですから、がっちり結合しているという点で安定していると言えます。
水素やヘリウムなどの小さな原子核は大きな原子核になったほうが安定し、逆にウランなどの大きな原子核は分裂して小さな原子核になったほうが安定するということを意味します。
小さい原子核が合体して大きい原子核になることを「核融合反応」と言います。
大きい原子核が分裂して小さい原子核になることを「核分裂反応」と言います。
ウラン235に中性子をぶつけると、ぱっかーーんと核が割れて2種類の原子核に分裂します。
中性子(n)もいくつかこぼれおちます。
235U + n → 90Sr + 143Xe +3n
分裂後は質量が軽くなります。
つまり、一部がエネルギーになって質量が減るのです。
質量の差分は、結合エネルギーの差分に該当します。
なので、不安定な原子核から安定な原子核になったときの結合エネルギーの差分がエネルギーとして放出されることになります。
安定化に向かう際に結合エネルギーは増えますから、鉄(Fe)よりも小さいものの融合、大きいものの分裂の双方でエネルギー放出の反応が起きえます。
質量が軽くなった場合にエネルギーを放出、あるいは、安定化したときに放出とざっくり理解すると良いでしょう。